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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 37

2008年10月28日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
「口移し・・・って・・・」
 逸子はつぶやくと、思わず洋子と顔を見合わせた。しかし、次の瞬間には二人ともプイと横を向き合った。
「口移しって言うのは、ある物を自分の口に含んで、相手の口の中へ直接入れてあげる事よ。ただし、相手の口を若干開かなければ・・・」
「清水さん、そんな事は分かっています!」逸子は清水の話を止めた。「わたしの聞きたかったのは、どうして口移しじゃないと効き目が無いのかって事なんです」
「そうです」洋子もうなづいた。「直接試験管からでも良いと思うんですけど・・・」
「そう、じゃあ説明するわね」清水は嬉しそうな顔になった。どうやら、この質問を待っていたかのようだ。「この薬は、口移しをする側に生命力を吸収して、口移しされる側に分ける働きをするのよ。だけど・・・」
「生命力の吸収・・・ですかぁ?」洋子は疑り深そうに聞いた。「薬と言うより、魔法っぽい感じがしますけど・・・」
「芳川さん、なかなか鋭いわね。わたしの仲間にならない?」清水は言って、くっくっと笑った。「この薬は黒魔術の産物なのよ」
「やっぱりそうなんですか」逸子が納得したように言った。「コーイチさん、清水さんの黒魔術の話をよくしていました」
「あらそう」清水が嬉しそうに言った。「コーイチ君にますます黒魔術を使ってあげなきゃね」
「それで、生命力を吸収するけど、だけど・・・って何ですか?」洋子がいらいらした様子で割って入った。「その話の途中でしたけれど・・・」
「そうだったわね」清水は少しだけ真顔になった。「この薬、効き目は抜群だけど、それ相応のリスクが伴うのよ・・・」
「リスク・・・ですか。どんなリスクですか?」逸子が清水に詰め寄った。「教えてください!」
「吸収された生命力が相手に伝わり回復するんだけど、リスクはその吸収される生命力の量ね。一定していないのよ」
「どう言う事ですか?」
「そうねぇ・・・」聞き返してきた逸子に、清水は目だけ笑っていない笑顔を向けた。「吸収される生命力が、一生分の命のどれだけかって事よ。一分? 一時間? 一日? いや、一年? ひょっとして十年? それとも、一生分丸々?」
 清水は呆然としている逸子と洋子の顔を見比べていた。
「当然の事だけど、ダメージが大きい程、回復に使われる生命力は多くなるわ・・・」清水は床で、まだ時々でへついているコーイチを見つめた。「コーイチ君のダメージ、相当大きいわね。これはひょっとすると・・・」
 不意に、逸子は清水に右の手の平を差し出した。
「清水さん、その薬、わたしに使わせてください。コーイチさんを救うのは、恋人であるわたしの義務です」
「待ってください!」洋子はそう言うと、逸子の手の平の上に、自分の手の平を重ねるようにして差し出した。「こんなコーイチさんにしたのは、わたしにも原因があります。ですから、コーイチさんを救うのはわたしの責任です」
「あなた・・・」逸子は洋子をにらみつけた。「責任感だけでコーイチさんに関わらないでよ!」
「そうは行きません!」洋子も逸子をにらみつけた。「あなたが本当にコーイチさんの恋人なら、元気になったコーイチさんと末永く幸せになる事の方が、義務だと思います」
「あなたの命で回復したコーイチさんを、好きなままでいられると思うの? コーイチさんの中にあなたが居続けていると言うのに!」
「じゃあ、逆に逸子さんの命で回復したコーイチさんは、逸子さんがいなくなったと知ったら、誰を愛すれば良いんですか?」
「勝手に人を死んだ事にしないでちょうだい!」
 二人の間にまた空気が流れ、渦を巻き始めた。

       つづく

いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ

(そろそろDVD「エンドレス・ショック」が発売ですね。ニギニギしながら楽しみましょう!)



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