お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 85

2013年02月07日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
 二人に背中を向けて、ごしごしと顔を拭き始めた。
「……それにしても」百合恵はみつに向かって言った。「うまい具合に、そのお嬢ちゃんのからだに憑けたものねえ」
「私が憑いているとわかるとは、さすがは百合恵殿だ」みつも百合恵に顔を向ける。「何でも、このからだ、名前は麗子殿と申すそうで、憑りつき易いのだそうです。さとみ殿がそう申しておりました」
「じゃあ、さとみちゃんの提案なんだ」
 百合恵はさとみの後ろ姿を見ながら言った。みつも顔をさとみに向ける。
「はい。……あの感じでは、何度もこのような事をしたことがあるようですね」
「そう…… それで……」
 百合恵は昨夜の事を思い出した。ももをあんな目に遭わせた犯人の居所を聞き、さらにそこへ友達の麗子を誘って行く、なんて言っていたが、こう言う事だったんだ。
「さとみちゃんの事はお見通しだと思っていたけど、分からないこともあったのねえ……」
 百合恵はさとみを見ながらつぶやいた。顔を拭き終わったらしく、さとみが振り返る。ちょっと不満げな表情に百合恵を見て、また慌てて顔を拭き始めた。
「あ、さとみちゃん、もう十分にきれいになったわよ」百合恵が優しく言う。「それにしても、麗子ちゃんの事、昨日は分からなかったわ」
「あ、そうだったんですか。それは、すみませんでした……」さとみはぺこりと頭を下げた。それから、考え込むように、ぴしゃぴしゃとおでこを叩いた。やがて、大きく頷きながら言った。「わたしにとって当たり前すぎたから、きっと心にも上らなかったんだと思います」
「やはり、何度も麗子殿に……」みつが言う。「しかし、ちと危険ではないですか?」
「今まで一度も困ったことになってないから、たぶん大丈夫だと思うんだけど……」
「ですが、麗子殿も生身のからだです。ご無理をさせませぬように」
「はーい……」
 先生に注意された生徒のようだ。そんな様子に百合恵がくすくすと笑った。
「あーっ! 百合恵さん、また笑ったあ!」
「あら、ご免なさい」ぷっと頬を膨らませたさとみに百合恵は言った。「でも、楓を追い払えたのは、さとみちゃんと麗子ちゃんのおかげね」
 さとみのぷっと膨れた頬が元に戻り、今度は照れ臭そうに赤くなった。
「……では、一件落着ですので、わたしは麗子殿から離れることにいたします」みつは言い、さとみを見る。「で、どのようにすれば良いのですか?」
「ええと…… えっへん!」照れ臭さをごまかすように咳払いをして見せる。「目を閉じて、ゆっくりと一歩前に出れば、出来るはずよ」
 言われるままにみつは従った。
 不意にからだが軽くなった。振り返ると、ぽうっとした表情の麗子が立っていた。百合恵もさとみも頷いている。離れることができたようだ。
 それを見届けると、さとみは、突っ立ったままの麗子のお尻を、勢いよく平手で叩いた。
「うわっ!」
 ぽうっとした表情が消し飛び、麗子が叫んだ。叩かれたお尻を両手で押さえ、きょろきょろし、さとみを見つけると、その前にすっと立ちはだかった。
「言っとくけど、わたしは弱虫じゃないからね!」


つづく




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