お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

妖魔始末人 朧 妖介  45

2009年10月24日 | 朧 妖介(全87話完結)
 カーテンを閉めていない窓からは、外の灯りと夜闇とが混じって流れ込んでくる。・・・重苦しい闇だわ。葉子は思ったが、とても部屋を明るくする気にはなれなかった。部屋の外からは三人の話し声がしている。
 夜闇に慣れた目で手に持っているものを見た。・・・つまらない意地を張らずに捨ててしまえば、何も問題なかったのに。あの時もそうだったわ。「あけぼの児童公園」に一歩足を踏み込んだ途端に感じた「嫌」な感じ。あれを信じて公園から離れれば、いつもの今日だったのに。そうすれば、こんなものを人前にさらすような事もなかったのに・・・ 葉子は黒い下着を握りしめた。・・・みんなあいつのせいよ! あいつがいなければ、こんな事にはならなかった! 怒りが湧く。
「葉子ぉ。まだかしらぁ?」ドアが叩かれ、由紀がからかうように声をかけてきた。「何なら、手伝うぅ?」
「い、いいえ、大丈夫よ」思わず返事を返す。「一人で出来るわ」
 ・・・馬鹿! 何て答えをしているのよう! これで下着つけなくちゃならなくなっちゃったじゃないのよう! 葉子の怒りが自分に向く。それが治まると、覚悟と諦めが同時に湧いてきた。・・・いいわ、着ちゃおう。せっかく心配してきてくれた三人だもの、ちょっとしたおふざけだもの。
「早くして」妙に甘い声で由紀が続けた。「わたし、もう、我慢が出来ないわぁ・・・」
「もう少しだから」葉子は答えた。・・・いやだわ、声が少し、うわずってる。「・・・もう少しだから、待ってて・・・」
「いいわ。じゃあ、出てくる時はお尻から見せて・・・ 葉子のTバックのお尻が見たいのぉ・・・」
「・・・分かったわ・・・」
 ・・・まさか、由紀って・・・ 葉子は思った。・・・そう言えば、やたらとわたしに触るし、唇に指も触れたし、何よりもあのうっとりとした、ねっとりとした視線・・・ 葉子は頭を振った。・・・まさか、まさか、ね。男より女が好きだなんて、ね?
 下着をベッドに抛ると、葉子はTシャツを脱いだ。Tシャツの下は白いブラジャーだけだった。外からの灯りでぼうっと照らし出された自分が姿見に映る。半分以上が影になっているその姿を見て、葉子は幸久を思い出した。
 ・・・幸久もこんな闇の中でわたしの着替えをそのベッドの上で見つめていたわ。幸久は無言で、葉子が服を、下着を一枚一枚脱いで行く様を見つめていた。・・・とっても恥ずかしかった。でも、幸久はそれが好きだったから。全裸になった葉子に幸久は黒い下着を渡し、着るように言った。・・・これも恥ずかしかった。ブラは小さめで胸が真ん中に寄せられて苦しかったわ。Tバックは喰い込むし、収まり切らない感じだったし。身に着けると幸久は葉子の手を引き、ベッドにうつ伏せにさせた。・・・そう、お尻を高くさせられて。背中や剥き出しのお尻や太腿に唇や下を這わせてたっけ。でも、結局は脱がされちゃったけど・・・
 妙な気分になっていた。女を感じていた。ジーンズを脱いだ。ピンクのパンティだ。葉子はくすっと笑った。・・・慌てていたからね。上と下の変な取り合わせは。
 手を背中に回し、ブラジャーのホックをはずす。力なく垂れ下がったそれを腕から床へと滑り落とす。姿見に目をやる。無意識に胸を隠した腕を下げてみる。・・・思ったほど悪くないわ。姿見の自分に頷いてみる。
 手をパンティにかけた。一気に膝まで下げ、交互に足を抜き、床へ脱ぎ落とす。姿身を見る。・・・やっぱり悪くないわよ。一歩前に出る。外の灯りがよりくっきりと裸身の葉子を浮かび上がらせた。さらに妙な気分になる。幸久のからだが思い出された。・・・
