どうしよう! どうしよう!
コーイチは口を押さえたままノートを見つめていた。やっぱり昨日の事は本当だったんだ。ノートに課長の名を書いてノートに指を噛まれて恐ろしくなって布団をかぶってそのまま眠ってしまって訳の分かんない夢を見て目覚まし時計で目が覚めて……
カチッと音がした。コーイチは音する方を見た。目覚まし時計だった。コーイチは両目を見開いた。この音がしたら二度目の目覚ましが鳴るが近いぞ!
一度目は控え目な音量で、慣れたコーイチはこれで起きる事が出来る。起きてすぐに目ざまし解除をする。そうしないと、二度目は次第に音量を上げて行き、最後にはとどめを刺すような大音響で鳴るからだ。一度うっかりして鳴らしてしまい、アパート中の住人を起こしてしまった事があった。
……鳴ったらノートが確実に目を覚ますだろう! そうなったらどんな事になってしまうのだろう。また指を噛まれたり、脅されたりするんだろうか。冗談じゃないぞ!
コーイチはノートを見ながら音を立てないように座卓の方へにじり寄った。突然、ノートが裏返った。コーイチはぱっと布団の上に戻り、掛け布団をかぶった。少し隙間を作り様子を伺う。ノートは裏返ったままだ。なんだ、寝返りを打っただけか…… コーイチはそろそろと布団を取り、もう一度座卓へにじり寄った。
ジリジリジリ……
まずい、鳴り出した! コーイチは座卓に跳びつき、目覚まし時計を鷲づかみにすると、布団の上に転がり戻り、掛け布団をかぶった。真っ暗闇の中で時計をあちこち触り、ようやく目覚ましを止める事ができた。もう一度少し隙間を作り様子を伺う。ノートはそのままだった。よかった、まだ寝てるぞ……
コーイチはゆっくりと布団から出て、時計を戻そうと座卓へ立ち膝でにじり寄った。テレビ画面に野中小那美アナウンサーの笑顔のアップが映った。コーイチは動きを止めて画面に見入ってしまった。思わず笑い返してしまう。が、すぐにあわてた顔になった。野中アナウンサーの声が次第に大きくなってきたのだ。
えっ? どうしたんだ? なぜなんだ? これじゃぁノートが起きてしまうじゃないか! 小那美ちゃん、もっと静かにしてくれ! 頼む、お願いだ! ボクの命に関わるんだ!
ふと爪先に違和感を感じた。足下を見た。テレビのリモコンがあった。足の親指が音量操作ボタンの「増」を踏んでいた。コーイチは空いているほうの手でリモコンをつかむと布団の上に転がり戻り、掛け布団をかぶった。隙間からリモコンを突き出してあちこち触り、ようやく電源を切る事ができた。ノートの様子を伺う。ノートは寝たままだった。野中小那美アナウンサーのアップが消えていた。
布団からそっと出て、再び立ち膝で座卓へとにじる。何気なく手にしている目覚まし時計を見た。コーイチはあわてて立ち上がった。このままじゃ遅刻だ!
コーイチはリモコンと目覚まし時計を持ったままおろおろとあたりを見回す。とりあえず着替えなくては……
スーツとスラックスとワイシャツとネクタイはすぐそばの押入れの鴨居の縁にハンガーで吊るしてあった。靴下は…… なんとノートの下にあった! 別の靴下を出すには押入れの襖戸を開けなければならないが、この戸は開ける時に黒板に爪を立てて引っかくようなもの凄く不快で大きな音を立てる。困った、開けられない。しかし、もたもたしていると完全に遅刻してしまう…… 昨日ノートへの書き込んだ吉田課長のことも気になるし(あんな変な夢も見てしまったし)……
コーイチは意を決したようにリモコンと目覚まし時計を布団の上に置き、ワイシャツとスーツを羽織り、スラックスを穿き、空のカバン(中身を全部出してしまったので)とネクタイを持ち、そおーっと玄関に向かった。外に出てからボタンだのベルトだのネクタイだのをきちんとすれば良いさ。靴下はいつもの利用しているコンビニエンス・ストアで買えば良いさ。とにかく会社へ行かなければ……
ノートは裏返ったまま真ん中あたりを少し開いたり閉じたりしている。くそう! こやつのせいでボクはどうなってしまうんだ! コーイチはノートを睨みつけながら、しかしノートをできるだけ遠巻きにしながら、玄関へ歩を進めた。
靴をつっかけ、ドアノブを静かに回す。帰ってきたら居なくなっていてくれると良いんだがなぁ…… コーイチはゆっくりとドアを押し開けながら、ちらっとノートを振り返り見て思った。
つづく
コーイチは口を押さえたままノートを見つめていた。やっぱり昨日の事は本当だったんだ。ノートに課長の名を書いてノートに指を噛まれて恐ろしくなって布団をかぶってそのまま眠ってしまって訳の分かんない夢を見て目覚まし時計で目が覚めて……
カチッと音がした。コーイチは音する方を見た。目覚まし時計だった。コーイチは両目を見開いた。この音がしたら二度目の目覚ましが鳴るが近いぞ!
