周囲からどよめきが起こった。
上半身を起こしたコーイチは、ぼっとした表情で目の前の空間を見つめていた。時々ゆっくりとまぶたを閉じたり開けたりした。
次に口をもごもごと動かし「あーうーえーおーいー」と出来そこないの発声練習のような声を出した。
それから、よろよろと立ち上がった。足元がまだしっかりしていないコーイチは、転びそうになり、手近のものをとっさにつかんだ。それは清水のマントだった。
のろのろした動作で顔を上げた。
「清水・・・さん?」
コーイチは寝起きのようなぼんやりとした声でつぶやく様に言った。
「そうよ、コーイチ君。気分はどう?」
清水は目だけ笑っていない笑顔をコーイチに向けて言った。
「気分ですか・・・」
つぶやくように言うと、コーイチはゆるゆると頭を巡らした。逸子と洋子の顔に目が留まった。
「ああ、逸子さん、芳川さん・・・」コーイチは表情無く言った。「逸子さん・・・ 芳川さん・・・」コーイチの間が次第に大きく開き始める。「逸子さん! 芳川さん!」
コーイチは叫ぶと走り出し、二人の間に割って入った。
「いいかい! 二人とも闘いは止めよう! 僕のせいで誤解が生じてしまっているだけなんだ! だから、仲良く、仲良く、ね?」
コーイチは逸子と洋子の顔を交互に見た。嬉しそうな泣き出しそうな顔をしている。・・・あれ? 二人から殺気が消えているような・・・ どうしたんだろう・・・
「コーイチさん! もう平気なのね!」逸子は叫ぶと、コーイチの左腕にしがみついた。「よかった、よかった!」
「コーイチさん! 救急車はいらないんですね!」洋子も叫ぶと、コーイチの右腕にしがみついた。「どこも痛くないんですね?」
「え? ああ、平気だし、どこも痛くないよ・・・」左右からしがみつかれた痛さに顔をゆがめながらコーイチは答えた。「でも、取り合えず、二人とも闘いを止めてくれてよかった・・・」
「コーイチ君」いつの間にかコーイチの正面に立っていた清水が言った。「どこまで覚えているのかしら?」
「・・・どこまでって・・・」コーイチは黒目勝ちな瞳を寄り目にして考え込んだ。「・・・えーと、僕が逸子さんに誤解を与えてしまって・・・それが元で怒っちゃって・・・そこに芳川さんが現れて・・・二人のオーラが揺らめいて・・・いけない! 僕が止めなければ! と駆け出して・・・こうして二人とも闘いを止めてくれて、よかった、よかったって所ですけど・・・」
「うふふふふ・・・ 上出来ね」清水は逸子と洋子に顔を向けて言った。「薬のせいか偶然かは分からないけど、両側から蹴り挟まれた事は覚えていないようね。これを機に、二人とも大人しくなさいね」
「はーい・・・」
逸子と洋子は同時に返事をした。それが気に入らなかったのか、コーイチを間にして、互いにむっとした顔でにらみ合った。
清水は目だけ笑っていない笑顔で周囲の人たちを見回した。閉じたマントの前を再び勢いよく跳ね上げる。大きく垂れ下がった袖口から出ている白い両の手の平を胸の前で合わせ、何か口の中でぶつぶつと唱えると、パンパンと手を二度叩いた。
周囲の人たちはその音に命ぜられたかのように、あちこちに分散し、談笑を始めた。パーティのいつもの光景が戻っていた。
「さ、あなたたちも、パーティを楽しみましょう。うふふふふ・・・」
清水は言うと、会場の奥へと行ってしまった。
つづく
いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ
(来年の公演は二、三月! チケット取れるといいですね! 取れたら教えて下さいね!)
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上半身を起こしたコーイチは、ぼっとした表情で目の前の空間を見つめていた。時々ゆっくりとまぶたを閉じたり開けたりした。
次に口をもごもごと動かし「あーうーえーおーいー」と出来そこないの発声練習のような声を出した。
それから、よろよろと立ち上がった。足元がまだしっかりしていないコーイチは、転びそうになり、手近のものをとっさにつかんだ。それは清水のマントだった。
のろのろした動作で顔を上げた。
「清水・・・さん?」
コーイチは寝起きのようなぼんやりとした声でつぶやく様に言った。
「そうよ、コーイチ君。気分はどう?」
清水は目だけ笑っていない笑顔をコーイチに向けて言った。
「気分ですか・・・」
つぶやくように言うと、コーイチはゆるゆると頭を巡らした。逸子と洋子の顔に目が留まった。
「ああ、逸子さん、芳川さん・・・」コーイチは表情無く言った。「逸子さん・・・ 芳川さん・・・」コーイチの間が次第に大きく開き始める。「逸子さん! 芳川さん!」
コーイチは叫ぶと走り出し、二人の間に割って入った。
「いいかい! 二人とも闘いは止めよう! 僕のせいで誤解が生じてしまっているだけなんだ! だから、仲良く、仲良く、ね?」
コーイチは逸子と洋子の顔を交互に見た。嬉しそうな泣き出しそうな顔をしている。・・・あれ? 二人から殺気が消えているような・・・ どうしたんだろう・・・
「コーイチさん! もう平気なのね!」逸子は叫ぶと、コーイチの左腕にしがみついた。「よかった、よかった!」
「コーイチさん! 救急車はいらないんですね!」洋子も叫ぶと、コーイチの右腕にしがみついた。「どこも痛くないんですね?」
「え? ああ、平気だし、どこも痛くないよ・・・」左右からしがみつかれた痛さに顔をゆがめながらコーイチは答えた。「でも、取り合えず、二人とも闘いを止めてくれてよかった・・・」
「コーイチ君」いつの間にかコーイチの正面に立っていた清水が言った。「どこまで覚えているのかしら?」
「・・・どこまでって・・・」コーイチは黒目勝ちな瞳を寄り目にして考え込んだ。「・・・えーと、僕が逸子さんに誤解を与えてしまって・・・それが元で怒っちゃって・・・そこに芳川さんが現れて・・・二人のオーラが揺らめいて・・・いけない! 僕が止めなければ! と駆け出して・・・こうして二人とも闘いを止めてくれて、よかった、よかったって所ですけど・・・」
「うふふふふ・・・ 上出来ね」清水は逸子と洋子に顔を向けて言った。「薬のせいか偶然かは分からないけど、両側から蹴り挟まれた事は覚えていないようね。これを機に、二人とも大人しくなさいね」
「はーい・・・」
逸子と洋子は同時に返事をした。それが気に入らなかったのか、コーイチを間にして、互いにむっとした顔でにらみ合った。
清水は目だけ笑っていない笑顔で周囲の人たちを見回した。閉じたマントの前を再び勢いよく跳ね上げる。大きく垂れ下がった袖口から出ている白い両の手の平を胸の前で合わせ、何か口の中でぶつぶつと唱えると、パンパンと手を二度叩いた。
周囲の人たちはその音に命ぜられたかのように、あちこちに分散し、談笑を始めた。パーティのいつもの光景が戻っていた。
「さ、あなたたちも、パーティを楽しみましょう。うふふふふ・・・」
清水は言うと、会場の奥へと行ってしまった。
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