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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 49

2020年05月04日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「ナナさんやタイムパトロールが所持しているタイムマシンは正規のものだ」ケーイチは真顔で言う。「そして、コーイチを連れ去ったアツコや『ブラックタイマー』のものは不完全なタイムマシンだ。さあ、どっちが強いかな?」
「強いって……」逸子は困惑の表情になる。「正規の、ナナさんのタイムマシン…… ですか?」
「正解!」ケーイチは手を叩いた。「アツコたちのはパラレル・ワールドしか作れない。ナナさんたちのは正しい時間軸を作ることが出来る。だから、ナナさんたちの方のが強いのさ」
 ケーイチはどうだとばかりに胸を張る。逸子には全く要領を得なかった。ナナはどうだろうと逸子が見ると、ナナは目を輝かせ、何度も大きくうなずいていた。
「……ナナさん、お兄様の話、分かるの?」
「分かります!」ナナは感動すら覚えているようだ。「その手があったんですね!」
「その手、ねぇ……」逸子は不満そうに口を尖らせる。「……ま、いいわ。……お兄様、続けて下さい」
「つまりね、アツコたちには未来を選ぶことができないんだよ。お店の陳列品と同じさ。いくつも並べているって感じだ。その中から選べる立場がオレたち、正規のタイムマシン側さ。アツコたちのパラレル・ワールドからオレたちが選んだものが、正しい時間軸の流れとして組み込まれる」
「じゃあ、コーイチさんが係わっているものを選べば、それが正しい時間軸になるんですね」
「そう言う事さ」ケーイチはうなずく。「……確か、コーイチを取り返そうとして、時間をさかのぼった時があったよね? オレが駆けつける前に連れ去られちゃったけど……」
「そうでしたね……」逸子は、よたよた走って来たケーイチを思い出して笑いそうになったが、ぐっと奥歯を噛みしめて耐えた。「あの時、アツコがタイムパトロールの中に『ブラックタイマー』の支持者がいるって言ったんでした」
「そして、みんなでわたしの時代に行って……」ナナが言う。「タイムパトロール本部へ行きました」
「そうそう!」逸子が楽しそうに言う。「あの訳の分からない長官ってヤツをちょっと脅したわね」
「ちょっと…… ですか……」ナナはつぶやく。「長官、再起不能になったと思います」
「あら、そう?」逸子は不満そうだ。「未来の人って軟弱ねぇ」
「未来じゃなくても、逸子さんが相手なら再起不能になりますよ」
「……さあ、良いかな?」ケーイチが割って入る。「そこで、あの時間に戻って、連中が連れ去った後を追うんだ。そして、たどり着いた場所で捕える」
「そうすれば、『ブラックタイマー』は一網打尽ですね!」ナナが嬉しそうに言う。「コーイチさんも救い出せて、連中も潰滅出来て、良い作戦だと思います!」
「そうと決まれば、作戦決行ね!」逸子が言う。「……で、どうやるのかしら?」
「あの時の正確な時間に戻らなければならない」ケーイチが言う。「ナナさん、出来るかな?」
「出来ます!」ナナは言うと逸子を見た。「逸子さん、右の胸ポケットにメモリースティックが入っているんですけど、出していただけますか?」
「ええ、良いわよ」
 逸子ははち切れそうになっている胸ポケットを開けようするが、ぴっちりし過ぎてなかなか開かない。逸子は「ちょっと待ってね……」とつぶやきながらポケットと格闘していた。やっと、黒くて平たい棒状のメモリースティックを取り出した。ナナはそれを受け取ると操作した。スティックの先端から光が出て、壁に画像を映し出す。しかし、単なる白い光だった。
「あら……」ナナはつぶやき、もう一度操作し直す。やはり白い光しか映し出さない。「これは……」
「え?」逸子が不安そうに言う。「まさか、わたしの胸で潰しちゃって壊れたとか……」
「いいえ、そうではありません」ナナが答える。「メモリーが全て消去させています……」
「どう言う事?」
「逸子さん、思い出してください。わたしはタイムパトロールを辞めるって言いました。だから、わたしが在籍していた時の全ての記録が消去されたんです」
「じゃあ、どうしようもないの?」
「いいや、そんな事は無いさ」ケーイチが言う。「ナナさんの記録はタイムパトロールにあるはずさ」
「と言う事は……」
「そうです、逸子さん!」ナナは決然とした表情を逸子に向けた。「もう一度タイムパトロールに行って、調べ直しをするんです!」


つづく
 

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