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ジェシル、ボディガードになる 131

2021年06月04日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 先頭を黙々と足早で行くムハンマイドの後を、ジェシルとミュウミュウは話をしながら、ゆっくりと追って行く。さらに離れて、アーセルがぶつぶつ言いながら、ボトルに時折口を付けて歩く。それよりもさらに遅れてリタとオーランド・ゼムは楽しそうに笑いながら歩いている。昔話でもしているのだろう。
「ミュウミュウって、いつからリタおばあちゃんのお世話をしているの?」
「どうして、そんな事を聞くのですか?」
「だってさ、あなたみたいな若くて美人で何でも出来そうな人が、ちょっと勿体無いかなぁって思って」
「何でも出来そう……ですか」ミュウミュウは自嘲的に笑む。「……そんな事は無いですよ」 
「でも、おばあちゃん、すっかりあなたを頼りにしているじゃない?」
「そうしなければ、わたくしは生きていけなかったのです。リタ様に見捨てられていたら、今ここには居なかったのですよ……」ミュウミュウはジェシルを見つめる。「わたくしは、ボスワイ星の生まれです。……あの星は、とっても貧しい星です。そして、近隣のベスワイ星とビスワイ星とに搾取され続けています……」 
 ベスワイ星やビスワイ星よりも小さなボスワイ星は、遥か昔より、この二つの星によって分割統治されていた。分割の度合いで揉めると、ボスワイ星を戦場として争いが起きた。ボスワイ星のせいだと言うのが理由だった。そのため、ボスワイ星の人々は、その住んでいるところを統治する、それぞれの星の軍門に強制的に組み込まれ、結果として、同じ星の者同士で殺し合いをさせられた。ベスワイとビスワイの軍隊は、共に自身の星からベスワイ人たちに指令を出すだけだった。
 しかし、この戦争は、本気で統治権を争うものではなかった。ベスワイ星やビスワイ星の中で不満が溜まると、そのガス抜きとして行われるものだったのだ。
 元々、一等低く見られていたボスワイ星の人々を使い、互いが殺し合う様を見る事で、ベスワイやビスワイの人々の気分を晴れさせていたものだった。なので、適当な頃合いを見計らって停戦協定が結ばれる。結局は今までと同じ分割統治の形に収まる。このような事が幾度も繰り返されていた。
 ボスワイ星の人々は玩具にも劣る扱いを受けているのだ。疲弊したボスワイ人は益々その力を弱める事となる。
「何よ、それ! ひどい話ね!」ジェシルは腹を立てた。「今すぐにでもベスワイとビスワイに殴り込みをかけてやりたいわ!」
「……でも、仕方が無いのです。弱い者は強い者に振り回されるものなのです。抗う事は出来ません、と言うよりも、許される事ではないのです」ミュウミュウは力無く笑む。「わたくしの一族も敵味方に分かれて殺し合いをしました。……そんな人たちはボスワイでは当たり前なのです」
「許せないわね! 評議院の連中は何をやっているのかしら!」
「色々と裏工作をして、上手く懐柔しているそうです……」
「評議院のじじい、ばばあどもめぇ……」ジェシルは言うと、ミュウミュウを見た。「あなた、弱い者は強い者に振り回されるものって言っていたわね? それをベスワイとビスワイにも経験してもらいましょう!」
 ジェシルは制服の前ファスナーを少し下げ、携帯電話を胸の内ポケットから取り出した。操作し、相手が出るのをいらいらしながら待つ。
「あ、ジェシルです、タルメリック叔父様」電話の相手は、評議院を取りまとめる立場にある大評議員で、ジェシルの叔父のタルメリックだった。「突然でごめんなさい。……ええ、今はまだ任務遂行中ですわ。だから、婿取りは先の話です。そんな事より、……え? 婿取りよりも重大な事があるかっておっしゃるんですか? 叔父様、笑えない冗談ですか? 話を聞いてください。……おじい様がわたしに与えた貴族の心得で大切なものを覚えていますか? はい? たくさん有るから思い出せないですって? それも笑えない冗談ですか? わたしはそう言う冗談は大嫌いですけど……」
 電話越しにも必死で言い訳をしている声が聞こえてくる。ミュウミュウは成り行きをおろおろしながら見守っている。ジェシルはミュウミュウににやりと笑って見せた.。


つづく


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