コーイチはパッと後ろを振り返った。しかし、そこには書類棚があるばかりだった。そういえば、ボクの後は人一人やっと通れるくらいしか幅が無いんだっけ…… じゃ、今聞こえた声はどこから?
コーイチは辺りを見回した。
「こっちよ。こ・っ・ち!」
またコーイチをからかうように背後から声がした。
「頼むよ、姿を見せてくれよ!」
コーイチが堪らずに叫んだ。
「あらあら、ずいぶんとヘタレさんなのね。もっと根性あるかと思ってたのに」
「いや、そうじゃない。人と待ち合わせをしているんで、あまり待たせちゃ悪いと思ったもんだから」
「あらあら、優しいのね。ますますカワイイ!」
声が止んだ。コーイチはもう一度辺りを見回す。
赤いふわふわしたブラウスに赤いミニスカート、腰まである長い黒髪の、引き出しと電話の彼女がドアの所に立っていた。後ろ手のままニコニコしながら、コーイチの方へ素足に履いた赤いハイヒールをコツと響かせて、一歩歩み寄った。
「コーイチ君、これ、あなたのかしら?」
彼女は右手を前に出した。七分袖の口が少し下がって、ほっそりとした白い腕を覗かせた。しかしコーイチの目はそこよりももっと先の、親指と人差し指で挟まれたものに注がれていた。それは黒い皮製の長方形をしていた。
「そ、それはボクのサイフだ! 見つけてくれたんだ、ありがとう!」
コーイチが近付き手を伸ばす。彼女はさっと手を引っ込めた。可愛い顔をちょっと上目遣いにしてコーイチを見つめる。
「あらあら、これがあなたのサイフだと言うのなら、お金はいくら入っているか、分かっているわよね?」
「え、何を言っているんだ。それはどう見てもボクのサイフだ」
コーイチは憮然として言った。
「返して欲しいんでしょ? なら、ちゃんと答えてくれるはずよ」
答えなきゃ返さないつもりだな、だからって、力ずくって言うのは問題だしなぁ…… コーイチはいくら入っていたかを真剣に思い出そうとした。少し寄り目になる。
「う~ん、よくは覚えていないけど、少ないはずだよ」
呆れたような表情を浮かべながら、彼女は可愛らしい声で言った。
「自分のサイフなんでしょ? ま、いいわ。他に何が入っているか言える?」
「そうだなぁ、以前友達や先輩後輩に頼まれて作ったカードが何枚か入っているはずだ」
「枚数と、どこのカードか言える?」
カードは「ノルマなんだ」と泣き付かれて仕方なく作っただけで一度も使っていない。これでは思い出しようも無い。コーイチはあきらめた。
「……言えない……」
彼女は困った顔をしたコーイチを見て意地悪そうな含み笑いをした。その時、コーイチははっと何事かを思い出したように語気を強め言った。
「野中小那美ちゃんの写真が入っているんだ! ボクの方を見て微笑んでいるポーズの写真なんだ!」
「それって、これ?」
彼女はサイフから一枚の写真を取り出した。テレビではめったに見られないほどの笑顔の野中小那美アナウンサーが写っている。
「それだよ、分かったろう? それはボクのサイフだ!」
彼女はにっこりしながらコーイチに言った。
「拾った人には一割のお礼をするもののようね。じゃ、この写真をお礼にもらっておくわ」
そう言うとサイフをコーイチの顔めがけて放った。
「うわっ!」
顔にぶつかるぎりぎりでサイフを受け止めた。すぐにドアの方を見た。しかし、彼女はそこには居なかった。
「やれやれ……」
コーイチはため息をついてからサイフの中を確認した。現金とカードはあった。だが、野中小那美アナウンサーの写真は無かった。代わりに同じようなポーズをした彼女の写真が入っていた。
「……ま、いいか……」
コーイチは写真を見ながら、つぶやいた。
つづく
コーイチは辺りを見回した。
「こっちよ。こ・っ・ち!」
またコーイチをからかうように背後から声がした。
「頼むよ、姿を見せてくれよ!」
コーイチが堪らずに叫んだ。
「あらあら、ずいぶんとヘタレさんなのね。もっと根性あるかと思ってたのに」
「いや、そうじゃない。人と待ち合わせをしているんで、あまり待たせちゃ悪いと思ったもんだから」
「あらあら、優しいのね。ますますカワイイ!」
声が止んだ。コーイチはもう一度辺りを見回す。
赤いふわふわしたブラウスに赤いミニスカート、腰まである長い黒髪の、引き出しと電話の彼女がドアの所に立っていた。後ろ手のままニコニコしながら、コーイチの方へ素足に履いた赤いハイヒールをコツと響かせて、一歩歩み寄った。
「コーイチ君、これ、あなたのかしら?」
彼女は右手を前に出した。七分袖の口が少し下がって、ほっそりとした白い腕を覗かせた。しかしコーイチの目はそこよりももっと先の、親指と人差し指で挟まれたものに注がれていた。それは黒い皮製の長方形をしていた。
「そ、それはボクのサイフだ! 見つけてくれたんだ、ありがとう!」
コーイチが近付き手を伸ばす。彼女はさっと手を引っ込めた。可愛い顔をちょっと上目遣いにしてコーイチを見つめる。
「あらあら、これがあなたのサイフだと言うのなら、お金はいくら入っているか、分かっているわよね?」
「え、何を言っているんだ。それはどう見てもボクのサイフだ」
コーイチは憮然として言った。
「返して欲しいんでしょ? なら、ちゃんと答えてくれるはずよ」
答えなきゃ返さないつもりだな、だからって、力ずくって言うのは問題だしなぁ…… コーイチはいくら入っていたかを真剣に思い出そうとした。少し寄り目になる。
「う~ん、よくは覚えていないけど、少ないはずだよ」
呆れたような表情を浮かべながら、彼女は可愛らしい声で言った。
「自分のサイフなんでしょ? ま、いいわ。他に何が入っているか言える?」
「そうだなぁ、以前友達や先輩後輩に頼まれて作ったカードが何枚か入っているはずだ」
「枚数と、どこのカードか言える?」
カードは「ノルマなんだ」と泣き付かれて仕方なく作っただけで一度も使っていない。これでは思い出しようも無い。コーイチはあきらめた。
「……言えない……」
彼女は困った顔をしたコーイチを見て意地悪そうな含み笑いをした。その時、コーイチははっと何事かを思い出したように語気を強め言った。
「野中小那美ちゃんの写真が入っているんだ! ボクの方を見て微笑んでいるポーズの写真なんだ!」
「それって、これ?」
彼女はサイフから一枚の写真を取り出した。テレビではめったに見られないほどの笑顔の野中小那美アナウンサーが写っている。
「それだよ、分かったろう? それはボクのサイフだ!」
彼女はにっこりしながらコーイチに言った。
「拾った人には一割のお礼をするもののようね。じゃ、この写真をお礼にもらっておくわ」
そう言うとサイフをコーイチの顔めがけて放った。
「うわっ!」
顔にぶつかるぎりぎりでサイフを受け止めた。すぐにドアの方を見た。しかし、彼女はそこには居なかった。
「やれやれ……」
コーイチはため息をついてからサイフの中を確認した。現金とカードはあった。だが、野中小那美アナウンサーの写真は無かった。代わりに同じようなポーズをした彼女の写真が入っていた。
「……ま、いいか……」
コーイチは写真を見ながら、つぶやいた。
つづく
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