「百合江さん! 楓のヤツ、撃沈しちまったよう!」
竜二がベンチに座っている百合江の前に現れて報告した。
「あら……」百合江も驚いたようだ。「……それで、みつさんは?」
「おみっちゃんは、まだだよ」
「そう……」百合江は煙草をくわえる。「じゃ、何としてでも、みつさんにはがんばってもらわないとね」
「わかった! おみっちゃんに伝えるよ!」
そう言うと竜二は消えた。
「……こうなるとは思わなかったわ。楓姐さんで行けると確信してたから……」百合江は煙を吹き出す。「こりゃあ、負けるなあ……」
そうつぶやきながら、百合江は吹き出した煙が昇って行くのを、ぼうっと見ていた。
「さあ、おみっちゃん! 百合江さんからもがんばるように言われてんだ!」竜二はみつを励ます。「もう後が無いんだ! しっかりやっておくれよう!」
「……承知……」
みつは答えると、公園の門の前を過ぎて行ったさとみたちの後を追った。楓の惨敗っぷりを目の当たりにしただけに、緊張と重圧とで、右手と右足、左手と左足が同時に出る歩き方になってしまい、カクカクしている。
「……みつ様、かなりガチガチだぜ」豆蔵が心配している。「楓ですら、かわされちまったからなぁ……」
「じゃあ、おみっちゃん、上手く行かないって言うのかい?」竜二は不安になる。「上手く行かないと、さとみちゃんとは、これっきりになっちゃうよ……」
「ま、ある程度は覚悟しておきやしょうぜ……」
みつはカクカク歩きながら考えた。……楓はどう見てもやり過ぎだった。また、己の技に溺れていた。真に策士策に溺れるだ。わたしは百合江殿から教示された技が一つあるのみ。雑念を捨て、全神経を集中すれば、活路は開けよう! ……でも、恥ずかしい……
みつは、前を歩く二人を通り越し、深呼吸を幾度か繰り返してから、おもむろに振り返った。さとみと建一の足が止まる。
つづく
竜二がベンチに座っている百合江の前に現れて報告した。
「あら……」百合江も驚いたようだ。「……それで、みつさんは?」
「おみっちゃんは、まだだよ」
「そう……」百合江は煙草をくわえる。「じゃ、何としてでも、みつさんにはがんばってもらわないとね」
「わかった! おみっちゃんに伝えるよ!」
そう言うと竜二は消えた。
「……こうなるとは思わなかったわ。楓姐さんで行けると確信してたから……」百合江は煙を吹き出す。「こりゃあ、負けるなあ……」
そうつぶやきながら、百合江は吹き出した煙が昇って行くのを、ぼうっと見ていた。
「さあ、おみっちゃん! 百合江さんからもがんばるように言われてんだ!」竜二はみつを励ます。「もう後が無いんだ! しっかりやっておくれよう!」
「……承知……」
みつは答えると、公園の門の前を過ぎて行ったさとみたちの後を追った。楓の惨敗っぷりを目の当たりにしただけに、緊張と重圧とで、右手と右足、左手と左足が同時に出る歩き方になってしまい、カクカクしている。
「……みつ様、かなりガチガチだぜ」豆蔵が心配している。「楓ですら、かわされちまったからなぁ……」
「じゃあ、おみっちゃん、上手く行かないって言うのかい?」竜二は不安になる。「上手く行かないと、さとみちゃんとは、これっきりになっちゃうよ……」
「ま、ある程度は覚悟しておきやしょうぜ……」
みつはカクカク歩きながら考えた。……楓はどう見てもやり過ぎだった。また、己の技に溺れていた。真に策士策に溺れるだ。わたしは百合江殿から教示された技が一つあるのみ。雑念を捨て、全神経を集中すれば、活路は開けよう! ……でも、恥ずかしい……
みつは、前を歩く二人を通り越し、深呼吸を幾度か繰り返してから、おもむろに振り返った。さとみと建一の足が止まる。
つづく
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