「コーイチ君、こちらは、ど・な・た!」
京子は言いながらコーイチの方へ歩み寄った。にやけた顔を元に戻してコーイチは後退した。
「こ、こちらは印旛沼さんの娘さんだよ」
「ずっと前からの知り合いなの?」
京子はこわい顔のまま尋ねた。
「いや、今初めて会ったんだけど…… いや、夢では会っていたような……」
「あーら、あらあらあら、何を訳の分からない事を言っているのよ。……それにしては何よ、あのにやけ顔は!」
京子はさらにコーイチに詰め寄った。コーイチの背中は壁にぴたりと張り付いた。もう後は無かった。
「あのう……」
逸子が声をかけた。コーイチは逸子を見た。逸子は心なしか怒った顔をしていた。
「そんなにコーイチさんを脅さなくても良いんじゃないですか?」
京子はこわい顔のまま逸子の方に振り返った。
「なんですって!」
「だから、コーイチさんを脅さないでって言ってるんです!」
「あーら、あらあらあら、初対面のくせに(そっちだって今日会ったばかりだと思うけど…… コーイチは思った)、コーイチ君にずいぶん同情的なのね」
「……いけませんか?」
逸子は挑戦的な口調で言った。
「生意気ねぇ……」
京子と逸子は睨み合った。
危険な雰囲気を感じ取ったコーイチは、皿を持ったまま、その場を離れようと、ぬき足さし足で動いた。
「コーイチ君!」
「コーイチさん!」
二人に同時に言われた。コーイチが二人に振り返ると、じっと睨んでいる。コーイチはすごすごと元の場所へ戻った。
「ところで、やけにコーイチさんと親しそうにしているけど、あなたこそ誰なんですか?」
「わたし?」京子はこれ見よがしにコーイチの腕にしがみついてみせた。「わたしは、コーイチ君の幼なじみの京子よ」
「幼なじみの京子さん…… ですか」
「そうよ、幼なじみの京子よ!」
京子は言って、しがみついた手に力を入れた。
「いてててて……」
コーイチは痛みにうめいた。
「あら、ごめんなさい。この娘がうるさくて、つい力加減を間違えちゃったわ」
京子はあわてて手を離した。
「まあまあ、なんて乱暴なのかしら! しかも人のせいにしたりして……」
逸子は呆れたような声で言った。それから京子に右手の人差し指を突きつけた。
「あなたは、脅したり、乱暴したり、コーイチさんの迷惑になっているんじゃないかしら」
「迷惑ですって? あーら、あらあらあら、これはまた、ずいぶんな口を利いてくれるわね!」
「ずいぶんって、そっちの事でしょ! コーイチさん、痛がってたじゃない。……コーイチさん、大丈夫?」
「なにをカワイ子ぶってるのよ! コーイチ君はこれくらいじゃビクともしないのよ(これくらいで十分参っているんだけど…… コーイチは思った)。そんな事も知らないくせに!」
「なによ! ちょっと幼なじみだからって!」
「あーら、あらあらあら、ちょっとじゃないわよ。わたしたち、深く、深~く結ばれているのよ。ねっ、コーイチ君!」
「えっ、そうだっけ?」
コーイチが驚いて聞き返した。その様子を見た逸子が、手の甲を口元に当てて「ホーッ、ホッホッホッホッホ」と甲高く笑った。
「あなたは、脅しと暴力と、それにウソつきでもあるのね! 何を言ってもダメよ! コーイチさんの様子を見れば分かるんだから。しかも、そんなイヤらしい事を女の口から言うなんて…… 最っ低ね!」
「あーら、あらあらあら、深く結ばれたって言うのがイヤらしいなんて、わたしこれっぽっちも考えなかったわ。わたしは単に仲良しだって言いたかっただけなのに、そんな風に思うあなたのほうが、よっぽどイヤらしいんじゃないの?」
京子と逸子は再び睨み合った。コーイチはまたこそこそと逃げ出そうとした。
「コーイチ君!」
「コーイチさん!」
また同時に言われて睨まれ、コーイチはすごすごと元の場所へ戻った。
「さっき、あなたステージで手品の助手やってたでしょ?」
「ええ、父の手伝いで出てたわ。それが何か?」
「服の色、赤くなったでしょ?」
「ええ、父にどうやったか聞いたけど、父は、知らない、勝手に変わったと言ってたわ」
「あれね……」
京子は腰に手を当て、ふんぞり返り気味になった。まずい! コーイチはとっさに京子の口をふさごうとしたが、皿とフォークを持っているのに気付き、あたふたとしてしまった。
「わたしがやったのよ、魔力で、ね」
逸子は目を丸くして、京子の顔を見つめた。
「……あなた、本気で言ってるの?」
「だって、わたし、魔女だもの!」
京子は勝ち誇ったように言った。
つづく
