「それで、お坊様」おくみが言う。「森の主ってのは何なんですか?」
「森の主か……」坊様は考え込む。「いつもだと相手の姿が見えるんじゃがのう…… 此度は全く見当がつかんのじゃよ」
「おっしゃる意味が分かりませんねぇ……」
「いつもの様な、恨み辛みを抱えた者とは違っておってのう……」
「じゃあ、何ですか? 良く分からない、得体のしれない輩を何とかしようって、お考えなんですか?」
「……まあ、な」
そう言うと、坊様は申し訳なさそうに頭をぽりぽりと掻いた。
「まさか、わたしたちはそのついでで巻き込まれちまったった感じですか?」
「まあ…… そんな所かな……」
坊様は苦笑いを浮かべる。それを見て、おくみは無性に腹が立った。
「それって、あまりにも酷かあないですか!」
「いやはや、面目ない……」
「お坊様!」今度はお千加が食ってかかる。「とにかく、わたしは早く里へ帰りたいんです。お坊様にお付き合いしてはいられないんです!」
「そうですよ、お千加さんの言う通りですよ!」おくみがお千加に加勢する。「兎に角、何とかして下さらないと困りますよ!」
「そうは言うがな、おくみさん。あんたは見たんだろう? 新吉さんの様子をさ。中々一筋縄では行かんと思ったろう?」
「そりゃ、そうは思いますけど……」おくみは、白目を剥き、顔色は青白く、半開きの口の端から涎を垂らし、何とも言えない腐臭のする息を吐いている新吉の姿を思い出して身震いをした。「だからこそ、早くしてもらわなきゃ。新吉さんを助けるためにも……」
「だからな、あやつの正体を見つけるのが先なのじゃ」
「それには、どれくらいかかるんです?」おくみが坊様に詰め寄る。「怖い思いは、もうしたくは無いですよ!」
「うむ……」坊様は腕組みをし、思案する。「そうじゃなぁ…… 何とも言えんなぁ……」
「これだ!」
おくみは吐き捨てるように言うと、ぷんと顔を背けた。お千加はそんなやり取りを見て、やれやれと言った感じで頭を振る。藤島は相変わらずじっと座ったままで、こちらの騒ぎに全く無関心のようだった。
……お坊様にも困ったもんだけど、この藤島ってお侍にも困ったもんだねぇ。おくみはふっと溜め息をついた。
つづく
「森の主か……」坊様は考え込む。「いつもだと相手の姿が見えるんじゃがのう…… 此度は全く見当がつかんのじゃよ」
「おっしゃる意味が分かりませんねぇ……」
「いつもの様な、恨み辛みを抱えた者とは違っておってのう……」
「じゃあ、何ですか? 良く分からない、得体のしれない輩を何とかしようって、お考えなんですか?」
「……まあ、な」
そう言うと、坊様は申し訳なさそうに頭をぽりぽりと掻いた。
「まさか、わたしたちはそのついでで巻き込まれちまったった感じですか?」
「まあ…… そんな所かな……」
坊様は苦笑いを浮かべる。それを見て、おくみは無性に腹が立った。
「それって、あまりにも酷かあないですか!」
「いやはや、面目ない……」
「お坊様!」今度はお千加が食ってかかる。「とにかく、わたしは早く里へ帰りたいんです。お坊様にお付き合いしてはいられないんです!」
「そうですよ、お千加さんの言う通りですよ!」おくみがお千加に加勢する。「兎に角、何とかして下さらないと困りますよ!」
「そうは言うがな、おくみさん。あんたは見たんだろう? 新吉さんの様子をさ。中々一筋縄では行かんと思ったろう?」
「そりゃ、そうは思いますけど……」おくみは、白目を剥き、顔色は青白く、半開きの口の端から涎を垂らし、何とも言えない腐臭のする息を吐いている新吉の姿を思い出して身震いをした。「だからこそ、早くしてもらわなきゃ。新吉さんを助けるためにも……」
「だからな、あやつの正体を見つけるのが先なのじゃ」
「それには、どれくらいかかるんです?」おくみが坊様に詰め寄る。「怖い思いは、もうしたくは無いですよ!」
「うむ……」坊様は腕組みをし、思案する。「そうじゃなぁ…… 何とも言えんなぁ……」
「これだ!」
おくみは吐き捨てるように言うと、ぷんと顔を背けた。お千加はそんなやり取りを見て、やれやれと言った感じで頭を振る。藤島は相変わらずじっと座ったままで、こちらの騒ぎに全く無関心のようだった。
……お坊様にも困ったもんだけど、この藤島ってお侍にも困ったもんだねぇ。おくみはふっと溜め息をついた。
つづく
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