一度目は控え目な音量で、慣れたコーイチはこれで起きる事が出来る。起きてすぐに目ざまし解除をする。そうしないと、二度目は次第に音量を上げて行き、最後にはとどめを刺すような大音響で鳴るからだ。一度うっかりして鳴らしてしまい、アパート中の住人を起こしてしまった事があった。
……鳴ったらノートが確実に目を覚ますだろう! そうなったらどんな事になってしまうのだろう。また指を噛まれたり、脅されたりするんだろうか。冗談じゃないぞ!
コーイチはノートを見ながら音を立てないように座卓の方へにじり寄った。突然、ノートが裏返った。コーイチはぱっと布団の上に戻り、掛け布団をかぶった。少し隙間を作り様子を伺う。ノートは裏返ったままだ。なんだ、寝返りを打っただけか…… コーイチはそろそろと布団を取り、もう一度座卓へにじり寄った。
ジリジリジリ……
まずい、鳴り出した! コーイチは座卓に跳びつき、目覚まし時計を鷲づかみにすると、布団の上に転がり戻り、掛け布団をかぶった。真っ暗闇の中で時計をあちこち触り、ようやく目覚ましを止める事ができた。もう一度少し隙間を作り様子を伺う。ノートはそのままだった。よかった、まだ寝てるぞ……
コーイチはゆっくりと布団から出て、時計を戻そうと座卓へ立ち膝でにじり寄った。テレビ画面に野中小那美アナウンサーの笑顔のアップが映った。コーイチは動きを止めて画面に見入ってしまった。思わず笑い返してしまう。が、すぐにあわてた顔になった。野中アナウンサーの声が次第に大きくなってきたのだ。
えっ? どうしたんだ? なぜなんだ? これじゃぁノートが起きてしまうじゃないか! 小那美ちゃん、もっと静かにしてくれ! 頼む、お願いだ! ボクの命に関わるんだ!
ふと爪先に違和感を感じた。足下を見た。テレビのリモコンがあった。足の親指が音量操作ボタンの「増」を踏んでいた。コーイチは空いているほうの手でリモコンをつかむと布団の上に転がり戻り、掛け布団をかぶった。隙間からリモコンを突き出してあちこち触り、ようやく電源を切る事ができた。ノートの様子を伺う。ノートは寝たままだった。野中小那美アナウンサーのアップが消えていた。
布団からそっと出て、再び立ち膝で座卓へとにじる。何気なく手にしている目覚まし時計を見た。コーイチはあわてて立ち上がった。このままじゃ遅刻だ!
コーイチはリモコンと目覚まし時計を持ったままおろおろとあたりを見回す。とりあえず着替えなくては……
スーツとスラックスとワイシャツとネクタイはすぐそばの押入れの鴨居の縁にハンガーで吊るしてあった。靴下は…… なんとノートの下にあった! 別の靴下を出すには押入れの襖戸を開けなければならないが、この戸は開ける時に黒板に爪を立てて引っかくようなもの凄く不快で大きな音を立てる。困った、開けられない。しかし、もたもたしていると完全に遅刻してしまう…… 昨日ノートへの書き込んだ吉田課長のことも気になるし(あんな変な夢も見てしまったし)……
コーイチは意を決したようにリモコンと目覚まし時計を布団の上に置き、ワイシャツとスーツを羽織り、スラックスを穿き、空のカバン(中身を全部出してしまったので)とネクタイを持ち、そおーっと玄関に向かった。外に出てからボタンだのベルトだのネクタイだのをきちんとすれば良いさ。靴下はいつもの利用しているコンビニエンス・ストアで買えば良いさ。とにかく会社へ行かなければ……
ノートは裏返ったまま真ん中あたりを少し開いたり閉じたりしている。くそう! こやつのせいでボクはどうなってしまうんだ! コーイチはノートを睨みつけながら、しかしノートをできるだけ遠巻きにしながら、玄関へ歩を進めた。
靴をつっかけ、ドアノブを静かに回す。帰ってきたら居なくなっていてくれると良いんだがなぁ…… コーイチはゆっくりとドアを押し開けながら、ちらっとノートを振り返り見て思った。
つづく
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