西川はさらに続けた。
「冗談は好きではないんだがなぁ……」
「でも、この抜けなさ具合は冗談ではなさそうですよ」
林谷が言った。しかし、顔は笑っている。
「一体何が原因なんだ?」
西川は歯を喰いしばっているコーイチに問いかけた。
「私の呪いのせいですの。吉田元課長の私物のあれこれに呪いをかけておいたのが、一種の化学反応を起こして、未知の呪いを生み出してしまったらしいんですの。コーイチ君には悪い事をしたわ」
清水が言った。しかし、悪い事をしたと言う顔ではなかった。
「ただ言えますのは、どの呪いとどの呪いとが反応し合ったのかを調べたら、今後の呪い活動の励みになると言う事ですわ。うふふふふ……」
「なんだ、薫子ちゃんの呪いだったのかい、私はてっきり新作手品をコーイチ君が考案したと思っていたんだがねぇ……」
印旛沼は残念そうに言った。が、すぐに明るい声を出した。
「でも、このおかげで、新しい手品が浮かんだよ。コーイチ君には感謝しなくちゃあね」
みんな、なんてのん気な事を言っているんだろう! コーイチは引き込まれそうなからだを必死に踏み止まりながら思った。
このまま引き込まれてしまったら、まさに闇の住人になってしまう。
そうなると、今度はボクがこの深い闇の底から顔を浮かび上がらせて、どこかの誰かをにた~っと笑いながら見つめる事になるんだ。
きっと、次に誰かを引き込まない限り、ずっと闇の中に居続けなけりゃならないんだ。ボクは気が小さい方だから、そう簡単に人を引き込めやしない。逆に睨まれでもしようものなら、ボクのほうがさらにさらに深い闇の底へと沈んでしまうだろう。
となれば、ボクは永遠にこの闇の中に住み続けなければならない運命を背負う事になる……
ああ、なんて悲しいボクなんだ! ノートの次は引き出しか……
悲しがっているコーイチの後ろに立った西川が、コーイチのスーツの襟首を軽く引いた。何の抵抗もなく、コーイチはからだごと後ろへ下がり、腕も引き出しからするりと抜けた。
「いいかい、恐い恐いと思うから、なんでもないのに自己暗示にかかって訳の分からない事になってしまうんだよ」
西川はコーイチをにらみながら言った。
「自己暗示的なものは伝染するらしい。みんなもそれだったのさ。さぁ、終わったら仕事に戻った戻った!」
コーイチは自分の腕をしげしげと見た。指を握ったり開いたりしてみた。何ともない。いつもの腕だ。引き出しの中を覗き込んだ。顔も闇もなく、吉田元課長のごちゃごちゃの私物があるばかりだった。
つづく
「冗談は好きではないんだがなぁ……」
「でも、この抜けなさ具合は冗談ではなさそうですよ」
林谷が言った。しかし、顔は笑っている。
「一体何が原因なんだ?」
西川は歯を喰いしばっているコーイチに問いかけた。
「私の呪いのせいですの。吉田元課長の私物のあれこれに呪いをかけておいたのが、一種の化学反応を起こして、未知の呪いを生み出してしまったらしいんですの。コーイチ君には悪い事をしたわ」
清水が言った。しかし、悪い事をしたと言う顔ではなかった。
「ただ言えますのは、どの呪いとどの呪いとが反応し合ったのかを調べたら、今後の呪い活動の励みになると言う事ですわ。うふふふふ……」
「なんだ、薫子ちゃんの呪いだったのかい、私はてっきり新作手品をコーイチ君が考案したと思っていたんだがねぇ……」
印旛沼は残念そうに言った。が、すぐに明るい声を出した。
「でも、このおかげで、新しい手品が浮かんだよ。コーイチ君には感謝しなくちゃあね」
みんな、なんてのん気な事を言っているんだろう! コーイチは引き込まれそうなからだを必死に踏み止まりながら思った。
このまま引き込まれてしまったら、まさに闇の住人になってしまう。
そうなると、今度はボクがこの深い闇の底から顔を浮かび上がらせて、どこかの誰かをにた~っと笑いながら見つめる事になるんだ。
きっと、次に誰かを引き込まない限り、ずっと闇の中に居続けなけりゃならないんだ。ボクは気が小さい方だから、そう簡単に人を引き込めやしない。逆に睨まれでもしようものなら、ボクのほうがさらにさらに深い闇の底へと沈んでしまうだろう。
となれば、ボクは永遠にこの闇の中に住み続けなければならない運命を背負う事になる……
ああ、なんて悲しいボクなんだ! ノートの次は引き出しか……
悲しがっているコーイチの後ろに立った西川が、コーイチのスーツの襟首を軽く引いた。何の抵抗もなく、コーイチはからだごと後ろへ下がり、腕も引き出しからするりと抜けた。
「いいかい、恐い恐いと思うから、なんでもないのに自己暗示にかかって訳の分からない事になってしまうんだよ」
西川はコーイチをにらみながら言った。
「自己暗示的なものは伝染するらしい。みんなもそれだったのさ。さぁ、終わったら仕事に戻った戻った!」
コーイチは自分の腕をしげしげと見た。指を握ったり開いたりしてみた。何ともない。いつもの腕だ。引き出しの中を覗き込んだ。顔も闇もなく、吉田元課長のごちゃごちゃの私物があるばかりだった。
つづく
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