「ねえねえねえねえ、コーイチさん」
アツコはコーイチを見ながら甘えた声を出す。
「なんだい?」
コーイチは笑顔を浮かべながら、少しずつ後退する。エデンの園に来てからと言うもの、事ある毎に、このような感じでアツコは迫ってくる。コーイチは何とかアツコの積極的なアプローチをかわし続けた。しかし、アツコはそれが楽しいのか、止める気配がない。
「あのね、そろそろ家を建てない?」アツコはにこにこしている。「どうかしら?」
「どうかしらって……」コーイチは困惑する。「どうして家なんて……?」
「だって、いつまでも外での生活なんてイヤでしょ?」
「でもさ、雨も降らないし、気温は最適だし、食べ物も果物だけだけどさ、美味しいものばかりだし、野獣と言われている動物だって大人しいし、ボクは別に不便はしてないけど……」
「ダメよ! 二人で暮らすには、暮らすなりのものって必要じゃない?」
「う~ん…… ボクはここ全部が家って感じなんだけどなぁ……」
「わたしはイヤよ! 小さくても良いの! お台所があって、寛げる居間があって、……そして、寝室があって…… きゃっ!」
アツコは言うと顔を真っ赤にしてコーイチを突き飛ばす。コーイチはそのまま雑木林に中に転がった。コーイチがよろよろと起き上ると、アツコは両手で頬を挟んできゃあきゃあ言いながらぴょんぴょん跳ねている。
「あのさ、アツコさん……」コーイチが声をかけた。アツコは頬は手で挟んだままで振り返る。「ボクは家を建てるなんて出来ないよ。アツコさんは出来るのかい?」
「出来るわけないじゃない!」アツコは笑う。「それに道具だって無いじゃない? 何を言い出すかと思ったら!」
「じゃあ……」笑われたコーイチは口を尖らせる。「どうやって家を建てるんだよ?」
「簡単よ」アツコは得意気に胸を張る。「どっかから大工さんたちを集めて来るわ」
「それはいけないよ!」
「どうしてよ!」アツコはぷっと頬を膨らませる。「わたしは、コーイチさんとより快適に過ごしたいの!」
「だから、ボクはこのままで十分に快適だって言っているんだよ」
「でも、台所も居間も寝室も無いのよ!」
「じゃあさ、ここが台所、ここが居間って感じに分けりゃ良いじゃない」
「そんなんじゃ、家とは言えないわ!」
「家だと思えば良いんだよ!」
「ヤダヤダヤダヤダ!」アツコは駄々をこね始めた。「わたしの昔からの夢だもん! 大好きな人と小さな家で暮らすのが夢だったんだもん!」
「えっ?」コーイチは驚く。「大好きな人……?」
「あああっ、もう!」アツコは叫ぶ。「コーイチさんって、どこまで鈍いのよう! わたしの大好きな人って言ったら分かってよう!」
「そんな、急に言われても……」コーイチは言ってからはっと気が付く。「……それって、ボクの事?」
「決まっているじゃない! 気が付かなかったの? どんな頭をしているのよう!」
「だって、ボクには逸子さんが……」
「ふん! な~にが逸子よ!」アツコは吐き捨てるように言う。「あんな乱暴な女は絶対ダメよ! コーイチさんが毎日怪我ばかりしちゃうわ!」
「……いや、ボクはもう慣れたけど……」
「でも、ダメよ!」アツコは赤いオーラを立ち昇らせると、横にある太い幹の樹に右拳を打ち込んだ。めりめりと音を立て樹は途中から折れた。「あんな乱暴な女は、絶対ダメ!」
どっちが乱暴なんだ、いや、乱暴度合いは互角だな…… コーイチは思った。
「ダメだって言われてもさ……」
「じゃあ、コーイチさんは逸子の所に戻れるの? コーイチさん一人で?」アツコはそう言いながらコーイチを意地悪そうな顔で見る。「タイムマシンも持ってないでしょ?」
「それは君のを借りて……」
アツコはにやりと笑うとタイムマシンを取り出してコーイチの前に置いた。コーイチは素早く手に取った。あちこちといじっているコーイチだったが、タイムマシンに何の変化も起こらない。
「あら、コーイチさん、タイムマシンの使い方わかるの?」
アツコは相変わらず意地悪そうな顔をしている。そう言われたコーイチはまたタイムマシンをいじるが、やはり何も変わらない。ふうっと深いため息をつく。
「……いや、わからない……」
「それじゃあ、わたしが教えてあげると思う?」
一瞬、期待の眼差しをアツコに向けたコーイチだったが、すぐに下を向く。
「……いや、思わない……」
「じゃあ、タイムマシンを持っていても無駄ね」
そう言うと、アツコはコーイチの手からタイムマシンを取り上げた。コーイチは抵抗もしなかった。
「ねぇ、コーイチさん……」不意にアツコが真顔になる。「あんまり逸子逸子言っていると、コーイチさんをここに残して、わたしはどこかへ行っちゃうわよ」
「……いや、それは困る……」
「じゃあ、もう逸子の事は言わないわね?」
「……」
「どうなのよ?」
「……分かったよ……」
アツコは飛び切り可愛い笑顔をコーチに向けた。
つづく
アツコはコーイチを見ながら甘えた声を出す。
