お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

豆蔵捕り物帳 7

2022年01月25日 | 霊感少女 さとみ 外伝 1
 事件があって数日が過ぎた。豆蔵は家でごろりと寝転んでいた。松吉が駈け込んでくる。
「親分! 何をごろごろしてんでやすか! 片倉様が鉄太郎の下手人探しはどうなったってお聞きですぜ!」
「……ったく、相変わらずうるせぇヤツだな」豆蔵は面倒くさそうに起き上がる。この文句は松吉に言ったものか、片倉に言ったものか。「オレはな、待っているんだよ」
「待っているって? 誰をでやすか?」松吉は言ってふっと笑う。「まさか、下手人とか?」
「おう、そのまさかだよ」
「そんな、棚ぼたみてぇな話がありやすかってんだ。岡っ引きは足で稼ぐって、親分がいつも言ってんじゃねぇっすか」
「何でぇ、オレに説教しようってぇのかい?」
「言いたくもなりやすぜ。ここ数日、片倉様が番屋でお待ちなんですぜ」
「待つぐれぇなら、ここまで足を運びゃ良いじゃねぇか」
「同心の旦那になんてことを言ってんです!」
「良いんだよ。待たしておきな」豆蔵はまたごろりと横になる。「今日あたりには来るんじゃねぇかな」
「どうしてそんな事が分かるんです?」
「毎朝、宗右衛門長屋をちらっと窺ってんだよ」
「そんな事、おいらに言いつけてくだせぇよ」
「いや、これはオレの目で確かめなきゃいけねぇんだ」
「だとして、それと下手人とどう結びつくんで?」
「今朝、長屋の連中が集まっていて、そこに大家らしい年寄りもいた」
「そうなんすか……」
「だから、今日あたりじゃねぇかな」
「へぇ……」松吉には返事を返したものの、全く訳が分からない。「……それはそうと、親分、片倉様はどうするんで?」
「お前が番屋に行って話し相手でもしてやってくれ。豆蔵は野暮用で遅くなるって言ってよ」
「そんな、毎日同じ言い訳じゃねぇですか……」
「ほら、行った、行った!」
 豆蔵は松吉に背を向け、手を掃う様に振って松吉を追い出した。松吉はぶつくさ言いながらも出て行った。
 松吉が居なくなってしばらくし、玄関から人の気配があった。豆蔵はのそりと起き出して玄関に向かって胡坐をかいて座り直す。畳に転がった十手を手に取る。じっと玄関を凝視する。
「……ご免下さいまし……」
 年寄りの声がした。
「待ってたよ。開いているから入ぇってきな」
 豆蔵が言う。
「……では、御免蒙りまして」
 戸を開け入って来たのは、正装をした白髪の年寄を先頭に、おたき婆さんとおてる、それに公太だった。皆神妙な顔をしている。


つづく


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