ガルベスが絨毯を裂く。裂く度にアーセルが床を見る。そして、首を左右に振る。ガルベスはその度に大きく舌打ちをする。そんな光景が繰り返されているが、絨毯はまだ部屋の半分にも達していない。
「……おう、じいさんよう……」ガルベスは噴き出す汗が入るのか、幾度も目を瞬かせる。息も荒い。大きな肩が幾度も上下している。「……本当に、あるんだろうな?」
「ふん!」アーセルは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。「半分もひっ剥がしていねぇくせしやがって、何をぬかしてやがるんでぇ。情けねぇ野郎だぜ」
「……何ぬかしてやがるだとぉ……」ガルベスは恨めしそうにアーセルを睨む。「……オレ様ばかりに働かせやがってよう!」
「馬鹿野郎! オレだって働いているじゃねぇか!」アーセルは怒鳴ると、自分の頭を指先で突ついてみせる。「オレはよ、どこにお宝を隠したのかを思い出そうと、脳味噌をフル回転させて働かせてんだぜ!」
「でもよう……」
「でももクソもあるか! 手を休めてんじゃねぇ!」
「……あのよう、手下を呼んでやらせても良いだろう?」
「はあ?」アーセルは呆れた顔をガルベスに向け、大きな溜め息をついてみせた。「……ガルベスよ、お前ぇは、こんな大ぇ事なことを手下どもにやらせるのか? 情けねぇ、心底情けねぇ野郎だな、おい?」
「……そんな事を言ったってよう……」
「それによう、お前ぇは、アーセルはもう居ねぇ、死んじまったとでも話をしてんじゃねぇのか?」
「……まあ、そんな感じだ……」
「だったらよう、手下どもをここに呼びつけてだ、手下どもがオレがいるのを見たらどう思うんでぇ?」
「……そりゃあ……」
「誰がどう見たって、ガルベス、お前ぇが嘘つきだって分かろうってもんだぜ」
「じゃあよう、もう一度あの部屋に戻ってくれよ」
「ああ、戻るのは構わねぇがよ……」
「そうかい、さすがアーセルだ。聞きわけが良いぜ。お宝を見つけたら二割方はくれてやるぜ」
喜ぶガルベスを、アーセルは冷たい眼差しで見る。その様子にガルベスは笑みを消す。
「あのなあ、ガルベス……」アーセルはノラを見る。「あの娘っ子がな、オレを部屋から出すのに、あの錠前を受けごと壊しやがったんだ。だからよ、鍵は掛からねぇ。部屋に戻っても、いつでもここに顔を出せるって寸法だ」
「……この小娘がぁ……」ガルベスはノラを睨みつける。ノラはわざとらしい愛想笑いをガルベスに向かって浮かべる。「……ふざけやがってぇ……」
「ガルベス!」アーセルが怒鳴る。「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさとやりやがれ! 充分休んだろうがよ! それによ、やって行きゃあ、そのうちに終わるってもんだぜ!」
「ちっ!」
ガルベスは大きく舌打ちをすると、再び絨毯剥がしを始めた。
「……ねぇ、ノラ……」エリスが小声でノラに話しかける。「あのおじいさんが前のボスのアーセルさん? 死んだって聞いていたけど?」
「それにさ……」ダーラも話しかける。「オーランド・ゼムがどうとかって、ノラ、あなたって何者なの?」
「まあ、大した事じゃないわよ」ノラは心配そうな顔の二人に笑顔を向ける。「あなたたちが気にする事は無いわ。二人の安全はわたしが守るから」
「そう……」エリスはダーラと顔を見合せて同時にほっと息をついた。「……まあ、わたしたちは、ガルベスさんの事情なんかに深入りするつもりはないから、どうでも良い事だって言えば言えるわ」
「そうね」ダーラもうなずく。「ノラがわたしたちの身の安全を保障してくれたってが、一番嬉しいわ」
「でも……」エリスがガルベスとアーセルを見ながら呟く。「本当に、この部屋にお宝ってのがあるのかしらね?」
「アーセルのおじいちゃんはそう言っているわ」ノラが答える。「さっさと脱出しようって言ったのに、どうしてもお宝を持って行くって子供みたいに駄々をこねて、ここに来たのよ」
「じゃあ、やっぱりここにお宝があるって事ね……」ダーラも呟く。「……でも、ガルベスさん、もう、ふらふらじゃない?」
