お話

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霊感少女 さとみ 番外編 3

2019年05月11日 | 霊感少女 さとみ 番外編(全32話完結)
「……ってことなんだよ、おみっちゃん」
 竜二がみつに事の次第を話して聞かせた。みつは公園で剣の修業中だった。
 おみっちゃんと軽々しく呼ばれることに少なからず腹を立てているものの、竜二がいつになく真剣な顔で話しているので、一旦、刀を納めて、じっと聞いていたみつだった。
「……で、豆蔵さんは?」
「ショックだったみたいでさ、『ちょいと旅に出てきやす』なんて言って、消えちゃったんだよ、おみっちゃん」
「そうですか……」言い終えると、みつは納めた刀を抜き、すっと上段に構えた。「さとみ殿が……」
 びゅん! と風切音を立てみつは刀を振り下ろした。
「しかし、わたしには考えられないことですね(びゅん!)。あの情に厚いさとみ殿が(びゅん!)」
 不意にみつの刀が止まった。上段の構えのままで顔を竜二に向ける。
「さとみ殿に会ったのは、学校の帰り道でしたね」
「そうだよ、おみっちゃん」
「なるほど……(びゅん!) では答えは一つです(びゅん!)」
「何だい? おみっちゃん?」
「さとみ殿は(びゅん!)、おそらく(びゅん! びゅん!)、考えごとをしていたのです(びゅん! びゅん! びゅん!)」
「考えごとだって? おみっちゃん?」
「そうです(びゅん! びゅん! びゅん!)。それ以外は考えられませんね(びゅん! びゅん! びゅん!)」
「どうしてそう思うんだい? おみっちゃん?」
 みつの手が上段の構えのままで止まる。正面に向けていた顔を再び竜二に向けた。おみっちゃんなんて気安く呼ばないで欲しいとは思う。思うが、決して悪気は無いはずだと、自制を働かせるみつだった。
「……どうして、そう思うかと言うと……」みつは努めて平静な表情を作る。「わたしにも、そう言うことがあるからです」 
「はあ……」
 合点が行かない顔をしている竜二だった。その顔を見ると、握っている刀の束に力が加わって行くのを自覚するみつだった。
「……いいですか、竜二さん」みつは刀を納めた。そうすることで、湧き上がる殺気を抑えた。「人と言うものは、何かを一心に考えていると、周りが見えなくなるものなのです」
「そんなもんなのかい? おみっちゃん?」
「……わたしも、新たな剣技を考えていると、周りどころか、日数までも見えなくなるのです。気がついたら数週間経っていたこともありますよ」
「でもさ、そりゃ、おみっちゃんだからじゃないかなぁ。なんたって、あのさとみちゃんだぜ? 何を考えるって言うんだい?」
「竜二さん……」みつの手が無意識に束にかかった。「人は考えねば、一時として過ごすことなど出来ないのです」
「オレは、そんなことないけどなぁ……」竜二はぽりぽりと頭をかく。「生きている時も、今でも……」
「それは!」みつが刀を抜いた。上段に構えて竜二を見据える。「存在自体が無用と言うことに等しいのですよ!」
 みつは刀を振り下ろした。特大な風切音がし、刀の切っ先が竜二の鼻先ぎりぎりで止まっていた。竜二は寄り目になって、公園の街灯に鈍く光る切っ先を見つめている。
「……さすがはおみっちゃんだ!」竜二はにこにこ笑って手を叩いた。「これって、新しい剣技ってヤツなのかい?」
「……まだまだ修業が足りない……」みつはつぶやくと刀を納めた。そして、気を取り直して続けた。「さとみ殿は今は家でくつろいでいる時間でしょう。となれば、考えごとはしていないはずです」
「じゃあ、今度はしっかりと気づいてくれるってことだね!」
「そう思います」
「さすが、おみっちゃん!」竜二は大きくうなずく。「じゃあ、おみっちゃんもさとみちゃんの所へ行ってみようよ。オレだけだと、わざと知らん顔するからさ」
「あの…… 竜二さん……」みつが拳をぎゅっと握った。「……その『おみっちゃん』との言い方、やめてもらえませんか? それではまるで下町の小娘。わたしは剣に全てを捧げた剣士ですので……」
「え? ああ、そうか、そうだよね」竜二はぺこりと頭を下げた。「これからは気をつけるよ、おみっちゃん!」
 竜二は言うと、すっと姿を消した。さとみの家に向かったのだろう。
「修業! 修業! 修業!」
みつは大きな声で言い、刀を抜き、数回振り下ろしを繰り返した。やがて刀を納め、深呼吸をし、竜二の後を追った。

つづく  





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