「何だね、ジェシル。まだ話があるのかね?」オーランド・ゼムは苦笑する。「これ以上、恥をかきたくはないのだがねぇ……」
「わたしが気になっているのは……」ジェシルは、オーランド・ゼムの言葉を無視して続ける。「殺し屋の表情よ」
「表情だって?」オーランド・ゼムは首をひねる。「要点が分からないのだが……」
「驚いた顔をしているでしょう?」ジェシルは死体を指差す。オーランド・ゼムはそれを見てうなずく。「オーランド・ゼム。殺し屋が驚いたのった、どうして?」
「どうしてって…… わたしは、相手の言い値を払うと言って、油断をさせたが……」
「そうして、隙をついて撃ったって言うのね」
「そうだよ。君なら卑怯だと言うかもしれないが、わたしは命を奪われかねない状況だったのだからね。内心は必死だったのさ」
「そう……」ジェシルは言うと、改めてオーランド・ゼムを見つめる。「オーランド・ゼム。あなた、殺し屋と交渉している間、銃をどうしていたの?」
「どうとは?」
「銃を相手に向けて交渉したの?」
「ははは、そんなわけが無いだろう。面白い事を言うねぇ」
「じゃあ、銃はどうしていたの? 懐の中? 腰のホルスターの中? それともテーブルの上?」
「おいおい、何が言いたのだね? 交渉だからね、武器は持っていないとアピールするために、銃はテーブルに置いたよ」
「殺し屋もそうしたの?」
「そうだったよ。それがシンジケートの交渉の流儀でもあるのでね」
「殺し屋は、おそらく即死だったはずね。だから驚いた顔をしているのは不意を突かれたからよね? しかも、仰向けで倒れているんだから、正面から撃ったって事でしょ?」
「そうだな」
「オーランド・ゼム、あなたは殺し屋以上に早撃ちなのね」
「ははは、ずっと機会を窺っていたからね。それに、すっかりわたしを信用したから、隙が出来やすかったのさ」
「だけど、殺し屋も銃を握りしめていたわ。もし、銃をテーブルに置いて、油断していて、隙があったのなら、銃なんて持てないと思うのよね。仮に銃に手の伸ばしたとしても、ここまでしっかりとは握れないわ」
「おい、ジェシル」ムハンマイドが口を挟む。「君は何が言いたいんだ? オーランド・ゼムは隙を窺っていた。殺し屋より早く銃をつかんだ。殺し屋も慌てて銃をつかんだが、オーランド・ゼムの方が引き金を引くのが早かった。それで説明は付くだろう? それじゃダメなのか?」
「ダメね」ジェシルはあっさりと言う。「オーランド・ゼムの手に馴染んでいる銃なら、あり得るかもしれないわ。でも、この光線銃はアーセルの銃だったのよ。それも、さっきわたしが渡したものだわ。それに比べて、殺し屋は銃なんてからだの一部になっているものよ。しかもプロなのよ? 交渉するからって、すっかり油断をするわけないわ。万が一の交渉決裂に備えているわ」
「じゃあ、どうだって言うんだ?」ムハンマイドがやや喧嘩腰で言う。「ジェシル、君の言いたい事が、ますます分からないな。それに、オーランド・ゼムは自分で肩を撃ったって言っていただろう? その際に殺し屋に銃を持たせたんだよ。撃ち合いをしたように見せるためにね。ほら、さっきも頑張ったと思われたいなんて言っていたじゃないか? その一環だよ」
「実はそうなのだよ」オーランド・ゼムは申し訳なさそうに言う。「頑張ったって思ってもらいたくてね……」
「でも、あまりにも無駄な事だわ」
「でも、ジェシル、オーランド・ゼム本人が言っているんだぞ?」ムハンマイドが言う。「それにだ、君の話は君の憶測でしかないのだぞ!」
「そうは言うけど、わたしは納得できないわ……」ジェシルは言ってから、はっとする。「待って! 仮に、殺し屋とオーランド・ゼムが知り合いだったとしたら、どう? 不意を突くなんて容易だわ。それに、殺し屋の驚いた顔も納得できる。……裏切られた、って感じでね」
「ジェシル!」ムハンマイドが声を荒げる。「じゃあ、君は、リタとアーセルの殺しに、オーランド・ゼムが関係しているとでも言うのか!」
「そうだよ、ジェシル」オーランド・ゼムは苦笑する。「二人とも友人であり、恋人だったのだよ」
「わたし、ずっと疑問だったのよね」ジェシルはつぶやく。「シンジケートを潰すなんて本当に出来るのかしらって。しかも、情報がシンジケートに漏れまくっているし。あまりにも杜撰よね。これって、情報が漏れていると言うよりも、漏らしているってレベルだわ」
「ジェシル、それだって、君の憶測だろう?」ムハンマイドが言う。「確たる証拠が無い」
「宇宙パトロールに入りたての頃、ベン・ダッケン教官に言われたわ」ジェシルはムハンマイドを見る。「『話はヘソで聞け』ってね。ヘソが文句を言うのが分かれば使い物になるそうよ」
「で、へそが文句を言っているって言うのか?」
「そうよ。文句を言いっ放しだわ!」
「ははは、信用が無いのだねぇ。悲しいものだ……」オーランド・ゼムは言うと、立ち上がった。「……だがね、ジェシル、君は、間違ってはいないよ」
ジェシルは、オーランド・ゼムの表情が変わったのを察し、腰の熱線銃を抜こうと右手を動かした。が、その手首を強い力で握られた。そして、後ろ手に捩じ上げられた。苦痛に顔をしかめながらも、ジェシルは後ろを振り向こうとする。
「ふふふ、元気な捜査官ね……」
「ミュウミュウ!」
ジェシルは驚きの声を発した。
