「おやおや、これはこれは……」
林谷が目を丸くして、現われた彼女をしげしげと見つめて、つぶやいた。それからコーイチの脇腹を肘で小突いた。
「こんな可愛い彼女だとは…… コーイチ君も隅に置けないねぇ」
「え、はあ、どうも……」
コーイチはとりあえずの返事をした。
一体どういうつもりで現われたんだろう。ノートに関した何か話でもあるんだろうか。それとも、またボクをからかうつもりなんだろうか。コーイチはとびきり可愛い笑顔を振りまいている彼女を見ながら不安を感じていた。
「ところでお嬢さん、お名前を伺ってもよろしいですか?」
林谷の丁寧な問いかけに、彼女は笑顔のまま、こっくりとうなずいた。
「初めまして。わたし、コーイチ君の幼なじみの京子と言います」
「ほう、コーイチ君の幼なじみの京子さんですか」
「ええ、コーイチ君の幼なじみの京子です」
「よかったねぇ、コーイチ君。コーイチ君の幼なじみの京子さん、とても可愛い娘だねぇ」
コーイチは二人のやり取りを驚きながら見ていた。林谷さん、何か魔法にでもかかったみたいに、すっかりボクの幼なじみの京子さんのつもりになっている。
だけど、引き出しの中に居たり、「4・5」階に浮いていたりする、怪しい人だし、ひょっとしたら人間じゃないかもしれないんだ。
それに本物の京子さんは、もう少し背があれで、顔はこうで、肌の色がなにだったはずだ。
「どうしたのよ、コーイチ君!」
不意に京子に声をかけられ、肩をポンと軽く押された。
「わっ、わっ、わっ!」
その拍子に、コーイチは壁に向かって、弾き飛ばされたように走り出した。壁にぶつかる直前で何とか止まる事ができた。コーイチは肩で息をしながら振り返り、額を流れ落ちる汗を手の甲でぬぐった。……危なかった、本当に危なかった!
「おやおや、これはなんとも、逞しいと言うか、パワフルと言うか…… どっちにしても、頼もしい京子さんだ」
林谷は腕を組み、感心したように深くうなづいた。
「あらあら、ごめんなさい」
京子がペロッと舌を出して微笑んだ。……本当に危なかったんだ。だけど、だけど、やっぱり、可愛いから許す……かな。
コーイチはそれでも恐る恐ると言った様子で京子のそばへ戻った。
「普段、あまり物や人に触れる事がないの。それで、力加減がよく分からなくって…… でも、あんなに走って行くなんて、コーイチ君も大袈裟なのね」
「いや、大袈裟じゃない。本当に本当に危なかったんだ。どうなるかと思ったんだ」
コーイチはこわい顔をして見せた。京子は上目遣いで甘えるような視線を送り返した。コーイチはどぎまぎして頬を赤らめてしまった。
「おやおやおやおや、ボクはすっかりお邪魔なようだね。ボクはここで西川新課長を待っているから、先に二人で会場へどうぞ」
林谷はにたにたしながらコーイチと京子とを見比べて言った。
「ありがとうございます。……さ、コーイチ君、行きましょ!」
京子はコーイチ腕に自分の腕を組んで、引っ張るようにして、すたすたと歩き出した。
「いてててて……」
コーイチは組まれた腕を苦痛に歪んだ顔で見ながら、片足飛びの状態で引きずられる様について行った。
「う~む、コーイチ君、尻に敷かれるタイプかなぁ……」
林谷は会場へ向かう二人を見ながらつぶやいた。
つづく
林谷が目を丸くして、現われた彼女をしげしげと見つめて、つぶやいた。それからコーイチの脇腹を肘で小突いた。
「こんな可愛い彼女だとは…… コーイチ君も隅に置けないねぇ」
「え、はあ、どうも……」
コーイチはとりあえずの返事をした。
一体どういうつもりで現われたんだろう。ノートに関した何か話でもあるんだろうか。それとも、またボクをからかうつもりなんだろうか。コーイチはとびきり可愛い笑顔を振りまいている彼女を見ながら不安を感じていた。
「ところでお嬢さん、お名前を伺ってもよろしいですか?」
林谷の丁寧な問いかけに、彼女は笑顔のまま、こっくりとうなずいた。
「初めまして。わたし、コーイチ君の幼なじみの京子と言います」
「ほう、コーイチ君の幼なじみの京子さんですか」
「ええ、コーイチ君の幼なじみの京子です」
「よかったねぇ、コーイチ君。コーイチ君の幼なじみの京子さん、とても可愛い娘だねぇ」
コーイチは二人のやり取りを驚きながら見ていた。林谷さん、何か魔法にでもかかったみたいに、すっかりボクの幼なじみの京子さんのつもりになっている。
だけど、引き出しの中に居たり、「4・5」階に浮いていたりする、怪しい人だし、ひょっとしたら人間じゃないかもしれないんだ。
それに本物の京子さんは、もう少し背があれで、顔はこうで、肌の色がなにだったはずだ。
「どうしたのよ、コーイチ君!」
不意に京子に声をかけられ、肩をポンと軽く押された。
「わっ、わっ、わっ!」
その拍子に、コーイチは壁に向かって、弾き飛ばされたように走り出した。壁にぶつかる直前で何とか止まる事ができた。コーイチは肩で息をしながら振り返り、額を流れ落ちる汗を手の甲でぬぐった。……危なかった、本当に危なかった!
「おやおや、これはなんとも、逞しいと言うか、パワフルと言うか…… どっちにしても、頼もしい京子さんだ」
林谷は腕を組み、感心したように深くうなづいた。
「あらあら、ごめんなさい」
京子がペロッと舌を出して微笑んだ。……本当に危なかったんだ。だけど、だけど、やっぱり、可愛いから許す……かな。
コーイチはそれでも恐る恐ると言った様子で京子のそばへ戻った。
「普段、あまり物や人に触れる事がないの。それで、力加減がよく分からなくって…… でも、あんなに走って行くなんて、コーイチ君も大袈裟なのね」
「いや、大袈裟じゃない。本当に本当に危なかったんだ。どうなるかと思ったんだ」
コーイチはこわい顔をして見せた。京子は上目遣いで甘えるような視線を送り返した。コーイチはどぎまぎして頬を赤らめてしまった。
「おやおやおやおや、ボクはすっかりお邪魔なようだね。ボクはここで西川新課長を待っているから、先に二人で会場へどうぞ」
林谷はにたにたしながらコーイチと京子とを見比べて言った。
「ありがとうございます。……さ、コーイチ君、行きましょ!」
京子はコーイチ腕に自分の腕を組んで、引っ張るようにして、すたすたと歩き出した。
「いてててて……」
コーイチは組まれた腕を苦痛に歪んだ顔で見ながら、片足飛びの状態で引きずられる様について行った。
「う~む、コーイチ君、尻に敷かれるタイプかなぁ……」
林谷は会場へ向かう二人を見ながらつぶやいた。
つづく
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