お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 番外編 4

2019年05月12日 | 霊感少女 さとみ 番外編(全32話完結)
「まだ起きているようですね……」
「いつもは、もう寝ているんだけどなあ」
「いつも…… 毎日見に来ているんですか! それじゃ、あの、すとうかあではありませんか! もう少し見聞を広げなければダメですよ!」
「ちぇっ、おみっちゃんまで……」
 みつと竜二は、さとみの家の前で、二階にあるさとみの部屋を見上げている。通りすがりの霊体たちは、何事かと見上げながら去って行く。
「きっと、宿題とやらでもしているのでしょう」みつは、灯りがついているさとみの部屋を見ながら言う。「わたしの頃とは違い、何やら難しい学問を毎日学んでいるそうですからね」
「でもさ、さとみちゃんに勉強ってさ、おみっちゃんに花嫁修業ってくらい似合わない……わっ!」
 みつの刀が音を立てて横に払われた。竜二はひっくり返っている。みつは怒りを抑えるように目を閉じ、幾度も深呼吸を繰り返している。
「……おみっちゃん、冗談だよ、冗談……」
「冗談とは笑えるものです……」みつは落ちついたのか、刀を納めた。「それと、『おみっちゃん』はやめてとお願いしたはずです!」
「あ、ごめん、つい……」竜二はてへへと笑って立ち上がった。「それじゃ、さとみちゃんの所へ行ってみようぜ」
「ですが、もし勉強中であれば、考えごとをしているのと同じですから、気がつかないかもしれませんよ」
「その時は、朝ごはんの時に出てみるさ。いつもねぼけた顔をしているから、あれは何も考えていないはずさ」
「いつも……」みつが呆れ顔になる。「竜二さん、いいかげんにしておかないと……」
「ま、とにかく行ってみようぜ」
 竜二は言うと、ふわりと宙に浮き、二階のさとみの部屋の窓の所を漂っていた。
 みつは刀に伸ばしかけた腕を引っ込めながら「修業! 修業! 修業!」と自分に言い聞かせるようにつぶやき、宙に浮いて竜二の横に並んだ。
 窓にはカーテンがしてあった。
「これでは、様子がわかりませんね」
「じゃあ、とりあえずオレが様子を見に中に入ってみるよ」
「いえ、ダメです!」みつは行こうとする竜二の腕をつかむ。あまりの力に竜二が悲鳴を上げた。しかし、みつはかまわず続けた。「竜二さんは以前にいきなりさとみ殿の前に現われて、驚かれてしまったことがあったでしょう! 竜二さんは、いつも間が悪いのですから」
「……そうだった……」
 竜二は、姿を現わした時にさとみが裸だった時のことを思い出していた。全くの偶然だったのだが、さとみに悲鳴を上げられ、さとみの母親が金属バットを持ってやって来た。……もしオレの姿が見えていたら、あのバットで粉砕されていたに違いない。見えてなくて良かった…… 今の状況を忘れて、ほっとしてしまう竜二だった。
「じゃあ、オレが行けないってなると、おみっちゃんが一人で行くことになるけど……」
「仕方ありませんね」
「じゃ、お願いするね、おみっちゃん」
 みつは、さとみの部屋へ移る直前に、『おみっちゃん』と呼ばれたのに、それに何の違和感も反感も持たず、素直に受け入れてしまった自分に気がついた。とたんに無性に腹が立って、竜二をきっとにらみつけたが、竜二は気楽そうに手を振っている。
「修業! 修業! 修業!」
 みつは自分に言い聞かせながら、さとみの部屋へと移って行った。

つづく


コメントを投稿