京子は言いながらコーイチの方へ歩み寄った。にやけた顔を元に戻してコーイチは後退した。
「こ、こちらは印旛沼さんの娘さんだよ」
「ずっと前からの知り合いなの?」
京子はこわい顔のまま尋ねた。
「いや、今初めて会ったんだけど…… いや、夢では会っていたような……」
「あーら、あらあらあら、何を訳の分からない事を言っているのよ。……それにしては何よ、あのにやけ顔は!」
京子はさらにコーイチに詰め寄った。コーイチの背中は壁にぴたりと張り付いた。もう後は無かった。
「あのう……」
逸子が声をかけた。コーイチは逸子を見た。逸子は心なしか怒った顔をしていた。
「そんなにコーイチさんを脅さなくても良いんじゃないですか?」
京子はこわい顔のまま逸子の方に振り返った。
「なんですって!」
「だから、コーイチさんを脅さないでって言ってるんです!」
「あーら、あらあらあら、初対面のくせに(そっちだって今日会ったばかりだと思うけど…… コーイチは思った)、コーイチ君にずいぶん同情的なのね」
「……いけませんか?」
逸子は挑戦的な口調で言った。
「生意気ねぇ……」
京子と逸子は睨み合った。
危険な雰囲気を感じ取ったコーイチは、皿を持ったまま、その場を離れようと、ぬき足さし足で動いた。
「コーイチ君!」
「コーイチさん!」
二人に同時に言われた。コーイチが二人に振り返ると、じっと睨んでいる。コーイチはすごすごと元の場所へ戻った。
「ところで、やけにコーイチさんと親しそうにしているけど、あなたこそ誰なんですか?」
「わたし?」京子はこれ見よがしにコーイチの腕にしがみついてみせた。「わたしは、コーイチ君の幼なじみの京子よ」
「幼なじみの京子さん…… ですか」
「そうよ、幼なじみの京子よ!」
京子は言って、しがみついた手に力を入れた。
「いてててて……」
コーイチは痛みにうめいた。
「あら、ごめんなさい。この娘がうるさくて、つい力加減を間違えちゃったわ」
京子はあわてて手を離した。
「まあまあ、なんて乱暴なのかしら! しかも人のせいにしたりして……」
逸子は呆れたような声で言った。それから京子に右手の人差し指を突きつけた。
「あなたは、脅したり、乱暴したり、コーイチさんの迷惑になっているんじゃないかしら」
「迷惑ですって? あーら、あらあらあら、これはまた、ずいぶんな口を利いてくれるわね!」
「ずいぶんって、そっちの事でしょ! コーイチさん、痛がってたじゃない。……コーイチさん、大丈夫?」
「なにをカワイ子ぶってるのよ! コーイチ君はこれくらいじゃビクともしないのよ(これくらいで十分参っているんだけど…… コーイチは思った)。そんな事も知らないくせに!」
「なによ! ちょっと幼なじみだからって!」
「あーら、あらあらあら、ちょっとじゃないわよ。わたしたち、深く、深~く結ばれているのよ。ねっ、コーイチ君!」
「えっ、そうだっけ?」
コーイチが驚いて聞き返した。その様子を見た逸子が、手の甲を口元に当てて「ホーッ、ホッホッホッホッホ」と甲高く笑った。
「あなたは、脅しと暴力と、それにウソつきでもあるのね! 何を言ってもダメよ! コーイチさんの様子を見れば分かるんだから。しかも、そんなイヤらしい事を女の口から言うなんて…… 最っ低ね!」
「あーら、あらあらあら、深く結ばれたって言うのがイヤらしいなんて、わたしこれっぽっちも考えなかったわ。わたしは単に仲良しだって言いたかっただけなのに、そんな風に思うあなたのほうが、よっぽどイヤらしいんじゃないの?」
京子と逸子は再び睨み合った。コーイチはまたこそこそと逃げ出そうとした。
「コーイチ君!」
「コーイチさん!」
また同時に言われて睨まれ、コーイチはすごすごと元の場所へ戻った。
「さっき、あなたステージで手品の助手やってたでしょ?」
「ええ、父の手伝いで出てたわ。それが何か?」
「服の色、赤くなったでしょ?」
「ええ、父にどうやったか聞いたけど、父は、知らない、勝手に変わったと言ってたわ」
「あれね……」
京子は腰に手を当て、ふんぞり返り気味になった。まずい! コーイチはとっさに京子の口をふさごうとしたが、皿とフォークを持っているのに気付き、あたふたとしてしまった。
「わたしがやったのよ、魔力で、ね」
逸子は目を丸くして、京子の顔を見つめた。
「……あなた、本気で言ってるの?」
「だって、わたし、魔女だもの!」
京子は勝ち誇ったように言った。
つづく
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