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コーイチ物語 「秘密のノート」 82

2022年09月18日 | コーイチ物語 1 10) パーティ会場にて 京子と逸子  
「魔女、ですって!」
「そうよ、魔女、よ」
「本当なの?」
「魔女、ウソつかない」
 逸子はコーイチの方へ顔を向けた。
「コーイチさん、私がモデルをしている雑誌の出版社にお願いして、弁護士さんを紹介してもらいましょうか?」
「ちょっと待ってよ、それどう言う事よ!」
 京子は不機嫌な顔で言った。
「コーイチさんが変な幼なじみに付きまとわれて気の毒だから、助けてあげようと思ったのよ!」
「変なって…… あなた、魔女にも限度があるわよ」
「そんな事よりも、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 逸子は京子の魔女発言を全く無視していた。
「何よ」
 魔女である事を無視された京子はさらに不機嫌になった。
「どうして服の色なんか変えたのよ?」
「どうしてって……」
 不意打ちのような質問に京子が答えあぐねた。
 逸子は言ってから、まじまじと、京子の服装を上から下へ、下から上へと眺めた。
「はは~ん、ステージの私の衣装の白と被ったのが気に入らなかったのね。魔女かなんか知らないけど、白じゃ、わたしの着こなしに負けるもんだから、悔しくて色を変えたんでしょ。どんな手で色を変えたか知らないけど、卑劣な人のやりそうなことだわ!」
「あなたねぇ、本当に好い加減にしなさいよ。調子に乗っていると、服の色だけじゃすまないわよ」
 京子の眼付きが鋭くなった。それに気付いた逸子は、左足を後ろに引き、右半身を前にしてやや腰を落とし、右肘を曲げ、肘より先を垂直に立て、小指側を京子に向けて五本の指をびしっと伸ばした。左手は握り拳を作り、曲げた肘と共にぴたりと左脇腹に添えている。
「そのチャイニーズの服装じゃ、カンフーでも使うのかしら? 私はこう見えて『極風会館空手』の免許皆伝なのよ。カンフーは通用しないわよ!」
 逸子は言って、構えに力を込めた。京子は不敵な笑みを浮かべ、わざとらしく右の人差し指をゆっくりと伸ばした。
 まずい、まずいぞ。なんとかしなきゃ…… コーイチはおろおろした。ふと気が付くと、いつの間にか多くの人たちが、興味深げな顔をしながら京子と逸子を取り巻いていた。
 ……こんな所で魔法なんか使って、逸子さんをヒキガエルかコウモリかヘビかトカゲにでも変えちゃったら、それこそ大騒ぎになるぞ。『魔女、パーティー会場に現る!』、『魔女、その目的は何か?』、『魔女に人類を売り渡した男』、あああ、新聞記事が、雑誌の見出しが、仲良く手を取り合ってフォークダンスを踊っているのが見える……
「はああああああ!」
 逸子が気合を入れた。逸子の周りの空気が激しく動き、吹き上げる風となってショートヘアーを逆立てた。周囲から驚いたようなどよめきが起こった。
「あーら、あらあらあら、面白い事をするわね。じゃ、わたしも!」
 京子が言って、両手を大きく広げた。左右の指先から、青白い、陽炎のように朧ろに揺れる煙のようなものが立ち上り始めた。周囲から「闘気だ!」との声が上がり、さらに驚きのどよめきが起こる。
 逸子は髪を逆立て、京子は煙を立ち上らせ、睨み合っていた。
 ……始まるぞ! コーイチはゴクリと喉を鳴らした。

       つづく


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