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ジェシル、ボディガードになる 75

2021年03月29日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「そう……」ジェシルはうなずく。……思った通りね。ジェシルは内心ほくそ笑む。「それで、どこに居るのかは分かったの?」
「いえ、それはまだ……」ノラは申し訳なさそうな表情をする。「それもあって、図面を持って来たんです」
「そうなのね……」ジェシルは改めて図面を見る。各フロアを真上から見た形で、部屋ごとに仕切られた線図。になっている。「……全部の階が揃っていないわね」
「もらったのは、わたしたちスタッフが入れる範囲のものなんです…… 役に立ちませんか?」
「そんな事は無いわよ」ジェシルはノラに笑む。「これだけでも、立派な収穫よ。ありがとう」
 ジェシルは言うと、ノラの頭を軽くぽんぽんと叩いた。ノラは真っ赤になって下を向いてしまった。……いけないわ、この娘の反応が面白くって、ついつい。ジェシルは真っ赤になったノラを見て、くすっと笑う。ノラはそんな事にも気が付かない。
「この図面を見ると、スタッフ専用のエレベータがあるようね」
「え?」突然、話題が変わってノラは戸惑った。「……そうです。でも、行けない階もあるんです。いわゆる幹部の人たちのいるエリアです」
「図面に無い階がそうなのね」
「そうです。十一階より上です……」
「そうなんだ……」ジェシルはノラを見る。見つめられノラは下を向く。「じゃあさ、明日、この図面にある所だけでも回ってみたいわ。付き合ってくれる?」
「明日、ですか?」ノラは驚く。「他の人たちみたいにトレーニングとかしなくても良いんですか? あのケレスを倒すために」
「大丈夫よ。それよりも『姫様』の方が気になるのよね」
「ジェシルさんって、優しいんですね」ノラは感動したようだ。瞳がきらきらし始めた。「分かりました! わたしで良ければ、お付き合いします!」
「嬉しいわ。でも、無理はしちゃダメよ」
「分かっています! じゃあ、明日お迎えに来ますね!」
「そうね。朝が良いわね」
「じゃあ、朝食の後にでも」
「ええ、お願いするわ。よろしくね」
 ノラは元気にジェシルに向かって一礼すると、部屋から出て行った。
「……なんだか好い様に利用している感じで、気が引けるわね」ジェシルはドアを見つめながらつぶやく。「とにかく、二人の居所を探っておかないとね。多分、図面に無いフロアのような気がするから、その分の図面も手に入れないと……」
 ドアが乱暴にノックされた。これはノラではない。ジェシルはドアを睨み、熱線銃を手にする。
「どなた?」
「わたしだよ」
 声は、向かいの部屋に居る、最初の対戦相手のケレスのものだった。ジェシルは思い切りイヤな顔をする。
「わたしなんて知り合いは居ないわ!」
「ははは、ケレスだよ」
「ふん! 間に合っているわ!」
「そう怒るなよ。さっきは悪かった。仲間の手前、強がって見せないとさ、恰好がつかなかったんだよ」
「わたしの知った事ではないわ」
「だからさ、お詫びがしたくってさ」
「はいはい、お詫びは聞いた事にしておくわ。それに、明日に備えて寝る所なのよ」
「試合は明後日からだけど?」
「わたしにも色々と都合があるのよ」
「分かったけどさ、やっぱり顔を見て謝りたいんだよ」
 ジェシルはむっとした顔のままドアに向かう。銃をガウンのポケットにしまい、ドアのロックを外した。と、突然ドアが勢い良く開けられた。ジェシルは咄嗟に後方へ飛び退いた。開いたドアの所に傷の目立つ太い筋肉質の脚が付き出されていた。ケレスがロックの外れたドアを蹴り開けたのだ。
 ケレスは脚を下ろし、部屋の中央に片膝を付いてこちらを睨んでいるジェシルを、薄ら笑いを浮かべた顔で見ていた。ケレスは緑色のタンクトップに白いショートパンツと言う姿をしていた。
「何の真似よ!」ジェシルは声を荒げる。「場外乱闘は禁止でしょ!」
「ははは、これが場外乱闘だって言うのかい? ……おい、聞いたか、ミルカ?」ケレスの横からミルカが現れた。にやにや笑っている。「なあ、ミルカ、宇宙パトロールじゃ、これは乱闘になるんだそうだ」
「そうなの?」ミルカはおどけた口調で言う。「じゃあ、わたしたち、傷害罪で逮捕されちゃうのかしら?」
「いや、宇宙パトロールの寝るのを邪魔したから、公務執行妨害罪なんじゃないか?」
 二人は笑う。ジェシルはますます不機嫌になって行く。
「あのさあ……」ジェシルが言う。「傭兵の世界じゃ、これがお詫びなの?」
「なあに、ちょっとした挨拶ってやつだよ」ケレスは笑う。「楽しんでもらえた?」
「ふん!」ジェシルは鼻を鳴らす。「さあさあ、子供の遊び時間は終わりよ。帰っておネンネしてちょうだい」
 ジェシルはドアを閉め、ロックをした。通路には二人の笑い声が響いている。
「ケレスのヤツ、調子に乗っているわね……」ジェシルの口元が自然と緩み、残忍な笑みが作られた。「ふふふ…… ケレス、あんたをギッタンギッタンにグッチャングッチャンにしてやるわ……」 


つづく


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