「まだぁ?」
 不意に由紀の声がした。心臓が大きく激しく全身を撃った。あわててしゃがみ込んだ。頭だけ振り返った。ドアは閉じたままだった。ほっと溜め息をつき、ゆっくりと立ち上がった。・・・なにビクついているのよう! 葉子は自嘲的に笑った。
 ベッドの上からブラジャーを取り上げ、着ける。胸を中央に寄せ、指先で乳首を触り、布がちょうど乳首を隠すように位置を直す。位置が確認できると、パンティを取り上げて、穿く。これも色々と位置を直す。・・・「こりゃあ、穿いてもあちこちからはみ出すわよぉ・・・」なんて敦子が言うから、気になっちゃうじゃない。上から触り、はみ出しのないことを確認する。
 改めて、姿見の自分を見つめた。影濃く映る鏡の中の自分に過去の自分を見た。幸久との時が思い出された。・・・いやだ! ちょっと濡れてきちゃったわ! 慌てて葉子はティシュを数枚摘み取ると、それで処理した。
 心を静めてドアの前に立つ。・・・由紀はお尻が見たいなんて言ってたわね。ドアに背を向けて立つ。・・・ああ、やっぱり恥ずかしいわ! そう言えば、幸久も良く恥ずかしい事をさせたわね。一日中、裸にエプロンだけの格好とか、ノーパンノーブラで買い物に出てみたりとか・・・ からだがまた反応し始めた。・・・いけない! これはお遊びなのよう! つまらないことは考えちゃダメよう! 改めて、気を静める。
「出来たわよ・・・」二三度の深呼吸の後に言った。「開けるわね・・・」
 ドアに背を向けたまま、後ろ手でドアを開ける。尻を居間へと突き出す。
「どうかしら?」わざとらしく明るい口調で言った。・・・そうよ、これはあくまでも、お遊び。「気に入っていただけたぁ?」
 歓声も返事もなかった。葉子は振り返る。誰も居なかった。急に肩の力が抜けた。
 食べかけのつまみと飲みかけのグラスの乗ったテーブルに、ノートの切れ端が置かれていた。近寄って見ると、メモ書きがされていた。
『これは心配をかけてくれた罰。葉子の困った顔が見たかっただけよ。まさか本当に着替えに行くとは思わなかったけど・・・ ま、明日からはまた頑張ろうね! 由紀(ご心配なく。わたしはレズではありません! お芝居よ、お芝居!)
 つまみとお酒はまだあるから、ご自由にどうぞ(かなり少ないけど)。後片付けもよろしく! また明日! 敦子
 わたしは葉子のエロ下着姿見たかったなあ・・・ う・そ! おやすみなさい、また明日ね。 真弓』
 ・・・なによう! みんなでからかって! メモを見ながら、葉子は笑い出した。・・・いい友達だわ。嬉し涙が流れてきた。
 そのとき、ドアチャイムが鳴った。


      つづく


     著者自註 

 勝手に「妖魔始末人 朧 妖介」主題歌にした堂本光一さんですが、昨夜グループの歌「スワンソング」を観ました。なんだか踊りが簡単そうですね。相棒の方の踊りが、一生懸命、一杯一杯な感じで踊っている新人のように見えたからからでしょうか? 原点回帰って言ってましたが、踊りまでもでしょうかねぇ・・・ 10年選手にしては、ちょっと悲しいですね。ソロの時はもっと細かくて大きな振付でしたのに・・・ タイトルの「スワンソング」には「最後の歌」の意味があるそうですね。今後はさらにお互いがソロ活動に進むんでしょうか? そう言えば、堂本光一さんは来年のソロコンが決まっていますよね。相棒の方は今年のコンでは公演中止やら集客が少なくて招待券を配ったやらとの話が聞こえています。テレビの新番組も十五分になってしまって、しかもスポンサーが付いていないとか・・・ 大丈夫でしょうかねぇ。ま、とにかく、堂本光一さんを応援しています。



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