さとみは両腕をだらりと下げ、足の動かないままの姿で、微笑みながらわざとゆっくりと近づいて来るミツルから目が逸らせなかった。
「ふふふ…… 娘の若々しさと言うのは、傍から見ていても良いものだね」ミツルは言う。「それに触れると言うのは、まさに極上だね……」
声を出して拒絶できないさとみは、頭を幾度も左右に振る。ミツルの足が止まる。
「おや? イヤなのかな?」ミツルは楽しそうに言う。「イヤならそれで構わないけど、さとみちゃんの霊体はもう生身には戻れないよ。さっきよりも苦しくなって来ただろう?」
確かにそうだった。このままが続けば、さとみの生身は何の反応も無いまま生きるだけになってしまう。しかも霊体が無いので、それほど長くは命を保てない。砂時計の砂が下に落ちて行くようにして命が尽きてしまう。そうなれば、さとみの霊体は帰る場所を失い、彷徨い続ける事になる。このままでは、このミツルのコレクションルームに永遠に閉じ込められてしまう事になるのだ。
「どうだい? 自分の生身に帰りたいだろう?」ミツルは笑む。「言う事を聞いてくれれば、すぐに帰してあげるよ」
それでも、さとみは頭を左右に振って拒絶を示す。ミツルの顔から笑みが消えた。
「どうしてだい? ちょっと言う事を聞いてくれれば済むだけなんだよ? みつを見れば分かるだろう? 彼女は悦びを得ているだろう? さとみちゃんもそうなるんだよ」
……嘘だ! みつさんはあなたに何かされたんだわ! あんな姿、みつさんじゃない! さとみは叫ぼうとするが、ひゅうひゅうと息漏れの音しか出せなかった。
「それに、言う事を聞いてくれれば、声も出せるようになるし、手も足も動かせるようになる」ミツルはじっとさとみを見つめる。「わたしがその気になれば、さとみちゃんを全く身動き出来なくする事だって可能だよ。それをしないのは、さとみちゃん自らに従ってほしいからさ。……みつは言う事を聞かなくってね、ちょっと呪を掛けなければならなかった」
……やっぱり! みつさんが自分からあんな事をされるのを許すわけないわ! あなたは嫌われているのよ! さとみは思った。思った事が顔に出たらしい。ミツルがむっとした顔になった。
「さとみちゃん…… わたしがみつに嫌われたと思ったようだね。だがね、最初はみつが許したのだよ。そう、仲間を助けようなんて思ったせいでね。殊勝な女性だ。殊勝過ぎてわたしの方が一方的に惚れたよ。そうなると、惚れた物を手にしたいと思うだろう?」
さとみは呆れた顔をする。言っている事が我儘で自己中心過ぎて着いて行けなかった。
「まあ、良いさ」ミツルは笑む。「とにかく、さとみちゃん、君を頂くよ」
……ダメ! わたしはそう言う事をしちゃダメなのよ! 百合恵さんが言っていたわ! そう言う事になっちゃったら、もう霊を助けることが出来なくなっやう! みつさんや豆蔵に会えなくなっちゃう(無意識に竜二は抜かしている)! それに、お婆ちゃんとも会えなくなっやう! イヤだ、イヤだ、イヤだぁ!
「ふふふ……」
ミツルはさとみの目の前に立つ。すっと右手をさとみの頬に伸ばす。さとみの頬に冷たい指先が触れた。
「思った通り、若い肌は素敵だね……」ミツルは頬の指を動かし、さとみの唇を撫でる。さとみに背に悪寒が走る。「ふむ、思った以上に柔らかいね。これは奪い甲斐がある……」
ミツルはゆっくりと顔を近付けてくる。さとみは目を閉じようとする。が、それが出来ない。ミツルは意味有り気に笑む。目が閉じられないように呪を掛けられたのだろう。
「良いねぇ……」ミツルも目を開けたままでいる。「今、さとみちゃんの目が宿している恐怖と屈辱の光りが、すぐに恍惚と恥じらいに変わるんだよ」
……イヤだ! イヤだ! イヤだぁぁぁぁ!
