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ジェシル、ボディガードになる 154

2021年07月01日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「何よ、ハービィ? 今じゃないとダメなの?」
 ジェシルがハービィを見る。アンドロイドのハービィの表情からは、もちろん何も分からない。しかし、今すぐ話したがっているような雰囲気が漂っている。
「ハービィ、今から皆で行動をしようと言うのだよ」オーランド・ゼムも困惑している。「重要な事でないのなら、後にしてもらおうか」
「重要です。今すぐ話をしますです」ハービィは譲らない。「重要でありますのです」
「……どうしようかねぇ」オーランド・ゼムは苦笑しながらジェシルを見る。「ここまで頑ななのは初めてだよ」
「とにかく、話を聞いてみましょうよ。それから、重要かどうかを判断すれば良いわ」
「そうだな……」オーランド・ゼムはハービィを見て、ため息をついた。「彼もそろそろ終わりかねぇ……」
「じゃ、ハービィ、話してみて」ジェシルはハービィに向き直る。「でも、手短に、簡潔によ」
「分かったよ、ハニー」ハービィは答える。「オーランド・ゼム」
「何だね?」名を呼ばれ、オーランド・ゼムは怪訝な顔をする。「わざわざ名前を呼ぶとは……」
「オーランド・ゼム」ハービィはぎぎぎと音を立てながら腕を動かし、オーランド・ゼムの左肩を指差した。「その傷です」
「傷?」オーランド・ゼムは自分の左肩を上げ下げして見せる。「……ああ、ミュウミュウのおかげで痛みは無いよ」
「傷は熱線銃のものではありませんです」
 ハービィの言葉に、皆の動きが止まった。
「ハービィ……」やっと口を開いたのはムハンマイドだった。「君に冗談を言える機能があるとは思わなかったよ……」
「わたしも驚いているよ」オーランド・ゼムは笑う。「ジェシルと知り合って、より人っぽくなったと言う訳かな?」
「待って!」ジェシルが割って入る。寛ぎかけた雰囲気が消し飛んだ。ジェシルは真剣な表情だ。「……ハービィ、それってどう言う事?」
「殺し屋が持っていた銃は熱線銃だ」
 ハービィの言葉に、皆が死体を見る。しかし、ムハンマイドとミュウミュウはすぐに顔をそむけた。
「たしかに、熱線銃だわ」ジェシルは言うと、オーランド・ゼムを見る。「ね、そうよね?」
「……ああ、そうだね」オーランド・ゼムはうなずく。「だが、それがどうだと?」
「熱線銃は傷口は」ハービィが言って、頭をジェシルに向ける。「焦げたようになるのだ」
「ああ、そう言えば、そうね」ジェシルは自分の腹部を見る。殺し屋に撃たれた跡が、黒く焦げたままになっている。「制服が台無しになっちゃったわ」
「アーセルの傷も、それと同じだった」
「言われてみれば、そうだったわ!」ジェシルは言う。「後で確認した方が良いわね(この言葉にムハンマイドはイヤな顔をする)」
「だが、オーランド・ゼムの方の傷は貫通したような跡になっていた」
「おいおい、ハービィ」オーランド・ゼムは苦笑する。「君もそろそろガタが来たのかねぇ? そんな事を言い出すとは……」
「わがはいはミュウミュウの手当てをじっと見ていたのだ。見間違えは無い」
「……ねぇ、ミュウミュウ……」ジェシルがミュウミュウを見る。「オーランド・ゼムの肩の傷って、どうだった?」
「どうだったって言うと……?」
「焼けたようだったか、貫通していたようだったか、って話なんだけど」
「……どっちだったでしょうか……」ミュウミュウは戸惑っている。「早く傷の手当てをしなければと思っていましたので……」
「覚えていないの?」
「……はい、すみません……」
「おい、ジェシル、そんなに強く言わなくても良いじゃないか!」ムハンマイドが抗議する。「あんな中で手当てをしたんだぞ。労いこそすれ、詰問するのはお門違いというものだ」
「そうね……」ミュウミュウの肩を持つムハンマイドに少しむっとしながらも、ジェシルはうなずく。「じゃあさ、オーランド・ゼム。テーピングを外して傷を見せてよ」
「おいおい…… せっかくミュウミュウが処置してくれたんだぞ」
「またしてもらえば良いじゃないの、オーランド・ゼム」ジェシルは平然と言い、ミュウミュウを見る。「ね? それで良いわよね?」
「……はい……」ミュウミュウは小さくうなずく。「……オーランド・ゼムさん、テーピングを取っても宜しいですか?」
 皆がオーランド・ゼムを見た。すると、オーランド・ゼムは笑い出した。
「はははは! 参った、参った!」オーランド・ゼムは両手を上げて、降参のポーズを示した。「ハービィ、君の言った通りだよ。この傷は光線銃によるものだ」
「光線銃って……」ムハンマイドが驚く。「殺し屋は熱線銃を持っていたんだろう? それとも、光線銃を隠し持っていたのか?」
「そうじゃないのだよ、ムハンマイド君」オーランド・ゼムは言うと、テーブルの上の光線銃を顎で示した。「それだよ」
「え? どう言う事だ?」ムハンマイドは混乱している。「殺し屋に奪い取られたのか? いや、それなら、銃は殺し屋が持っているはずだが……」
「ムハンマイド君、落ち着きたまえ」オーランド・ゼムは笑みながら言う。「これはね、わたしが自分で撃ったのだよ」
「え?」ムハンマイドは目を丸くする。「……どうしてそんな事を?」
「何となく、同情をしてもらいたくてね」オーランド・ゼムは照れくさそうに笑う。「それに、わたしも頑張ったと思われたくってね」
「そのために、痛い思いをしたって言うのか?」ムハンマイドは頭を振る。「……分からない。ボクには、全く理解できない思考だ! どうかしているとしか思えない!」
「そう責めないでくれたまえ。あの時は、そんな気分になったのさ。殺し屋を倒した。しかし、わたしは無傷だった。ジェシルが嫌味の一つでも言って来るかもしれない。そうも思ったのだよ」
「うむ、それは何となく分かるような……」
 ムハンマイドはそこまで言って、慌てて口をつぐみ、ジェシルを見た。ジェシルは何か考え事をしているようで、オーランド・ゼムやムハンマイドの言葉を聞いていなかったようだ。しばらくして、ジェシルは顔を上げた。
「ちょっと待って。……まだ気になる事がるわ……」


つづく

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