「男性がリーダーですって!」
逸子は思わず大きな声を出す。逸子は胸騒ぎがする。なんだかものすごくイヤな予感がしている。
「そのリーダーの名前って分かるかしら?」逸子はタケルに飛び掛からんばかりの勢いだ。逸子ははっと我に返る。「……いえ、その、ひょっとしてって思っちゃって……」
「ここ最近、リーダーになったようだよ。サポートにはアツコが付いているようだ」タケルは言う。「……それで、ひょっとしたらって、どう言う事?」
「それよりも、名前は分かる?」
「うん、分かるよ」
「教えてよ!」
「そう怖い顔しないでよ」タケルは逸子の表情を見ながら笑顔を見せる。しかし、逸子は笑わない。タケルは諦めたようにため息をついた。「名前は、トキタニ・ケーイチって言うんだ」
「トキタニ?」ナナが呆れたように大きな声を出す。「しかも、ケーイチ? そんな人、わたしの祖先には居ないわよ!」
「ケーイチって、お兄様の名前じゃない!」逸子も呆れたように言う。「お兄様は一緒に居るわよ」
逸子とナナは顔を見合わせた。
「逸子さん……」ナナが不安そうに言う。「新しいリーダーって……」
「ええ、間違いないわ」逸子の喉がごくりと鳴る。「……コーイチさんよ」
「おいおい、そのコーイチって言うのは誰なんだい?」タケルが割って入る。「トキタニ・ケーイチって言って、コーイチって名前じゃないんだよ」
「タケルさん、写真とか持ってない?」逸子は言う。タケルの話を聞いていないようだ。「そうすれば、はっきりとするんだけど……」
「う~ん、今は手元に無いけど……」タケルは言うと、タイムパトロール本部の方へ顔を向ける。「ぼくのオフィスに行けば有るよ」
「じゃあ、行きましょう!」逸子は言う。有無を言わせない勢いだ。「どうしても確認しなきゃならないのよ!」
「でもね、本部には関係者しか入れないんだよ」
「そんなもの、突破すればいいだけじゃない!」逸子の全身から赤いオーラが揺らめき立った。「さ、行きましょう!」
「逸子さん、落ち着いて!」車から飛び出しそうな逸子の肩にナナは手を置いて言う。「そんな事しなくても、タケルに取って来てもらえばいいんですよ」
「……あ、そうか……」逸子は言う。赤いオーラがすっと消えた。それからタケルをにらみつける。「じゃあ、早く持って来て」
「あのね、タケル……」ナナが困惑しているタケルに言う。「話をしたでしょ? もし、コーイチさんだったら、取り返すべき人って事なのよ」
「そうなんだ…… でも『ブラックタイマー』のリーダーだよ。そんな、過去の人がリーダーになるなんて……」
「きっと何か事情があるのよ」逸子が口をはさむ。「コーイチさんって、何でも請け合っちゃうから…… 前にも、同じ時間にやらなきゃいけない事を三つも抱え込んでしまって、悩んでいたことがあったから。わたしが注意すると『でも、頼まれちゃったからねぇ。頼まれるとイヤって言えないんだよなあ』なんて言ってたの。きっとこのリーダーの件も何かあったんだわ!」
「でも、まだコーイチって人と決まったわけじゃないからさ」タケルが逸子をなだめるように言う。しかし、逸子はコーイチと思い込んでいるようだ。「……わかったよ。じゃあ、これから取りに入って来るよ。……本部まで車を使うから、そうだなぁ…… あの店で待っていてくれるかな?」
タケルが示したのは「ベルザ」と看板が出ている店だった。ビルの一階に入っていて、壁全体が淡い赤で塗られ、レトロな感じの窓がいくつか通りに面して並んでいる。緑色のドアがアクセントになっている。
「ナナさん、あれって何屋さん?」逸子は言う。何だか関心が店の方に向いてしまったらしい。「可愛いお店ねぇ」
「ベルザの実と言う新種の果実をふんだんに使ったお菓子や料理を食べさせてくれる、最近流行りのお店です」ナナも店を見ながら言う。ナナも関心が店の方に行っているようだ。「ここは確か一号店だと思います」
「へ~ぇ。と言う事は老舗ね」逸子は訳の分からない事を言う。「……美味しいの?」
「はい、とっても!」ナナはきっぱりと言う。「今時の娘は、皆一度は口にしています」
「じゃあ、行きましょう!」
二人は車を降りると、先程までのコーイチの件を忘れたかのように、きゃあきゃあ言いながら店へと入って行った。
「……いつの時代も、女の子ってのは、食べ物に目が無いんだなぁ……」
タケルは苦笑しながら車を走らせた。
つづく
