コーイチと西川はエレベーターで一階まで降りた。守衛がじろりとにらむ。が、すぐに正面入り口へと顔を戻した。
「ううむ、彼は守衛の鑑だな。いや、守衛をやるために生まれて来たと言っても過言ではないな」
西川は感心したように言った。コーイチは「はいはい」と適当な相槌を打っていた。
不意に西川が立ち止まりコーイチの方を真剣な顔で見た。
「コーイチ……」
いい加減な返事をしたことをとがめられると思い、コーイチはビクッとした。
「パーティに出席すると、多分あいさつ回りに終始するだろうから食べるヒマもないだろう。今のうちに軽く食事をしておこうと思うんだが」
なんだびっくりした。でも、食事の事くらいでそんなに真剣な顔をするなんて、西川さんらしいなぁ……
「で、コーイチはどうする?」
「え、あ、はい。ボクも大勢の所では隅で小さくなるタイプなんで、あまり食べたり飲んだりできないんです。ですから、お伴します」
言いながら、所持金を確認しようとコーイチはスーツの内ポケットに手を入れ、サイフを取り出そうとした。
「おいおい、それくらいおごらせてもらうよ」
西川が苦笑しながら言った。しかし、コーイチの行動は止まらない。内ポケットのみならず、ありとあらゆるポケットを探っている。西川は不審そうな顔をした。
「どうした?」
コーイチが泣きそうな顔で西川を見た。
「サ、サイフがないんです! どこかへ落としたらしいんです!」
「落ち着け。よく思い出してみるんだ。落としたような場所に心当たりはないか?」
「……」
コーイチは一心に記憶をたどった。やがて、ハッと気が付いた。
「そうだ! 非常階段です! 転がり落ちた時に落としたんです! 行って来ます!」
コーイチはエレベーターまで走った。守衛がまたじろりとにらむ。エレベーターに乗り込み十一階へ行く。廊下に転がるように出ると、脇目も振らずに非常階段の扉へ向かう。押し開け、転がり落ちた踊り場を見る。……無い! 何も無い! 駆け下りて隅から隅まで見渡す。……やはり、何も落ちてはいない!
「ひょっとして、机の引き出しかも……」
コーイチは階段を駆け上がり、四課の部屋へ入る。自分の机の引き出しを全部開けて確認した。……サイフは無かった。コーイチは呆然としてしまった。サイフには現金のほかにカードが何枚か入っていた。現金は給料日が近いから、まぁ我慢すれば何とか食いつなげる。カードは手続きは面倒だが、まぁ再発行はしてもらえる。
しかし、それらよりも大切なものがサイフには入れてあったのだ。それは八方手を尽くしてようやく手に入れた野中小那美アナウンサーの生写真だった。もう二度と戻っては来ない。ボクに向かってにっこりと微笑んでいる(単なるカメラ目線なのだが)あの写真 ……あああ、なんて不幸なボクなんだ! コーイチは天(井)を仰いだ。
「あらあら、コーイチ君も大袈裟なポーズをとったりするのね。カワイイわね。んふふふ」
コーイチの背後から聞き覚えのある、いや、ついさっき聞いた声が、流れて来た。
つづく
「ううむ、彼は守衛の鑑だな。いや、守衛をやるために生まれて来たと言っても過言ではないな」
西川は感心したように言った。コーイチは「はいはい」と適当な相槌を打っていた。
不意に西川が立ち止まりコーイチの方を真剣な顔で見た。
「コーイチ……」
いい加減な返事をしたことをとがめられると思い、コーイチはビクッとした。
「パーティに出席すると、多分あいさつ回りに終始するだろうから食べるヒマもないだろう。今のうちに軽く食事をしておこうと思うんだが」
なんだびっくりした。でも、食事の事くらいでそんなに真剣な顔をするなんて、西川さんらしいなぁ……
「で、コーイチはどうする?」
「え、あ、はい。ボクも大勢の所では隅で小さくなるタイプなんで、あまり食べたり飲んだりできないんです。ですから、お伴します」
言いながら、所持金を確認しようとコーイチはスーツの内ポケットに手を入れ、サイフを取り出そうとした。
「おいおい、それくらいおごらせてもらうよ」
西川が苦笑しながら言った。しかし、コーイチの行動は止まらない。内ポケットのみならず、ありとあらゆるポケットを探っている。西川は不審そうな顔をした。
「どうした?」
コーイチが泣きそうな顔で西川を見た。
「サ、サイフがないんです! どこかへ落としたらしいんです!」
「落ち着け。よく思い出してみるんだ。落としたような場所に心当たりはないか?」
「……」
コーイチは一心に記憶をたどった。やがて、ハッと気が付いた。
「そうだ! 非常階段です! 転がり落ちた時に落としたんです! 行って来ます!」
コーイチはエレベーターまで走った。守衛がまたじろりとにらむ。エレベーターに乗り込み十一階へ行く。廊下に転がるように出ると、脇目も振らずに非常階段の扉へ向かう。押し開け、転がり落ちた踊り場を見る。……無い! 何も無い! 駆け下りて隅から隅まで見渡す。……やはり、何も落ちてはいない!
「ひょっとして、机の引き出しかも……」
コーイチは階段を駆け上がり、四課の部屋へ入る。自分の机の引き出しを全部開けて確認した。……サイフは無かった。コーイチは呆然としてしまった。サイフには現金のほかにカードが何枚か入っていた。現金は給料日が近いから、まぁ我慢すれば何とか食いつなげる。カードは手続きは面倒だが、まぁ再発行はしてもらえる。
しかし、それらよりも大切なものがサイフには入れてあったのだ。それは八方手を尽くしてようやく手に入れた野中小那美アナウンサーの生写真だった。もう二度と戻っては来ない。ボクに向かってにっこりと微笑んでいる(単なるカメラ目線なのだが)あの写真 ……あああ、なんて不幸なボクなんだ! コーイチは天(井)を仰いだ。
「あらあら、コーイチ君も大袈裟なポーズをとったりするのね。カワイイわね。んふふふ」
コーイチの背後から聞き覚えのある、いや、ついさっき聞いた声が、流れて来た。
つづく
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