それからの数日は何の進展も無かった。タケルもナナも、もうこれ以上伝える相手がいないくらいに『ブラックタイマー』復活話を喧伝し回った。
「……ねえ、タロウさん」ナナはリビングのテーブルで、チトセの作った夕食を食べながら、ソファに座っているタロウに話しかけた。コーイチとチトセはケーイチの所に行っている。「……もう、これ以上は話す相手がいないわ。それでも支持者が動く気配すらないし。ひょっとして、支持者ってタイムパトロール以外の人物なんじゃないかしら……」
「うん……」
タロウは答えるが、その表情は硬い。
「アツコたちに協力してもらって、いかにも『ブラックタイマー』再組織って言うような写真を撮ったり、会話を録音したりして、あの長官にも伝えているのよ」ナナはちょっといらいらしている。「長官は上層部に話を持って行ったわ。上層部に人からわたしに直接連絡があって、厄介な話を長官が持って来たって言ってたから、信じているはずよ」
「でも支持者は動かない…… だから部外者じゃないかって思うんだろう? でもボクは、ボクたちの流している『ブラックタイマー』復活話を、支持者が信じていないんじゃないかとも思っているんだ」
「これだけやっているのに?」
「支持者って慎重なんだよ。姿は見せないし声は機械で変えているし指示はパソコン打ちだしで、絶対しっぽを見せない」タロウはナナを見る。「仮に部外者が支持者だったとしても、タイムパトロールの動向はつかんでいるだろうから、パトロール内で『ブラックタイマー』復活話が飛び交っているのは知っているはずさ。でも動く気配がないって事は、信じていないと言う可能性がある」
「じゃあ、わたしたちの行動は無駄ったて言うの?」
「いや、そうじゃないよ。ボクが言ったのは、ナナさんの言う部外者かもって言うのと同じ、可能性の一つだって事だよ」
「でも、来月までそんなに時間が無いわ。支持者がいるって言うのは確かなのに……」ナナはため息をつく。「一思いに『タイムパトロール内に違反集団の支持者がいます』って、マスコミを使って報道してもらおうかしら。そうすれば、外部に支持者がいたら自分の正体がバレていないって思って動くかもしれないし、信じていない支持者だったら話は本当なんだって思って動くかもしれない……」
「そんな事をしたら、タイムパトロールに造反者がいるって宣伝しているようなものだよ。タイムパトロールの信用を無くすだけだよ」
「そうか、そうよねぇ……」ナナはさらに大きなため息をついた。「……タケルはテルキさんと一緒に潜入捜査の任務に就いてどこかへ行っちゃったし……」
「そうだね。もう三日も戻って来ていない」
「肝心な時に居ないわ。全く使えない! 昔っからそうなのよね!」
「まあ、タケルさんも仕事だから仕方ないよ。それに支持者探しはボクやアツコがお願いしているようなものだから、協力してくれるだけでも感謝しているんだ」
「そうは言うけど、わたしの時代に、歴史を振り回そうとする人物がいるって言うのが問題なのよ。もうタロウさんたちだけの問題じゃないわ」
どたどたと足音がした。リビングのドアが開いた。チトセが入って来た。
「あ、まだ食べ終わってなかったんだ……」チトセはナナを見て言う。「って事は、美味しくなかったって事か?」
「そんな事ないわ。美味しいわよ」
「だって、残しているじゃないか」
「今、タロウさんと話をしていたからよ」
「食事中に話をするのは良くないって言ってたのは、オバさんだぞ」
「はいはい、ごめんなさいね」ナナが笑顔で言う。チトセを妹として見るようになったら、腹が立たなくなったのだ。「これから食べちゃうわ」
「近頃、他のオバさんたち、来なくなったな」
「ああ、アツコさんと逸子さんは、そろそろ現われるんじゃないかって準備をしているのよ」
「……その、支持者だってのを捕まえるためにか?」
「そう言う事ね」
「そうか……」
チトセは言うと、リビングを出て行った。どたどたした足音が遠去かる。
「チトセちゃん、ケーイチさんの所に行ったようだね」タロが足音を聞きながら言う。「わざわざナナさんの食事の様子を見に来たんだよ。良く気の利く子だよ」
「そうみたいね」ナナは料理を一口食べる。「ねえ、タロウさん……」
「何?」
「……支持者を捕えて罰したら、その後はどうするの?」
「え?」タロウは戸惑う。「……それは考えていなかったなぁ。どうしたものかなぁ…… アツコも支持者の事で頭が一杯だろうからな、考えていないと思うけど……」
「この時代に残るって言うのも有りだと思うわ」
「でもさ、基本的には過去の人間が未来にとどまることは良くない事だよ」
「そうだけど…… じゃあ、チトセちゃんも、あの時代に返すって事?」
「あくまでも、基本は、って事さ。……あの子はあの時代に戻すと気の毒な人生しか待っていない気がするよ……」
「あの子はタイムパトロールに入れたいわ」
「そうだね、それが良いと思うよ」タロウは強くうなずく。「ボクとアツコは…… そうだな、この一件が終わってから考えるよ」
「そうね、今は他の事に煩っていられないものね」
ナナはそう言うと食事に集中した。美味しそうな顔をしている。タロウは腕組みをして、あれこれと考え込んでいるようだった。