ノラはガルベスを見た。ガルベスはどっかりと絨毯の上に座り込んだ。シャツの汗染みが全体に広がっている。流れる汗が絨毯の上にも垂れている。肩が今にも爆発しそうな勢いで上下している。ぜいぜいと薄気味悪い息切れの音がガルベスの喉から鳴っている。ガルベスの虚ろな目は残りの絨毯を見つめている。ノラはイヤなものを見たと言うように眉をひそめる。
「……おう、じいさんよう……」ガルベスは最後に力振り絞るようにしてアーセルを見る。「……オレ様はもう限界だぜ…… あとはよ、じいさんが思い出すのを待つ事にすらぁ……」
「何でぇ、本気で情けねぇ野郎に成り下がっちまったなぁ、ガルベスよう!」アーセルは鼻先で笑う。「もう半分も残っちゃいねぇじゃねぇか。昔のお前ぇなら、難無く出来たはずだぜ? ボスを気取って、酒だギャンブルだってよう、うつつをぬかしていやがるから、体力勝負だったお前ぇはすっかりダメな野郎になっちまったんだ。……あ~あ、情けねぇ。イヤだイヤだ……」
「何だとぉぉぉぉ!」ガルベスは立ち上がった。目が怒りに燃えている。「じいさんよう! そんな戯言は死んでからぬかしやがれ!」
そう怒鳴ると、ガルベスは絨毯剥がしを再開した。「うおぉりゃぁぁ!」とか「とぅあぁぁぁ!」など、自分に気合を入れながら絨毯を裂き、乗っている調度品を倒して行く。ガルベスは一列剥がす度にアーセルを見るが、アーセルは床を見ると、首を左右に振る。
「おい、じいさん!」ガルベスは堪りかねて怒鳴る。しかし、息は絶え絶えだ。「本当は、この部屋には、お宝なんか、ねぇんじゃ、ねぇのかよう!」
「何を泣き言をぬかしてやがるんでぇ!」アーセルは言い返す。「まだ、絨毯が残ってんだろうが! さっさと剥いじまえってんだ!」
「でもよう、これだけひっ剥がしてんのに、思い出せねぇってのはよう、おかしんじゃ、ねぇのかよう!」
「ふあっふあっふあっ!」アーセルは笑う。「何せじじいなもんでなぁ、どうも記憶が曖昧なんでぇ。こりゃあよ、お前ぇが絨毯を全部ひっ剥がして見つける方が良いかもしれねぇぜ」
「このクソじじがぁ!」
ガルベスは悪態をつきながら絨毯を剥がす。アーセルはうんうんとうなずきながら、その様子を見ている。
つづく
「……おう、じいさんよう……」ガルベスは噴き出す汗が入るのか、幾度も目を瞬かせる。息も荒い。大きな肩が幾度も上下している。「……本当に、あるんだろうな?」
「ふん!」アーセルは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。「半分もひっ剥がしていねぇくせしやがって、何をぬかしてやがるんでぇ。情けねぇ野郎だぜ」
「……何ぬかしてやがるだとぉ……」ガルベスは恨めしそうにアーセルを睨む。「……オレ様ばかりに働かせやがってよう!」
「馬鹿野郎! オレだって働いているじゃねぇか!」アーセルは怒鳴ると、自分の頭を指先で突ついてみせる。「オレはよ、どこにお宝を隠したのかを思い出そうと、脳味噌をフル回転させて働かせてんだぜ!」
「でもよう……」
「でももクソもあるか! 手を休めてんじゃねぇ!」
「……あのよう、手下を呼んでやらせても良いだろう?」
「はあ?」アーセルは呆れた顔をガルベスに向け、大きな溜め息をついてみせた。「……ガルベスよ、お前ぇは、こんな大ぇ事なことを手下どもにやらせるのか? 情けねぇ、心底情けねぇ野郎だな、おい?」
「……そんな事を言ったってよう……」
「それによう、お前ぇは、アーセルはもう居ねぇ、死んじまったとでも話をしてんじゃねぇのか?」
「……まあ、そんな感じだ……」
「だったらよう、手下どもをここに呼びつけてだ、手下どもがオレがいるのを見たらどう思うんでぇ?」
「……そりゃあ……」
「誰がどう見たって、ガルベス、お前ぇが嘘つきだって分かろうってもんだぜ」
「じゃあよう、もう一度あの部屋に戻ってくれよ」
「ああ、戻るのは構わねぇがよ……」
「そうかい、さすがアーセルだ。聞きわけが良いぜ。お宝を見つけたら二割方はくれてやるぜ」
喜ぶガルベスを、アーセルは冷たい眼差しで見る。その様子にガルベスは笑みを消す。
「あのなあ、ガルベス……」アーセルはノラを見る。「あの娘っ子がな、オレを部屋から出すのに、あの錠前を受けごと壊しやがったんだ。だからよ、鍵は掛からねぇ。部屋に戻っても、いつでもここに顔を出せるって寸法だ」
