お話

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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 18

2008年09月18日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 林谷は携帯電話をあちこちに架けながら先頭を歩き、その後を清水は黒魔術について印旛沼に語り続け、それを聞いていた印旛沼は手品について清水に語り続けながら歩いていた。
「・・・それにしても、皆さん、仕事の方は大丈夫なんですか?」最後尾をコーイチと並んで歩いていた洋子がコーイチに言った。「以前にいた海外支社の雰囲気とは全く違っていますから、どう接しら良いのか、分かりません」
「よっぽど、海外支社は厳しい感じだったんだね」コーイチはしみじみと言った。「僕じゃ、とても勤まらないだろうな」
「その通りですね」洋子はあっさりと言った。・・・少しはお世辞くらい言ってくれても良さそうなんだがなぁ。不満そうなコーイチを無視して洋子は続けた。「でも、皆さん、親しそうですね。なんだかほっとした気分になります」
「そう? それは嬉しい事を言ってくれたね」コーイチは自分が褒められたような気分になって言った。「ま、そのうち芳川さんもなじんで来て、一員になるさ」
「そうでしょうか?」洋子は疑わしそうな顔で聞いた。「そうなるでしょうか?」
「なるさ。ほら『朱に交われば赤穂の浪士』『郷にいらずんば郷を得ず』って言うだろう? 時間と自覚があれば、すぐだよ」
「時間と自覚・・・ですか」
「そう言う事。なじもうと思って毎日を過ごせば良いんだよ。僕でも二日で出来たんだ。優秀な芳川さんなら一日、いや、半日で十分さ」
 コーイチは言って、一人うなずいていた。洋子はやれやれと言った様子で溜め息をついた。
「ねえ、洋子ちゃん」林谷が振り返った。洋子が顔を向けた。「食べ物で、苦手なものとかあるかな?」
「いえ、特にありません・・・」
「そうか。じゃ、多少珍しいものとかでも平気?」
「・・・その多少の程度によります」洋子は不安そうに答えた。「何とかの黒焼きとか、活造りとかは、ちょっと・・・」
「大丈夫、ゲテモノ系は無いから」
 林谷は言って笑った。
「林谷さん、こんなにいたいけな娘をからかっちゃダメじゃない。ねぇ?」
 清水が洋子に寄り添いながら言った。
「そうそう」印旛沼も加わった。「今日が初日なのに、大役を務めたんだ。からかうよりは褒めてあげようよ」
「はいはい、これは申し訳ないことをしました」林谷は笑顔のまま洋子に言い、頭を下げた。「お務め、ご苦労様でした!」
「また、言ったそばから・・・」
 清水が呆れたように言って笑った。印旛沼もつられた。
 コーイチは洋子を見た。洋子は下を向いて肩を震わせていた。・・・冗談ばかりで腹を立てたのかな。何しろ真面目な娘だから・・・
「芳川さん、どうしたんだい?」コーイチが恐る恐る言った。「ま、さっきも言ったように、時間と自覚で・・・ね?」
 洋子は顔を上げた。メガネ越しに目に涙がいっぱい溜まっているのが見えた。
「わたし、・・・わたし、こんなに親しく接してくれる人なんて、今までいなかったんです。いつも仕事上だけの付き合いでした。いつも張り詰めていました。だから、とても嬉しいんです・・・」
 ・・・そうか、この娘、無理に強がっていたのか。これで少しは正直になるかな。
 コーイチは笑顔を洋子に向けた。コーイチの視線に気が付いた洋子は、目に涙を溜めたまま、コーイチをにらみ返した。
 ・・・やっぱり、僕にはダメなのか・・・ コーイチは溜め息をついた。

       つづく

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(ちなみに、プロフィール紹介の画像をご覧下さい。気が付いた方は私と同様に○○ファンの方ですね。)

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