つづく
「わたしが気になっているのは……」ジェシルは、オーランド・ゼムの言葉を無視して続ける。「殺し屋の表情よ」
「表情だって?」オーランド・ゼムは首をひねる。「要点が分からないのだが……」
「驚いた顔をしているでしょう?」ジェシルは死体を指差す。オーランド・ゼムはそれを見てうなずく。「オーランド・ゼム。殺し屋が驚いたのった、どうして?」
「どうしてって…… わたしは、相手の言い値を払うと言って、油断をさせたが……」
「そうして、隙をついて撃ったって言うのね」
「そうだよ。君なら卑怯だと言うかもしれないが、わたしは命を奪われかねない状況だったのだからね。内心は必死だったのさ」
「そう……」ジェシルは言うと、改めてオーランド・ゼムを見つめる。「オーランド・ゼム。あなた、殺し屋と交渉している間、銃をどうしていたの?」
「どうとは?」
「銃を相手に向けて交渉したの?」
「ははは、そんなわけが無いだろう。面白い事を言うねぇ」
「じゃあ、銃はどうしていたの? 懐の中? 腰のホルスターの中? それともテーブルの上?」
「おいおい、何が言いたのだね? 交渉だからね、武器は持っていないとアピールするために、銃はテーブルに置いたよ」
「殺し屋もそうしたの?」
「そうだったよ。それがシンジケートの交渉の流儀でもあるのでね」
「殺し屋は、おそらく即死だったはずね。だから驚いた顔をしているのは不意を突かれたからよね? しかも、仰向けで倒れているんだから、正面から撃ったって事でしょ?」
「そうだな」
「オーランド・ゼム、あなたは殺し屋以上に早撃ちなのね」
「ははは、ずっと機会を窺っていたからね。それに、すっかりわたしを信用したから、隙が出来やすかったのさ」
「だけど、殺し屋も銃を握りしめていたわ。もし、銃をテーブルに置いて、油断していて、隙があったのなら、銃なんて持てないと思うのよね。仮に銃に手の伸ばしたとしても、ここまでしっかりとは握れないわ」
「おい、ジェシル」ムハンマイドが口を挟む。「君は何が言いたいんだ? オーランド・ゼムは隙を窺っていた。殺し屋より早く銃をつかんだ。殺し屋も慌てて銃をつかんだが、オーランド・ゼムの方が引き金を引くのが早かった。それで説明は付くだろう? それじゃダメなのか?」
「ダメね」ジェシルはあっさりと言う。「オーランド・ゼムの手に馴染んでいる銃なら、あり得るかもしれないわ。でも、この光線銃はアーセルの銃だったのよ。それも、さっきわたしが渡したものだわ。それに比べて、殺し屋は銃なんてからだの一部になっているものよ。しかもプロなのよ? 交渉するからって、すっかり油断をするわけないわ。万が一の交渉決裂に備えているわ」
「じゃあ、どうだって言うんだ?」ムハンマイドがやや喧嘩腰で言う。「ジェシル、君の言いたい事が、ますます分からないな。それに、オーランド・ゼムは自分で肩を撃ったって言っていただろう? その際に殺し屋に銃を持たせたんだよ。撃ち合いをしたように見せるためにね。ほら、さっきも頑張ったと思われたいなんて言っていたじゃないか? その一環だよ」
「実はそうなのだよ」オーランド・ゼムは申し訳なさそうに言う。「頑張ったって思ってもらいたくてね……」
「でも、あまりにも無駄な事だわ」
「でも、ジェシル、オーランド・ゼム本人が言っているんだぞ?」ムハンマイドが言う。「それにだ、君の話は君の憶測でしかないのだぞ!」
「そうは言うけど、わたしは納得できないわ……」ジェシルは言ってから、はっとする。「待って! 仮に、殺し屋とオーランド・ゼムが知り合いだったとしたら、どう? 不意を突くなんて容易だわ。それに、殺し屋の驚いた顔も納得できる。……裏切られた、って感じでね」
「ジェシル!」ムハンマイドが声を荒げる。「じゃあ、君は、リタとアーセルの殺しに、オーランド・ゼムが関係しているとでも言うのか!」
「そうだよ、ジェシル」オーランド・ゼムは苦笑する。「二人とも友人であり、恋人だったのだよ」
「わたし、ずっと疑問だったのよね」ジェシルはつぶやく。「シンジケートを潰すなんて本当に出来るのかしらって。しかも、情報がシンジケートに漏れまくっているし。あまりにも杜撰よね。これって、情報が漏れていると言うよりも、漏らしているってレベルだわ」
「ジェシル、それだって、君の憶測だろう?」ムハンマイドが言う。「確たる証拠が無い」
「宇宙パトロールに入りたての頃、ベン・ダッケン教官に言われたわ」ジェシルはムハンマイドを見る。「『話はヘソで聞け』ってね。ヘソが文句を言うのが分かれば使い物になるそうよ」
「で、へそが文句を言っているって言うのか?」
「そうよ。文句を言いっ放しだわ!」
「ははは、信用が無いのだねぇ。悲しいものだ……」オーランド・ゼムは言うと、立ち上がった。「……だがね、ジェシル、君は、間違ってはいないよ」
ジェシルは、オーランド・ゼムの表情が変わったのを察し、腰の熱線銃を抜こうと右手を動かした。が、その手首を強い力で握られた。そして、後ろ手に捩じ上げられた。苦痛に顔をしかめながらも、ジェシルは後ろを振り向こうとする。
「ふふふ、元気な捜査官ね……」
「ミュウミュウ!」
ジェシルは驚きの声を発した。
つづく
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