逸子は思わず大きな声を出す。逸子は胸騒ぎがする。なんだかものすごくイヤな予感がしている。
「そのリーダーの名前って分かるかしら?」逸子はタケルに飛び掛からんばかりの勢いだ。逸子ははっと我に返る。「……いえ、その、ひょっとしてって思っちゃって……」
「ここ最近、リーダーになったようだよ。サポートにはアツコが付いているようだ」タケルは言う。「……それで、ひょっとしたらって、どう言う事?」
「それよりも、名前は分かる?」
「うん、分かるよ」
「教えてよ!」
「そう怖い顔しないでよ」タケルは逸子の表情を見ながら笑顔を見せる。しかし、逸子は笑わない。タケルは諦めたようにため息をついた。「名前は、トキタニ・ケーイチって言うんだ」
「トキタニ?」ナナが呆れたように大きな声を出す。「しかも、ケーイチ? そんな人、わたしの祖先には居ないわよ!」
「ケーイチって、お兄様の名前じゃない!」逸子も呆れたように言う。「お兄様は一緒に居るわよ」
逸子とナナは顔を見合わせた。
「逸子さん……」ナナが不安そうに言う。「新しいリーダーって……」
「ええ、間違いないわ」逸子の喉がごくりと鳴る。「……コーイチさんよ」
「おいおい、そのコーイチって言うのは誰なんだい?」タケルが割って入る。「トキタニ・ケーイチって言って、コーイチって名前じゃないんだよ」
「タケルさん、写真とか持ってない?」逸子は言う。タケルの話を聞いていないようだ。「そうすれば、はっきりとするんだけど……」
「う~ん、今は手元に無いけど……」タケルは言うと、タイムパトロール本部の方へ顔を向ける。「ぼくのオフィスに行けば有るよ」
「じゃあ、行きましょう!」逸子は言う。有無を言わせない勢いだ。「どうしても確認しなきゃならないのよ!」
「でもね、本部には関係者しか入れないんだよ」
「そんなもの、突破すればいいだけじゃない!」逸子の全身から赤いオーラが揺らめき立った。「さ、行きましょう!」
「逸子さん、落ち着いて!」車から飛び出しそうな逸子の肩にナナは手を置いて言う。「そんな事しなくても、タケルに取って来てもらえばいいんですよ」
「……あ、そうか……」逸子は言う。赤いオーラがすっと消えた。それからタケルをにらみつける。「じゃあ、早く持って来て」
「あのね、タケル……」ナナが困惑しているタケルに言う。「話をしたでしょ? もし、コーイチさんだったら、取り返すべき人って事なのよ」
「そうなんだ…… でも『ブラックタイマー』のリーダーだよ。そんな、過去の人がリーダーになるなんて……」
「きっと何か事情があるのよ」逸子が口をはさむ。「コーイチさんって、何でも請け合っちゃうから…… 前にも、同じ時間にやらなきゃいけない事を三つも抱え込んでしまって、悩んでいたことがあったから。わたしが注意すると『でも、頼まれちゃったからねぇ。頼まれるとイヤって言えないんだよなあ』なんて言ってたの。きっとこのリーダーの件も何かあったんだわ!」
「でも、まだコーイチって人と決まったわけじゃないからさ」タケルが逸子をなだめるように言う。しかし、逸子はコーイチと思い込んでいるようだ。「……わかったよ。じゃあ、これから取りに入って来るよ。……本部まで車を使うから、そうだなぁ…… あの店で待っていてくれるかな?」
タケルが示したのは「ベルザ」と看板が出ている店だった。ビルの一階に入っていて、壁全体が淡い赤で塗られ、レトロな感じの窓がいくつか通りに面して並んでいる。緑色のドアがアクセントになっている。
「ナナさん、あれって何屋さん?」逸子は言う。何だか関心が店の方に向いてしまったらしい。「可愛いお店ねぇ」
「ベルザの実と言う新種の果実をふんだんに使ったお菓子や料理を食べさせてくれる、最近流行りのお店です」ナナも店を見ながら言う。ナナも関心が店の方に行っているようだ。「ここは確か一号店だと思います」
「へ~ぇ。と言う事は老舗ね」逸子は訳の分からない事を言う。「……美味しいの?」
「はい、とっても!」ナナはきっぱりと言う。「今時の娘は、皆一度は口にしています」
「じゃあ、行きましょう!」
二人は車を降りると、先程までのコーイチの件を忘れたかのように、きゃあきゃあ言いながら店へと入って行った。
「……いつの時代も、女の子ってのは、食べ物に目が無いんだなぁ……」
タケルは苦笑しながら車を走らせた。
つづく
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