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霊感少女 さとみ 番外編 30

2019年06月07日 | 霊感少女 さとみ 番外編(全32話完結)
 百合江は、みつと楓の間を膝を大きく曲げて着物の裾が乱れぬように飛び、腕を左右に開く。袂が鳥の翼のように広がった。左右に伸ばした腕は、その指先がみつと楓の額に触れ、ばちん! と、ショートしたような音がした。
 百合江は膝を曲げたまま、腰を落とした姿勢で着地し、それから、すっと立つと踵を返した。みつと楓が倒れていた。気を失っているようだった。百合江は、外傷なく倒れている二人を見て、ほっとため息をついた。
 百合江には、倒れているアイと麗子の傍らに、同じように倒れて気を失っているみつと楓の霊体が見えていた。
 二人の額に触れた時に、霊体を弾き出したのだった。ショートしたような音は、その時のものだった。
「やれやれ、ちょっとやり過ぎたかしら……」百合江は襟元を整えた。「ま、あのままだと麗子ちゃんもアイちゃんも壊れちゃうところだったから、良しとしましょうか……」
 百合江は言うと、呆然としてつっ立っている豆蔵と竜二に、にこりと笑んでみせた。それから、百合江は倒れている麗子の上半身を起こし、背中に膝を当てて喝を入れ、その後にアイにも行なった。息を吹き返した麗子とアイは、はじめはとろんとした眼差しをしていたが、次第に焦点が合って来た。
「……姐さん!」アイが百合江に気づいて立ち上がった。「これは一体……?」
「いいのよ、気にしなくて」百合江は優しく言うと、頭を下げた。「それより、色々とゴメンね」
「ダメです!」アイはあわてた。「良くはわかりませんが、姐さんが舎弟に頭を下げるなんてことをなすちゃ!」
「……アイ……」麗子がぼうっとした顔をアイに向ける。「立てないの…… ここに来て……」
 アイが麗子に駆け寄り、しっかりと抱きしめて立ち上がらせる。少しふらつきながらも麗子は立った。
「……アイ……麗子……」二人を追って走って来たさとみが、並んで立っている姿を見て、大粒の涙を浮かべている。「二人は…… 仲良しに戻ったの?」
「さとみ姐さん!」アイが頭を下げた。「良くわかりませんが、ご心配をおかけしたようで…… 大丈夫です! わたしたちは仲違いはしていません!」
「そうよ。何があったかなんて覚えていないけど、関係ないわ!」麗子が強がったように言う。「弱虫麗子」と言わせない雰囲気だ。「アイとわたしは、ずうっと義姉妹よ!」
「よかったあ!」さとみはぼろぼろと涙を流した。「どうしちゃったのかって、とっても心配してたんだからぁ!」
「さとみ姐さん……」アイも涙を流す。「そんなに心配して下さって…… 本当に申し訳ありません……」
「二人して何泣いてんのよう!」麗子は言いながら溢れる涙が抑えられない。「あれ? わたしまで…… でも何だか嬉しくって泣いちゃう!」
 三人は肩を組みながら、わあわあ泣き出した。

つづく

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