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霊感少女 さとみ 122

2018年09月13日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
 ももがすっとスピーカーの前に来て、ちょっと斜めに立った。その位置だと、スピーカーの上のモニターカメラに、顔がよく見えるように映る事を知っているからだ。しかし、相手はそんな事に気が付いていない。
「おや、そんなかわいい娘が、僕に何の用だい?」最初の応対のぶっきらぼうさとは打って変わって、猫なで声になっている。「しかも、こんな夜遅くに」
「あ、はい、ありがとうございます……」ももはわざとらしく戸惑った振りをする。「……あの、実は、わたしは戸川芽莉菜の妹なんです」
「戸川……」初めて聞いたような感じで相手は答えた。「戸川…… 芽莉菜…… さん?」
「そうです、戸川芽莉菜です」ももの声にうっすら怒りがにじんだようにさとみは思った。「はい、ここいらではトメって呼ばれているようなんです」
「……トメ……」相手の声が上ずっている。「どこのトメちゃん?」
「シャノアールで働いているって言ってました」
「……ああ、シャノアールのトメちゃん……」少し間が開いた。「……でも、最近は会ってないなあ……」
「そうなんですか……」怒りが増しているようだ。「会ってないんですか……」
「うん、そうなんだよね……」
「分かりました、お邪魔しました」
 ももがスピーカーから離れようとした。驚いてももを見上げるさとみに、ももはウインクして見せた。何かあるようだ。
「ちょ、ちょっと待って!」慌てた声がスピーカーから流れた。「せっかく来てくれたんだし、何か役に立てるかもしれないし……」急にキザったらしい声に変わる。「それに、こんな可愛い娘をこんな時間に放り出すわけにはいかないよ」
 ももは勝ち誇ったような表情をさとみに向けた。しかし、さとみは男の本性を垣間見たようで鳥肌を立てていた。
「……で、君、名前はなんて言うの?」
「ももって言います」
「ももちゃんか…… 可愛い名前だね」
 うわあ! さとみは思わずおでこをぴしゃぴしゃやり出した。
「姉はよく連絡をくれていたんですけど、ここ数日音信不通になっていて……」
「音信不通?」
「それで、心配して探しに来たんです。ひょっとして殺された、とか……」
「おいおい、いきなり恐ろしい事を言うねぇ……」相手の声が弱々しくなっていく。「……それで、どうして僕の所に?」
「とっても親しくしてくれたって、シャノアールのマスターに聞いたんです」ももの声に力が入る。過去を思い出しているようだった。「一緒に出掛けたり、食事に誘ってくれたり、色々プレゼントしてくれたり……」
 ももの握りこぶしに力が入っていくのが分かった。……いけない! このままじゃ…… さとみは、ぽんとももの背中を叩いた。ももははっとしてさとみに振り返る。それからモニターカメラに向き直った。
「……でも、最近会ってないんなら仕方ないですね……」深いため息を漏らす。さとみの方に振り返り、笑顔を向ける。「ありがとう……」
「おや、誰かそこに居るのかい?」
 ももが背後のさとみを引っ張り出して、モニターカメラに映す。
「一緒に来てもらった友達のさとみです」
「ふーん……」
 相手の声が止まった。さとみを観察しているようだった。さとみはどうするでもなくぽけっとした表情で立っている。
「……で、ももちゃん」
「はい?」
 ももがさとみと入れ替わる。カメラから外れたところで、さとみはほっとしたように深呼吸をする。気が付くと、竜二が腹を抱えて笑っている。さとみは霊体を抜け出させて竜二の前に立つ。
「竜二、何が可笑しいのよう!」
「だってさ……」竜二はまだ笑っている。「さとみちゃん、全然相手にされてないみたいでさ、なんだか可笑しくって」
「お前はこの状況を分かっているの?」さとみが怒鳴る。「笑い事じゃないでしょう! もっと真剣になってよね!」
「でもさ……」
 竜二は豆蔵とみつを見る。二人は笑ってはいなかった。豆蔵がずいっと一歩前に出て大きく頷く。
「そうですぜ竜二さん。ここからが正念場ですぜ。軽く考えていると、思わぬ失態を演じますぜ」
「いかにも」みつも腕組みをしながら頷く。「今少しの、いえ、ま、まつくす(「ああ、マックス、最大級ね。みつさん。勉強してるのね」さとみが注釈を入れる。みつは頬を染めた)の緊張感を持った方がよろしいかと思います」
「ほうら!」さとみが勝ち誇ったように胸を張る。「みんなもそう思っているのよ」
「でもさ、オレって緩衝剤なんだろ? だからさ……」
「今はいらないの!」
 言い捨てて霊体を戻す。
「さとみちゃん……」ももが右手でVサインを作った。「あいつのところに行けるわ」
「そう!」
 さとみは喜んだが、これからの事を思い、気を引き締めた。
 出入り口の大きなガラスドアが音もなく左右に開いた。 

つづく

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