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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 39

2022年07月01日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
「わああっ! みんなぁ!」
 さとみは歓喜の悲鳴を上げ、豆蔵たちに駈け寄った。豆蔵たちはさとみを囲む。さとみは一人一人の顔を確認するように見る。涙が溢れた。
「ははは、相変わらず、さとみ殿は泣き虫さんですね」
 みつが言う。
「そうではありませんわ。さとみ様は感受性が高いのですわ」
 冨美代が言う。
「まあ、元気そうでよかったわ」
 虎之助が言う。
「嬢様、御無事で……」
 豆蔵が言う。
「うん…… みんな大丈夫で良かった…… いなくなっちゃったって思っていたから……」
「たしかに、もうダメかと思いました」みつがうなずく。「ですが、気がついたら、座敷牢のような所にいました。豆蔵さんと虎之助さんが先にいて、わたしと同じくらいに冨美代殿もやってきました」
「みんなで押し込まれちゃってさ、出入り口も無いんだもの、まいったわ」虎之助が言う。「牢屋は木枠だったから、蹴っ飛ばしたり殴ったりしたんだけど、びくともしないのよね」
「わたしも刀で断ち割ってみたのですが、すぐに元に戻ってしまって……」みつが悔しそうに言う。「まだまだ修行が足りませんね」
「いいえ、みつ様は幾度もお試しなさったではございませんか」冨美代がぽっと頬を染める。「試練に負けずの挑むお姿、何とも凛々しゅうございましたわ……」
「まあ、そんなこんなでしたがね……」豆蔵が割って入る。「今、こうして、嬢様や百合恵さん、片岡さん、それに、お婆様方にまたお会いできてほっとしておりやす」
「嬉しい事を言ってくれるねぇ」静が近付いてきた。それから、しげしげと豆蔵を見る。「あんた、なかなか良い男じゃないか。精悍な感じが良いねぇ……」
 静の言葉に、珠子と富はうんざりとした顔をして互いを見合う。
「え? へい、畏れ入りやす……」豆蔵は困った顔で返事をし、百合恵を見た。しかし、百合恵は怪訝な表情を浮かべている。「……百合恵姐さん、何かありやしたかい?」
「うん、ちょっとね……」百合恵は答える。「あのさ、竜二はどうしたんだい?」
「竜二さん、でやすか……」
 豆蔵は言うと、みつ、冨美代、虎之助と順に顔を見る。皆、首を横に振る。
「そう言えば、竜二さんは一緒には居ませんでした……」みつが答える。隣で冨美代がうなずく。「あの、竜二さんがどうかなさったんですか?」
「竜二ちゃん、そう言えば姿が見えないわね」虎之助の顔が曇った。「わたしはさとみちゃんたちと一緒だって思っていたわよ……」
「実はね……」静が話す。「竜二は、さゆりに捕まったんだよ。わたしの目の前でね…… 助けようとしたわたしを、巻き込まれるからって拒んでさ……」
「さゆり……?」みつが訊き返す。「それは何者ですか?」
「影が呼びだしたって言うか、蘇らせたって言うか、最後の敵よ」さとみが言う。「とっても強くって、わたしを狙っているんですって……」
「いやあああっ!」虎之助は悲鳴を上げると、頭を抱えて床に膝を突いた。「そんな…… 竜二ちゃん!」
「でも、竜二さんはわたしたちと一緒じゃなかったですわ」冨美代が言う。「わたくしたちは、影に捕らえられましたが、竜二さんはさゆりとやらに捕まった……」
「竜二ちゃん……」虎之助はがたがたと身を震わせている。「まさか、まさか……」
「虎之助さん、妙な事を考えちゃいけません!」みつが虎之助の肩に手を置いて言う。「さゆりって言うのに捕まって、わたしたちと同じように何処かへ幽閉されているのですよ」
 虎之助は、顔を上げた希望を見いだしたような表情だ。
「さいですぜ」豆蔵が言う。「決してさゆりってのに消されちまったなんて考えちゃいけねぇ」
 虎之助は顔を手で覆って泣き出した。
 ……うわあ、豆蔵、思いっ切り言っちゃったぁ。さとみは思った。そして、百合恵に言われるまで、竜二の事を思い出さなかったことにも気がついた。
「ぴいぴいうるさいわねぇ……」
 突然、小馬鹿にした声がした。皆は声の方を見た。赤いセーラー服のユリアが立っていた。その後ろに辰が太い腕を組んで立っている。
「何しに湧いてきやがったんだい!」
 静がずいっと前に出て啖呵を切る。珠子と富は静と並んだ。
 その背後で、豆蔵たちはさとみを守るように囲んだ。豆蔵は懐に石礫を握り、みつは刀を抜き中段に構え、冨美代はどこからか薙刀を取り出して上段に構えた。泣いていた虎の助も立ち上がった。
「おやおや、大した守りねぇ。でも、『枯れ木も山のにぎわい』って感じだけどね」ユリアは笑む。「ははは、大事な大事なさとみちゃんってわけか。箱入り娘って言うヤツね」
 さとみはむっとして前に出ようとする。それを察したみつが背中をさとみの正面に据える。
「さとみ殿、動いてはいけませんぞ」みつが背中越しに言う。「あ奴ら、尋常ではない強さを持っています……」
「でも……」
「さとちゃんはわたしたちの最後の希望なんだからね」冨が振り返って言う。「あんな連中の言葉になんか惑わされちゃいけないよ」
「何だか、人聞きの悪い事ばっかり言うんだね」ユリアが言う。「でもさ、わたしたちが姿を見せたって事はさ、それなりの理由がるんだよね」
「その前に、だ」
 辰は言うと、あちこちで倒れているマハラジャ四兄弟を一人一人見て回った。豆蔵たちが身構えている中、平然と歩き回っている。
「どいつもこいつも使えねぇヤツらだ……」
 辰は言うと、両腕を上げ、勢いよく振り下ろした。左右の手の先から二つずつ、黒い霧の塊のようなものが打ち出された。それぞれが倒れているマハラジャ四兄弟へと当たった。霧はあっという間に兄弟たちを包んだ。辰はそれを見届ける。
「ふんっ!」
 辰は気合を入れた。途端に霧が弾け飛んだ。そして、四兄弟の姿も消えていた。
「辰、やるじゃない」ユリアは楽しそうに言い、静を見る。「使えないヤツは処分、これは当然ね」
「じゃあ、竜二は……」静が言う。「まさか、本当に……」
「さあね。捕まえたのはさゆりだったから、わたしは知らないわ」ユリアは笑む。笑顔は可愛い。「確かめたかったら、さゆりに会えばいいんじゃない? あ、もちろん、さとみお嬢様自身がね」
 ユリアは言うと声を上げて笑った。そして、笑い声を残したまま、辰と共に姿を消した。
 さとみは怒った顔で、握り拳を作って立っている。
 

つづく


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