「……この小娘がぁ……」ガルベスはノラを睨みつける。ノラはわざとらしい愛想笑いをガルベスに向かって浮かべる。「……ふざけやがってぇ……」
「ガルベス!」アーセルが怒鳴る。「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさとやりやがれ! 充分休んだろうがよ! それによ、やって行きゃあ、そのうちに終わるってもんだぜ!」
「ちっ!」
ガルベスは大きく舌打ちをすると、再び絨毯剥がしを始めた。
「……ねぇ、ノラ……」エリスが小声でノラに話しかける。「あのおじいさんが前のボスのアーセルさん? 死んだって聞いていたけど?」
「それにさ……」ダーラも話しかける。「オーランド・ゼムがどうとかって、ノラ、あなたって何者なの?」
「まあ、大した事じゃないわよ」ノラは心配そうな顔の二人に笑顔を向ける。「あなたたちが気にする事は無いわ。二人の安全はわたしが守るから」
「そう……」エリスはダーラと顔を見合せて同時にほっと息をついた。「……まあ、わたしたちは、ガルベスさんの事情なんかに深入りするつもりはないから、どうでも良い事だって言えば言えるわ」
「そうね」ダーラもうなずく。「ノラがわたしたちの身の安全を保障してくれたってが、一番嬉しいわ」
「でも……」エリスがガルベスとアーセルを見ながら呟く。「本当に、この部屋にお宝ってのがあるのかしらね?」
「アーセルのおじいちゃんはそう言っているわ」ノラが答える。「さっさと脱出しようって言ったのに、どうしてもお宝を持って行くって子供みたいに駄々をこねて、ここに来たのよ」
「じゃあ、やっぱりここにお宝があるって事ね……」ダーラも呟く。「……でも、ガルベスさん、もう、ふらふらじゃない?」
ノラはガルベスを見た。ガルベスはどっかりと絨毯の上に座り込んだ。シャツの汗染みが全体に広がっている。流れる汗が絨毯の上にも垂れている。肩が今にも爆発しそうな勢いで上下している。ぜいぜいと薄気味悪い息切れの音がガルベスの喉から鳴っている。ガルベスの虚ろな目は残りの絨毯を見つめている。ノラはイヤなものを見たと言うように眉をひそめる。
「……おう、じいさんよう……」ガルベスは最後に力振り絞るようにしてアーセルを見る。「……オレ様はもう限界だぜ…… あとはよ、じいさんが思い出すのを待つ事にすらぁ……」
「何でぇ、本気で情けねぇ野郎に成り下がっちまったなぁ、ガルベスよう!」アーセルは鼻先で笑う。「もう半分も残っちゃいねぇじゃねぇか。昔のお前ぇなら、難無く出来たはずだぜ? ボスを気取って、酒だギャンブルだってよう、うつつをぬかしていやがるから、体力勝負だったお前ぇはすっかりダメな野郎になっちまったんだ。……あ~あ、情けねぇ。イヤだイヤだ……」
「何だとぉぉぉぉ!」ガルベスは立ち上がった。目が怒りに燃えている。「じいさんよう! そんな戯言は死んでからぬかしやがれ!」
そう怒鳴ると、ガルベスは絨毯剥がしを再開した。「うおぉりゃぁぁ!」とか「とぅあぁぁぁ!」など、自分に気合を入れながら絨毯を裂き、乗っている調度品を倒して行く。ガルベスは一列剥がす度にアーセルを見るが、アーセルは床を見ると、首を左右に振る。
「おい、じいさん!」ガルベスは堪りかねて怒鳴る。しかし、息は絶え絶えだ。「本当は、この部屋には、お宝なんか、ねぇんじゃ、ねぇのかよう!」
「何を泣き言をぬかしてやがるんでぇ!」アーセルは言い返す。「まだ、絨毯が残ってんだろうが! さっさと剥いじまえってんだ!」
「でもよう、これだけひっ剥がしてんのに、思い出せねぇってのはよう、おかしんじゃ、ねぇのかよう!」
「ふあっふあっふあっ!」アーセルは笑う。「何せじじいなもんでなぁ、どうも記憶が曖昧なんでぇ。こりゃあよ、お前ぇが絨毯を全部ひっ剥がして見つける方が良いかもしれねぇぜ」
「このクソじじがぁ!」
ガルベスは悪態をつきながら絨毯を剥がす。アーセルはうんうんとうなずきながら、その様子を見ている。
つづく
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