さとみが心の中で叫んだ瞬間、からだの中を何かが駈け抜けた。それは炎のようにさとみの全身から吹き出した。ミツルは驚いて後方へと飛び退る。
「何事だ!」
ミツルはさとみを見る。さとみの全身が黄金色になっている。輝きが増して行く。ミツルは思わず目を細めた。輝きは部屋中に行き渡った。
「天誅!」
不意に気合の籠った声がし、ミツルの腹から刀の切っ先が突き出した。ミツルは驚いた顔をしてよろよろと前へ歩いた。切っ先が抜ける。ミツルは振り返った。
両手で刀を構えたみつが、じっとミツルを見つめていた。
「みつ……」ミツルが苦しそうに呟く。それから、自嘲的な笑みを浮かべた。「ははは…… 呪が破られるとはな…… そうか、さとみちゃんか……」
ミツルはさとみに振り返る。黄金色の輝きが静かに治まった。
「みつさん!」
さとみは大きな声で言うと、みつに駈け寄った。
つづく
「ふふふ…… 娘の若々しさと言うのは、傍から見ていても良いものだね」ミツルは言う。「それに触れると言うのは、まさに極上だね……」
声を出して拒絶できないさとみは、頭を幾度も左右に振る。ミツルの足が止まる。
「おや? イヤなのかな?」ミツルは楽しそうに言う。「イヤならそれで構わないけど、さとみちゃんの霊体はもう生身には戻れないよ。さっきよりも苦しくなって来ただろう?」
確かにそうだった。このままが続けば、さとみの生身は何の反応も無いまま生きるだけになってしまう。しかも霊体が無いので、それほど長くは命を保てない。砂時計の砂が下に落ちて行くようにして命が尽きてしまう。そうなれば、さとみの霊体は帰る場所を失い、彷徨い続ける事になる。このままでは、このミツルのコレクションルームに永遠に閉じ込められてしまう事になるのだ。
「どうだい? 自分の生身に帰りたいだろう?」ミツルは笑む。「言う事を聞いてくれれば、すぐに帰してあげるよ」
それでも、さとみは頭を左右に振って拒絶を示す。ミツルの顔から笑みが消えた。
「どうしてだい? ちょっと言う事を聞いてくれれば済むだけなんだよ? みつを見れば分かるだろう? 彼女は悦びを得ているだろう? さとみちゃんもそうなるんだよ」
……嘘だ! みつさんはあなたに何かされたんだわ! あんな姿、みつさんじゃない! さとみは叫ぼうとするが、ひゅうひゅうと息漏れの音しか出せなかった。
「それに、言う事を聞いてくれれば、声も出せるようになるし、手も足も動かせるようになる」ミツルはじっとさとみを見つめる。「わたしがその気になれば、さとみちゃんを全く身動き出来なくする事だって可能だよ。それをしないのは、さとみちゃん自らに従ってほしいからさ。……みつは言う事を聞かなくってね、ちょっと呪を掛けなければならなかった」
……やっぱり! みつさんが自分からあんな事をされるのを許すわけないわ! あなたは嫌われているのよ! さとみは思った。思った事が顔に出たらしい。ミツルがむっとした顔になった。
「さとみちゃん…… わたしがみつに嫌われたと思ったようだね。だがね、最初はみつが許したのだよ。そう、仲間を助けようなんて思ったせいでね。殊勝な女性だ。殊勝過ぎてわたしの方が一方的に惚れたよ。そうなると、惚れた物を手にしたいと思うだろう?」
さとみは呆れた顔をする。言っている事が我儘で自己中心過ぎて着いて行けなかった。
「まあ、良いさ」ミツルは笑む。「とにかく、さとみちゃん、君を頂くよ」
……ダメ! わたしはそう言う事をしちゃダメなのよ! 百合恵さんが言っていたわ! そう言う事になっちゃったら、もう霊を助けることが出来なくなっやう! みつさんや豆蔵に会えなくなっちゃう(無意識に竜二は抜かしている)! それに、お婆ちゃんとも会えなくなっやう! イヤだ、イヤだ、イヤだぁ!
「ふふふ……」
ミツルはさとみの目の前に立つ。すっと右手をさとみの頬に伸ばす。さとみの頬に冷たい指先が触れた。
「思った通り、若い肌は素敵だね……」ミツルは頬の指を動かし、さとみの唇を撫でる。さとみに背に悪寒が走る。「ふむ、思った以上に柔らかいね。これは奪い甲斐がある……」
ミツルはゆっくりと顔を近付けてくる。さとみは目を閉じようとする。が、それが出来ない。ミツルは意味有り気に笑む。目が閉じられないように呪を掛けられたのだろう。
「良いねぇ……」ミツルも目を開けたままでいる。「今、さとみちゃんの目が宿している恐怖と屈辱の光りが、すぐに恍惚と恥じらいに変わるんだよ」
……イヤだ! イヤだ! イヤだぁぁぁぁ!
さとみが心の中で叫んだ瞬間、からだの中を何かが駈け抜けた。それは炎のようにさとみの全身から吹き出した。ミツルは驚いて後方へと飛び退る。
「何事だ!」
ミツルはさとみを見る。さとみの全身が黄金色になっている。輝きが増して行く。ミツルは思わず目を細めた。輝きは部屋中に行き渡った。
「天誅!」
不意に気合の籠った声がし、ミツルの腹から刀の切っ先が突き出した。ミツルは驚いた顔をしてよろよろと前へ歩いた。切っ先が抜ける。ミツルは振り返った。
両手で刀を構えたみつが、じっとミツルを見つめていた。
「みつ……」ミツルが苦しそうに呟く。それから、自嘲的な笑みを浮かべた。「ははは…… 呪が破られるとはな…… そうか、さとみちゃんか……」
ミツルはさとみに振り返る。黄金色の輝きが静かに治まった。
「みつさん!」
さとみは大きな声で言うと、みつに駈け寄った。
つづく
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