葉子はすっかり諦めてキッチンへナイフとフォークを取りに行った。妖介はテレビを見ていた。よく見かけるコメンテーターが何かのテーマに関して腹を立てたようなコメントをしていた。
葉子は洗った食器を伏せておくステンレス製の水きりトレイの中に包丁を見つけた。心にふと殺意が芽生えた。この男さえ居なくなれば、わたしはまたいつもの生活に戻れるんだ・・・
妖介は背中を向けている。手が無意識に包丁に伸びた。こんな恥ずかしくてイヤな思いはもう沢山だわ!
あんなヤツ、あんなヤツ、あんなヤツ! ・・・
「おい。オレはお前をお見通しだと言ったはずだ」
背中を向けたまま、妖介が静かな声で言った。思わず包丁から手を引っ込める。気が付くと、全身に汗をかいていた。
「包丁じゃ、ベーコンエッグは食えないぜ。でか過ぎる」
葉子は慌ててナイフとフォークをキッチンの引き出しから取り出し、キッチンから逃げるように妖介の所へ戻った。
葉子は自分が信じられなかった。腹を立てるだけならまだしも、殺意を持ってしまうなんて。しかも、実行しようとしてしまうなんて・・・
テーブルにナイフとフォークを置くと、葉子の目から大粒の涙が溢れ、頬を伝った。
妖介は涙を流している葉子に、小馬鹿にしたような舌打ちをあからさまにしてみせ、フォークを取り上げ、冷めてしまったベーコンエッグに突き刺した。
「お前、今の世の中をどう思う?」
唐突に妖介が聞いてきた。葉子は涙を流したままの顔を妖介に向けた。
「聞いてるんだぜ、答えろ!」
妖介のやや銀色がかった瞳が鋭さを増した。葉子は下を向いた。
「・・・わたし、あなたを刺そうと思った。刺し殺そうと思った・・・」
弱々しい声で葉子は言った。涙がさらに溢れ出した。そして、声を荒げた。
「自分が怖い! こんな事を考えてしまう自分が恐ろしい!」
葉子はテーブルにうつ伏せ、肩を震わせながら泣き出した。
妖介はつまらなさそうな顔でしばらく葉子を見ていた。突き刺したフォークに力を入れる。
「泣いてちゃあ、答えにならないぜ」
「だって、だって・・・」葉子はうつ伏せたまま答えた。「殺してやろうなんて・・・ 確かに嫌な思いさせられたけど・・・ そんな事考えるなんて普通じゃないわ!」
不意に、妖介は葉子の髪の毛を鷲掴みに握り、力任せに持ち上げた。
葉子は痛さに悲鳴を上げながら、顔を上げた。
葉子は洋介の手を振り解いて睨みつけた。
「何するのよう!」
「そんな事で子供みたいにビービー泣くな、やかましい」妖介はからかう様な口調で言った。「それに、そう言う顔のほうが、お前には向いている」
「でも、殺してやるって思ったのよ!」
必死な顔の葉子を、妖介は鼻先で笑った。
「よく考えてみろ。お前が包丁を持って飛び込んで来ても、血の海に横たわりのた打ち回るのはお前だよ」
・・・確かにそうだ。力の差、いや、それよりも、わたしの事を全て見通せるんだから、行動に移す前に読まれてしまう、どっちにしても勝ち目はない。
妖介はテーブル越しに葉子に顔を近付けた。からかうような表情はそこには無くかった。
「いいか、それがヤツらの手なんだよ」
つづく
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葉子は洗った食器を伏せておくステンレス製の水きりトレイの中に包丁を見つけた。心にふと殺意が芽生えた。この男さえ居なくなれば、わたしはまたいつもの生活に戻れるんだ・・・
妖介は背中を向けている。手が無意識に包丁に伸びた。こんな恥ずかしくてイヤな思いはもう沢山だわ!
あんなヤツ、あんなヤツ、あんなヤツ! ・・・
「おい。オレはお前をお見通しだと言ったはずだ」
背中を向けたまま、妖介が静かな声で言った。思わず包丁から手を引っ込める。気が付くと、全身に汗をかいていた。
「包丁じゃ、ベーコンエッグは食えないぜ。でか過ぎる」
葉子は慌ててナイフとフォークをキッチンの引き出しから取り出し、キッチンから逃げるように妖介の所へ戻った。
葉子は自分が信じられなかった。腹を立てるだけならまだしも、殺意を持ってしまうなんて。しかも、実行しようとしてしまうなんて・・・
テーブルにナイフとフォークを置くと、葉子の目から大粒の涙が溢れ、頬を伝った。
妖介は涙を流している葉子に、小馬鹿にしたような舌打ちをあからさまにしてみせ、フォークを取り上げ、冷めてしまったベーコンエッグに突き刺した。
「お前、今の世の中をどう思う?」
唐突に妖介が聞いてきた。葉子は涙を流したままの顔を妖介に向けた。
「聞いてるんだぜ、答えろ!」
妖介のやや銀色がかった瞳が鋭さを増した。葉子は下を向いた。
「・・・わたし、あなたを刺そうと思った。刺し殺そうと思った・・・」
弱々しい声で葉子は言った。涙がさらに溢れ出した。そして、声を荒げた。
「自分が怖い! こんな事を考えてしまう自分が恐ろしい!」
葉子はテーブルにうつ伏せ、肩を震わせながら泣き出した。
妖介はつまらなさそうな顔でしばらく葉子を見ていた。突き刺したフォークに力を入れる。
「泣いてちゃあ、答えにならないぜ」
「だって、だって・・・」葉子はうつ伏せたまま答えた。「殺してやろうなんて・・・ 確かに嫌な思いさせられたけど・・・ そんな事考えるなんて普通じゃないわ!」
不意に、妖介は葉子の髪の毛を鷲掴みに握り、力任せに持ち上げた。
葉子は痛さに悲鳴を上げながら、顔を上げた。
葉子は洋介の手を振り解いて睨みつけた。
「何するのよう!」
「そんな事で子供みたいにビービー泣くな、やかましい」妖介はからかう様な口調で言った。「それに、そう言う顔のほうが、お前には向いている」
「でも、殺してやるって思ったのよ!」
必死な顔の葉子を、妖介は鼻先で笑った。
「よく考えてみろ。お前が包丁を持って飛び込んで来ても、血の海に横たわりのた打ち回るのはお前だよ」
・・・確かにそうだ。力の差、いや、それよりも、わたしの事を全て見通せるんだから、行動に移す前に読まれてしまう、どっちにしても勝ち目はない。
妖介はテーブル越しに葉子に顔を近付けた。からかうような表情はそこには無くかった。
「いいか、それがヤツらの手なんだよ」
つづく
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