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コーイチ物語 「秘密のノート」 64

2022年09月07日 | コーイチ物語 1 7) 赤い服の美女  
「おい、コーイチ」
 いつの間にか西川がドアの所に立っていた。
「あ、西川新課長(「仮課長だ!」すかさず西川が言う)、心配して来てくれたんですか?」
「そう、サイフが見つからず悲観して最上階から身投げでもしたのかと思ってね。もしそんな事になると色々と大変だ」
「……はぁ、そうですか……」
 コーイチは憮然とした顔で答えた。
「まっ、無事と言う事は、サイフが見つかったと言う事だな。良かった、良かった」
 西川は大きく頷きながら言った。コーイチはやれやれと言うように頭を軽く振る。頭を振ったせいなのか、ふと思い出し事があった。
「そうだ、新課長(「仮課長だ!」すかさず西川が言う)、廊下で誰かに会いませんでしたか? 赤い服の新入社員くらいな感じの女の子なんですが……」
「いいや、会ってないな。その娘がどうしたんだ?」
「サイフを見つけて届けてくれたんです」
「そうか。で、どこの課の娘かな? 今度お礼を言わなきゃならないな」
 まさか引き出しの中の娘とは言えないな。
「見たことは無いです」
 コーイチは素っ気なく答えた。
「じゃあ、別のフロアの会社の娘かな? 身分証かなんか下げてなかったか?」
 だから、引き出しの中の娘なんだってば。でも、西川さんには言えないよな……
「下げてなかったと思います」
 コーイチはまた素っ気なく答えた。
「それじゃ、その娘は正体不明の不法侵入者と言う事になるな! さっき守衛をほめたのは取り消しだ、あそこに座って何をやっているんだ」
 西川は不機嫌な顔で言った。コーイチはなんと言って良いか分からず、心の中で「守衛さんごめんなさい」と詫びていた。
「ところでコーイチは本当にその娘を見た事はないのか?」
「はぁ、実は引き出しの中で……」
 急に言われ、コーイチは思わず本当の事を口に出した。
「なにぃ?」
 西川はさらに不機嫌になった。コーイチはあわてて言い直す。
「いえ、……実は、非常階段を転げ落ちた時、その場にいました」
 西川の顔がパッと晴れた。
「そうか、分かったぞ! その娘は林谷のいつも言っている秘密結社のメンバーで、サイフは転げ落ちた時に抜き取ったんだ。そして拾ったと言ってお前に返し、それをきっかけにお前と親密になって、我が社の秘密を聞き出そうとして。……って言っても、お前はそんなに企業秘密なんか知らないよなぁ」
「そうですねぇ。それに林谷さんは実家を通せばいくらでも情報が入るでしょうし」
「だよなぁ……」
 西川は腕組みをして考え込んだ。
「そうだ、新課長(「仮課長だ!」すかさず西川が言う)、持っていた写真がその娘のに変えられたんです」
 コーイチは写真を取り出し西川に渡した。西川が写真を見る。
「この娘か?」
「そうです」
「……どう見ても野中小那美だが……」
「ええっ!」
 コーイチは写真をひったくるように取り戻した。元の野中小那美アナウンサーの笑顔写真だった。
「そうか、分かったぞ! その娘は印旛沼さんの手品のお弟子さんだ。コーイチは手品でも試されたんだろう。だから侵入も脱出もお手の物ってわけだ。……って、お弟子さんがわざわざこんな所でコーイチだけ相手に手品をするとは思えないな」
「そうですねぇ。印旛沼さんはいつも『お客は多い方がやりがいがあるのだよ、ふわっ、ふわっ、ふわっ』って言ってましたから」
「そうか、分かったぞ! 手品でなければ、その娘は清水の仲間だ。こんな神出鬼没な事を平気で出来るのは黒魔術仲間に違いない。しかし困ったものだな、会社に変な仲間を入れるとは……」
「ですが、その娘は黒じゃなくて、赤いふわふわした服を着てました」
「さっき言っていたよな。うーん、赤かぁ… じゃあ、違うか……」
 西川は再び腕組みをし、深く考え込んでしまった。やっぱりあの娘は特殊なんだろうな。でも、どう特殊なんだろう…… 
「そうだ!」
 突然、西川が叫んだ。
「何か分かったんですか!」
 コーイチも釣られて叫ぶ。
「もたもたし過ぎた! 早く行かないと、パーティに遅刻してしまうぞ!」
 二人は大急ぎでエレベーターに乗り込んだ。

       つづく

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