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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第六章 備品飛び交う校長室の怪 25

2022年05月09日 | 霊感少女 さとみ 2 第六章 備品飛び交う校長室の怪
 豆蔵は言うと、黙ってしまった。さとみも黙り込む。竜二はどうして良いのか分からず、さとみと豆蔵を交互に見ながら落ち着かない。
「……とにかく、良からぬ事の前触れって事ね……」さとみがつぶやく。「イヤだなぁ……」
「へい……」豆蔵も大きくうなずく。「あっしらには手を出せねぇのが、癪でやすよ……」
「でも、何とかしなきゃ……」さとみは言うが、肩を落とす。「出来ないかも……」
「おい、さとみちゃん」竜二が声をかけてきた。さとみはじろっと竜二を睨む。竜二は慣れているのか、平気な顔だ。「ほら、生身に話しかけられてるぜ」
 見ると、朱音としのぶがさとみの生身に話しかけていた。ぽうっとしたさとみを見て、しのぶが「心霊モード」全開の表情で、さとみの頬を右の人差し指で突ついている。
「さあ、戻って下せぇ」豆蔵が言う。「あっしは、もう少し調べてみやす」
「ええ、お願いね」
 さとみは豆蔵に言うと霊体を戻した。意識が戻ったさとみの目の前にしのぶの顔があった。しのぶはきらきらした瞳だった。
「……あっ、会長。戻って来ましたね」しのぶが言う。「知り合いの霊体さんが来てたんですか?」
「ええ、そうね……」
 さとみは言いながら、豆蔵ともう一人(さとみは竜二の名前を忘れている)を見る。しのぶもさとみの視線を追うが、見えるのは壁だけだ。豆蔵はさとみに一礼して消えた。竜二もそれを追いかけるように消える。さとみは竜二の無様さを鼻で笑う。
「……ああ、それでですね」しのぶがさとみに振り返り、ぐっと顔を近付ける。「谷山先生の知り合いって言う霊媒師さんがいるんだそうなんです!」
「そう……」さとみはしのぶの圧に押される。「で、その、霊媒師さんが、どうしたの?」
「来てくれるんだそうです!」
「来てくれる……?」さとみはつぶやき、そして、はっとした顔をする。「霊媒師さんが、学校へ来るって言うの!」
「そうですよ、会長!」しのぶはすっかり「心霊モード」だ。「霊媒師さんと会長とで、校長室を鎮めるんです!」
「……」はしゃぐしのぶを見ながら、さとみは、さっきの豆蔵の言葉を気にしていた。「でも、相手が分からないわ……」
「相手は、あの影に決まってますよ!」しのぶが言う。「でも、会長は、ことごとくあの影の攻撃を撥ねつけているじゃないですか? だから、霊媒師さんと組めば楽勝ですよ!」
「そうかしら……」
「そうに決まっています!」しのぶが自信満々に答える。「それで、今から来るんだそうです」
「え?」
「だから、その霊媒師さん」
「でも、これから授業があるのよ?」さとみは言って、一人納得したようにうなずいた。「ああ、そうか。下見ってわけね? それで、実際に行うのは後日って事でしょ?」
「谷山先生が言うには、こう言う事象は、早い解決が望ましいんだそうです」
「……どう言う事?」
「霊媒師さんが着いたら、始めるんだそうです」しのぶは言ってにやりと笑む。「会長と一緒に」
「はああああ?」
 さとみは驚いて、素っ頓狂な声を上げる。皆がさとみを見た。
「何だね、そんな声を出して。何かあったのかね?」
 坂本教頭が怪訝そうな表情でさとみに言う。さとみが豆蔵たちと話をしている間に、色々と段取りが決まったようだ。
「でも、これから授業じゃないですかぁ」さとみは文句を言う。「せっかく宿題もやって来たのにぃ……」
「あなた、教頭先生のお話を聞いていなかったのぉ?」きんきん声で谷山先生が割り込んでくる。「この事態解決が優先ですぅ。だから皆さんは出席扱いで解決に取り組むのよぉ」
「取り組むって言っても、さっきもしのぶちゃんが危なかったじゃないですか? それに……」
「それに?」坂本教頭は口籠ったさとみを見て言う。「それに何だね? はっきり言いたまえ」
「そうよぉ。はっきりと言いなさぁい」谷山先生が坂本教頭の尻馬に乗る。「もうすぐ霊媒師の片岡先生も見えられるのよぉ」
「……相手の正体が分からないままじゃ、危ないです」さとみは豆蔵の言っていた強力な怨霊の事を考えていた。「簡単には行かないと思います……」
「今さら、そう言われてもね、困るんだよ」坂本教頭は言う。また額に汗が浮かんできている。「それにだ、そう言う事は話し合っている時に言ってもらわないとだねぇ……」
「会長は、霊体さんとお話ししてたんです」しのぶが割り込む。「だから、わたしたちの話が聞こえていなかったんです」
「そうです、のぶの言う通りです」朱音も加わる。「今までだって、そう言う事がありました。会長がぽうっとした顔でいる時は(朱音は霊体の抜け出した生身のさとみに真似をする。しのぶは「わあ、そっくり!」と感激している)、霊体さんたちと話をして、色々と情報を得ているんです」
「そうです。今まで、それで幾つか解決しています!」しのぶは我が事のように胸を張る。「偉大な会長なんです!」
 朱音もしのぶに負けじと胸を張って見せた。
 と、事務員の男性が現われた。坂本教頭に一礼する。
「教頭先生、お客さんがお見えです」
「あらぁ、もういらしたのぉ?」谷山先生がうきうきした顔を坂本教頭に向ける。「教頭先生、片岡先生ですわぁ! 片岡修二郎先生!」
「……あのぅ」はしゃぐ谷山先生を不思議そうに見ながら事務員が言う。「男性じゃありませんが……」
「え?」谷山先生は驚く。「……じゃあ、誰が来たって言うんですのぉ?」
「あの、若い女性で……」事務員は言うと振り返る。「あちらの方で……」
 廊下の角から姿を現わしたのは、百合恵だった。


つづく


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