つづく
「……ねえ、タロウさん」ナナはリビングのテーブルで、チトセの作った夕食を食べながら、ソファに座っているタロウに話しかけた。コーイチとチトセはケーイチの所に行っている。「……もう、これ以上は話す相手がいないわ。それでも支持者が動く気配すらないし。ひょっとして、支持者ってタイムパトロール以外の人物なんじゃないかしら……」
「うん……」
タロウは答えるが、その表情は硬い。
「アツコたちに協力してもらって、いかにも『ブラックタイマー』再組織って言うような写真を撮ったり、会話を録音したりして、あの長官にも伝えているのよ」ナナはちょっといらいらしている。「長官は上層部に話を持って行ったわ。上層部に人からわたしに直接連絡があって、厄介な話を長官が持って来たって言ってたから、信じているはずよ」
「でも支持者は動かない…… だから部外者じゃないかって思うんだろう? でもボクは、ボクたちの流している『ブラックタイマー』復活話を、支持者が信じていないんじゃないかとも思っているんだ」
「これだけやっているのに?」
「支持者って慎重なんだよ。姿は見せないし声は機械で変えているし指示はパソコン打ちだしで、絶対しっぽを見せない」タロウはナナを見る。「仮に部外者が支持者だったとしても、タイムパトロールの動向はつかんでいるだろうから、パトロール内で『ブラックタイマー』復活話が飛び交っているのは知っているはずさ。でも動く気配がないって事は、信じていないと言う可能性がある」
「じゃあ、わたしたちの行動は無駄ったて言うの?」
「いや、そうじゃないよ。ボクが言ったのは、ナナさんの言う部外者かもって言うのと同じ、可能性の一つだって事だよ」
「でも、来月までそんなに時間が無いわ。支持者がいるって言うのは確かなのに……」ナナはため息をつく。「一思いに『タイムパトロール内に違反集団の支持者がいます』って、マスコミを使って報道してもらおうかしら。そうすれば、外部に支持者がいたら自分の正体がバレていないって思って動くかもしれないし、信じていない支持者だったら話は本当なんだって思って動くかもしれない……」
「そんな事をしたら、タイムパトロールに造反者がいるって宣伝しているようなものだよ。タイムパトロールの信用を無くすだけだよ」
「そうか、そうよねぇ……」ナナはさらに大きなため息をついた。「……タケルはテルキさんと一緒に潜入捜査の任務に就いてどこかへ行っちゃったし……」
「そうだね。もう三日も戻って来ていない」
「肝心な時に居ないわ。全く使えない! 昔っからそうなのよね!」
「まあ、タケルさんも仕事だから仕方ないよ。それに支持者探しはボクやアツコがお願いしているようなものだから、協力してくれるだけでも感謝しているんだ」
「そうは言うけど、わたしの時代に、歴史を振り回そうとする人物がいるって言うのが問題なのよ。もうタロウさんたちだけの問題じゃないわ」
どたどたと足音がした。リビングのドアが開いた。チトセが入って来た。
「あ、まだ食べ終わってなかったんだ……」チトセはナナを見て言う。「って事は、美味しくなかったって事か?」
「そんな事ないわ。美味しいわよ」
「だって、残しているじゃないか」
「今、タロウさんと話をしていたからよ」
「食事中に話をするのは良くないって言ってたのは、オバさんだぞ」
「はいはい、ごめんなさいね」ナナが笑顔で言う。チトセを妹として見るようになったら、腹が立たなくなったのだ。「これから食べちゃうわ」
「近頃、他のオバさんたち、来なくなったな」
「ああ、アツコさんと逸子さんは、そろそろ現われるんじゃないかって準備をしているのよ」
「……その、支持者だってのを捕まえるためにか?」
「そう言う事ね」
「そうか……」
チトセは言うと、リビングを出て行った。どたどたした足音が遠去かる。
「チトセちゃん、ケーイチさんの所に行ったようだね」タロが足音を聞きながら言う。「わざわざナナさんの食事の様子を見に来たんだよ。良く気の利く子だよ」
「そうみたいね」ナナは料理を一口食べる。「ねえ、タロウさん……」
「何?」
「……支持者を捕えて罰したら、その後はどうするの?」
「え?」タロウは戸惑う。「……それは考えていなかったなぁ。どうしたものかなぁ…… アツコも支持者の事で頭が一杯だろうからな、考えていないと思うけど……」
「この時代に残るって言うのも有りだと思うわ」
「でもさ、基本的には過去の人間が未来にとどまることは良くない事だよ」
「そうだけど…… じゃあ、チトセちゃんも、あの時代に返すって事?」
「あくまでも、基本は、って事さ。……あの子はあの時代に戻すと気の毒な人生しか待っていない気がするよ……」
「あの子はタイムパトロールに入れたいわ」
「そうだね、それが良いと思うよ」タロウは強くうなずく。「ボクとアツコは…… そうだな、この一件が終わってから考えるよ」
「そうね、今は他の事に煩っていられないものね」
ナナはそう言うと食事に集中した。美味しそうな顔をしている。タロウは腕組みをして、あれこれと考え込んでいるようだった。
つづく
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