お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

妖魔始末人 朧 妖介  54

2009年12月09日 | 朧 妖介(全87話完結)
「妖介、いつもと違うね!」
 小走りに妖介の前に出て立ち止まると、エリは後ろ手をして上体を屈め、憮然としている妖介の顔を覗き込んだ。妖介はエリを避けて進もうとする。しかし、素早くエリが立ちはだかった。
「どう言うつもりだ?」
「だって、ユウジにあんな子供地味た事するんだもん」
 エリはユウジが突然漏らし出し、それが止まらなくなった事を言っていた。
「あれか・・・」
「いつもなら、足や腕くらい使い物にならなくしたじゃない?」  
 妖介は思うだけで、相手をどうにでも出来る力を持っている。エリはそれを言っているのだ。
「あの馬鹿には、そんな価値も無い」妖介は犬歯を剥き出した。「それに、妖魔の見えないヤツを責めても仕方ない」
「まあ、そうね」エリは振り返った。ユウジの泣き喚き声が聞こえなくなったからだ。「・・・許してやったの?」
「飽きただけだ」
 妖介は歩き出した。エリが駆け足で追いかける。
「ねえ、そんなに急がなきゃ、危ないわけ?」エリの息が切れている。妖介はエリを見たが、止まらなかった。「わたし、もう、ダメだあ!」
 エリは立ち止まり、しゃがみ込んだ。からだ全体が激しく上下している。妖介は仕方なく立ち止まり、舌打ちをした。
「いいの、わたしは後で行くから・・・」しゃがみ込んで、顔を伏せたままエリは右手を妖介に向かって伸ばし、先へ行くように手首を振ってみせた。「早くお姉さんを助けてあげて・・・」
 返事が無かった。エリはそっと顔を上げた。妖介はすでにいなかった。
「もうっ!」
 エリは勢いよく立ち上がると、妖介の後を追って走り出した。
 
 ・・・もう、何度満ちたら、わたしを解放してくれるの・・・ ベッドの上でうつ伏せて尻を高く上げたまま、葉子は思っていた。何度目なのか、熱い迸りがまた腹の中から全身へと激しいうねりとなって回っている。
「葉子、俺の方を向け」
 幸久の命に従い、顔を後ろに向ける。
「そうじゃない、からだごとだ」
 尻を立てたままのからだを円を描くように動かし、向きを変えた。目の前には幸久の鎮まらない猛りがあった。
「お前は喉の奥まで突っ込まれるのも好きだったな・・・」
 幸久に頭を押さえつけられ、唇に猛りを押し付けられた。葉子は口を開けた。一気に猛りが差し込まれた。息が出来なくなった。苦しさで涙が頬を伝う。呑み込めなくなった唾が口から溢れる。幸久の茂みが葉子の鼻を塞ぐ。・・・あああっ、こんな根元まで入れられているっ! でもいいのよ、幸久。わたしができることなら何でもするから! だから、わたしを嫌いにならないでぇぇ!

「あの淫乱馬鹿!」妖介は怒鳴った。「すっかり操られていやがる!」
 妖介は足を止めた。街灯の届かない闇をじっと見つめる。闇の中で、さらに暗い闇の塊が揺れた。細められた妖介の目がかっと見開かれた。
「淫乱馬鹿の匂いの誘われたのか? オレの邪魔をしに来たのか?」妖介は犬歯を覗かせた。手を背に回し『斬鬼丸』を取り出した。青白い光の刀身が伸びた。「それとも、これに刻まれに来たのか?」
 黒い闇は妖介に向かって伸び上がった。妖介は『斬鬼丸』を縦横に振るった。闇は、路面に濡れた音を立てて、四散した。すると、それぞれが伸び上がり、黒い影のまま人の形になった。
 両腕が長く、拳が路面に接している。絶えず左右に小刻みに揺れている。胸の真ん中が上下に開き、血走った巨大な白目を見せた。何もついていない黒い顔の中央が窪み、その淵を取り巻いて尖った歯が現れた。生臭い臭いが沸き立つ。
 四匹の妖魔が、長い腕を振り上げ、四方から妖介に迫った。妖介の笑みにさらに残忍さが加わった。
「仲良し四兄弟は始末される時も一緒だな!」
 妖介は『斬鬼丸』を正面の妖魔に向かって突き出した。正面の妖魔は『斬鬼丸』を避けて後ろへ飛び退いた。妖介は飛び掛る。飛び掛りながら空中で向きを変え、着地の時には三匹の妖魔と相対した。そのまま三匹の中へ飛び込みながら『斬鬼丸』を一閃させた。それから後方へ跳躍し、脇から『斬鬼丸』を繰り出した。先に三匹が霧散した。妖介の背後で刺し貫かれた妖魔は、その長い腕で妖介のからだを締めた。
「無理をするな・・・」妖介は馬鹿にした口調で言った。「さっさと消えろ。兄弟が待ってるぜ」
 四匹目の妖魔が雄叫びを上げながら霧散した。『斬鬼丸』の刀身が消えた。
「妖介ぇ!」
 エリが駆け寄って来た。妖介の前で立ち止まり、肩を大きく上下させながら、頬を膨らませ、怒った表情を作った。
「もうっ! 置いていかないで・・・」不意に言葉を切り、エリは鼻をひくつかせた。「妖魔!」
「そうだ。あの馬鹿女の狂態に悦んでいやがる様だな」妖介は忌々しそうに言った。「敵対する者の惑いは、最高の悦びのひとつだからな。あちこちから沸いて出て来ている・・・」
 妖介は先の闇を見つめた。
 闇に浮かぶ大小無数の血走った白目が、妖介とエリに向けられていた。
「あれ、全部始末するの?」エリは指差しながら、心配そうな声を出す。「お姉さん救助、間に合うかなあ・・・」
「それは分からない」妖介は再び『斬鬼丸』から刀身を立てた。それから、残忍な笑みをエリに向けた。「・・・間に合わなければ、オレが始末する」


      つづく






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