「なんだい?」
コーイチは笑顔を浮かべながら、少しずつ後退する。エデンの園に来てからと言うもの、事ある毎に、このような感じでアツコは迫ってくる。コーイチは何とかアツコの積極的なアプローチをかわし続けた。しかし、アツコはそれが楽しいのか、止める気配がない。
「あのね、そろそろ家を建てない?」アツコはにこにこしている。「どうかしら?」
「どうかしらって……」コーイチは困惑する。「どうして家なんて……?」
「だって、いつまでも外での生活なんてイヤでしょ?」
「でもさ、雨も降らないし、気温は最適だし、食べ物も果物だけだけどさ、美味しいものばかりだし、野獣と言われている動物だって大人しいし、ボクは別に不便はしてないけど……」
「ダメよ! 二人で暮らすには、暮らすなりのものって必要じゃない?」
「う~ん…… ボクはここ全部が家って感じなんだけどなぁ……」
「わたしはイヤよ! 小さくても良いの! お台所があって、寛げる居間があって、……そして、寝室があって…… きゃっ!」
アツコは言うと顔を真っ赤にしてコーイチを突き飛ばす。コーイチはそのまま雑木林に中に転がった。コーイチがよろよろと起き上ると、アツコは両手で頬を挟んできゃあきゃあ言いながらぴょんぴょん跳ねている。
「あのさ、アツコさん……」コーイチが声をかけた。アツコは頬は手で挟んだままで振り返る。「ボクは家を建てるなんて出来ないよ。アツコさんは出来るのかい?」
「出来るわけないじゃない!」アツコは笑う。「それに道具だって無いじゃない? 何を言い出すかと思ったら!」
「じゃあ……」笑われたコーイチは口を尖らせる。「どうやって家を建てるんだよ?」
「簡単よ」アツコは得意気に胸を張る。「どっかから大工さんたちを集めて来るわ」
「それはいけないよ!」
「どうしてよ!」アツコはぷっと頬を膨らませる。「わたしは、コーイチさんとより快適に過ごしたいの!」
「だから、ボクはこのままで十分に快適だって言っているんだよ」
「でも、台所も居間も寝室も無いのよ!」
「じゃあさ、ここが台所、ここが居間って感じに分けりゃ良いじゃない」
「そんなんじゃ、家とは言えないわ!」
「家だと思えば良いんだよ!」
「ヤダヤダヤダヤダ!」アツコは駄々をこね始めた。「わたしの昔からの夢だもん! 大好きな人と小さな家で暮らすのが夢だったんだもん!」
「えっ?」コーイチは驚く。「大好きな人……?」
「あああっ、もう!」アツコは叫ぶ。「コーイチさんって、どこまで鈍いのよう! わたしの大好きな人って言ったら分かってよう!」
「そんな、急に言われても……」コーイチは言ってからはっと気が付く。「……それって、ボクの事?」
「決まっているじゃない! 気が付かなかったの? どんな頭をしているのよう!」
「だって、ボクには逸子さんが……」
「ふん! な~にが逸子よ!」アツコは吐き捨てるように言う。「あんな乱暴な女は絶対ダメよ! コーイチさんが毎日怪我ばかりしちゃうわ!」
「……いや、ボクはもう慣れたけど……」
「でも、ダメよ!」アツコは赤いオーラを立ち昇らせると、横にある太い幹の樹に右拳を打ち込んだ。めりめりと音を立て樹は途中から折れた。「あんな乱暴な女は、絶対ダメ!」
どっちが乱暴なんだ、いや、乱暴度合いは互角だな…… コーイチは思った。
「ダメだって言われてもさ……」
「じゃあ、コーイチさんは逸子の所に戻れるの? コーイチさん一人で?」アツコはそう言いながらコーイチを意地悪そうな顔で見る。「タイムマシンも持ってないでしょ?」
「それは君のを借りて……」
アツコはにやりと笑うとタイムマシンを取り出してコーイチの前に置いた。コーイチは素早く手に取った。あちこちといじっているコーイチだったが、タイムマシンに何の変化も起こらない。
「あら、コーイチさん、タイムマシンの使い方わかるの?」
アツコは相変わらず意地悪そうな顔をしている。そう言われたコーイチはまたタイムマシンをいじるが、やはり何も変わらない。ふうっと深いため息をつく。
「……いや、わからない……」
「それじゃあ、わたしが教えてあげると思う?」
一瞬、期待の眼差しをアツコに向けたコーイチだったが、すぐに下を向く。
「……いや、思わない……」
「じゃあ、タイムマシンを持っていても無駄ね」
そう言うと、アツコはコーイチの手からタイムマシンを取り上げた。コーイチは抵抗もしなかった。
「ねぇ、コーイチさん……」不意にアツコが真顔になる。「あんまり逸子逸子言っていると、コーイチさんをここに残して、わたしはどこかへ行っちゃうわよ」
「……いや、それは困る……」
「じゃあ、もう逸子の事は言わないわね?」
「……」
「どうなのよ?」
「……分かったよ……」
アツコは飛び切り可愛い笑顔をコーチに向けた。
つづく
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