言うと、ぷっと頬を膨らませた。どう割り引いても不良少女には見えない。
「……あらあら、繁華街だと不良少女になっちゃうのかしら?」
さとみは頬を膨らませたまま、声のした方に向く。百合恵が座り込んだまま、笑みを浮かべていた。さとみの表情が一変した。
「百合恵さん!」さとみが駆け寄る。百合恵の前に座り込み、抱きついてわあわあ泣き始めた。「百合恵さん! 百合恵さん! わあああっ! 百合恵さんんんん!」
「まあ、泣き虫不良少女だこと……」
百合恵は言いながら、さとみの頭をなで続けている。
「百合恵殿……」みつが百合恵の横にしゃがみ込む。「おからだは無事ですか?」
「え?」泣きわめくさとみの声が大きくて聞き取れないらしい。みつはもう一度、少し大きめの声で言う。百合恵は大きく頷いた。「ええ、大丈夫よ。確かに楓の技はすごいけれど、憑りついていたお嬢ちゃんが、普通の娘だったから、大して被害は受けなかったわ」
「はあ?」今度はみつが聞き返す。さとみの泣き声がひときわ大きくなったからだ。百合恵も大きな声で言い直す。みつが大きく頷く。「そうですか。大事なくて何よりです。蹴りが入って、気を失った時にはどうしたものかと案じました」
「……ちょっと待って」
百合恵はみつに言い、それからさとみをからだから離した。さとみは驚いて泣き止んだ。涙でぐちゃぐちゃになったままで、ぽかんとした顔をしている。
百合恵とみつはその顔をじっと見つめた。
「おほほほほ!」
「わはははは!」
二人は同時に笑い出した。
「な、なんですかあ!」さとみはぷっと頬を膨らませた。気が付いた百合恵にほっとして、大怪我してないのにほっとして、楓を追い払ってほっとして、それで嬉しくなって、泣いていたのに、どうして笑われなければいけないの、さとみは思った。「二人とも、もう、知らないっ!」
「まあまあ、さとみ殿、失礼をいたしました…… ふっ、ふふふ……」みつはまだ笑いが治まらない。真顔にしようとすると、肩が震える。「とにかく、百合恵殿に大事なくて何よりですな」
「さとみちゃん……」百合恵はスカートについているポケットから、白いレース地のハンカチを取り出した。「これで涙を、顔全体を拭きなさいな…… おほほほほ……」
さとみは憮然とした顔でハンカチを受け取る。
つづく
「……あらあら、繁華街だと不良少女になっちゃうのかしら?」
さとみは頬を膨らませたまま、声のした方に向く。百合恵が座り込んだまま、笑みを浮かべていた。さとみの表情が一変した。
「百合恵さん!」さとみが駆け寄る。百合恵の前に座り込み、抱きついてわあわあ泣き始めた。「百合恵さん! 百合恵さん! わあああっ! 百合恵さんんんん!」
「まあ、泣き虫不良少女だこと……」
百合恵は言いながら、さとみの頭をなで続けている。
「百合恵殿……」みつが百合恵の横にしゃがみ込む。「おからだは無事ですか?」
「え?」泣きわめくさとみの声が大きくて聞き取れないらしい。みつはもう一度、少し大きめの声で言う。百合恵は大きく頷いた。「ええ、大丈夫よ。確かに楓の技はすごいけれど、憑りついていたお嬢ちゃんが、普通の娘だったから、大して被害は受けなかったわ」
「はあ?」今度はみつが聞き返す。さとみの泣き声がひときわ大きくなったからだ。百合恵も大きな声で言い直す。みつが大きく頷く。「そうですか。大事なくて何よりです。蹴りが入って、気を失った時にはどうしたものかと案じました」
「……ちょっと待って」
百合恵はみつに言い、それからさとみをからだから離した。さとみは驚いて泣き止んだ。涙でぐちゃぐちゃになったままで、ぽかんとした顔をしている。
百合恵とみつはその顔をじっと見つめた。
「おほほほほ!」
「わはははは!」
二人は同時に笑い出した。
「な、なんですかあ!」さとみはぷっと頬を膨らませた。気が付いた百合恵にほっとして、大怪我してないのにほっとして、楓を追い払ってほっとして、それで嬉しくなって、泣いていたのに、どうして笑われなければいけないの、さとみは思った。「二人とも、もう、知らないっ!」
「まあまあ、さとみ殿、失礼をいたしました…… ふっ、ふふふ……」みつはまだ笑いが治まらない。真顔にしようとすると、肩が震える。「とにかく、百合恵殿に大事なくて何よりですな」
「さとみちゃん……」百合恵はスカートについているポケットから、白いレース地のハンカチを取り出した。「これで涙を、顔全体を拭きなさいな…… おほほほほ……」
さとみは憮然とした顔でハンカチを受け取る。
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます