お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

豆蔵捕り物帳 3

2022年01月21日 | 霊感少女 さとみ 外伝 1
 鉄太郎は長屋の自分の部屋を出た所で倒れていて、そこで絶命していた。隣のおたき婆さんが最初に見つけたそうだ。
「なんだか男同士が大きな声で怒鳴り合ってての。わしゃ、怖くって部屋の隅で震えとった。そのうち声が止んだんでな、そっと外を覗いたら、鉄太郎が倒れとった。背中に包丁を刺したままでな」
 おたき婆さんが言う。こんな痩せっぽちの婆さんが震えたら骨のぶつかり合う音がしそうだぜ、と、豆蔵は思った。
「言い争っていた相手の声とかに聞き覚えはねぇかい?」
「まあ、鉄太郎んとこには碌でねぇ連中がしょっちゅう出入りしとったからのう。そいつらの誰かだとは思うが、誰とは分からん」
「あたしゃ、ちらっと見たよ」そう言ってきたのは、鉄太郎の部屋の向かいに住む佐助の女房のおてるだ。「いつもよりも大きな声がしてさ、それも喧嘩っぽいだろう? 鉄太郎のヤツ、また揉め事かいって思って、そっと引き手の穴から覗いたんだ。大柄の男だったよ」
「どんな話をしていたか分かるかい?」
「金を返せだのなんだのだったかねぇ…… 鉄太郎、働きもしないで、遊び回っていたからね。あちこちから金を借りてたんじゃないかい? それで、怖い借金取りでも来たんだろうさ」
「そうかい」
「大家さんが来ても怒鳴り散らして追い帰していたよ。近所の子供は泣かすし、勝手に人ん家に入って食い物を持って行くし、正直、死んでくれて清々しているよ」
「おいおい、そんな事を言うもんじゃねぇよ。死んだら仏だ」
「あいつは迷わず地獄行きさ」
 ぷりぷりと怒っているおてるを置いて、豆蔵は長屋を去る。
「親分、どうしやす? その借金取りを追っかけてみやすか?」
 松吉が鼻息荒く言う。
「いや、その前ぇに、もう一度、鉄太郎の死骸を見ておきてぇ」
「何か気になる事でも?」
「まあな……」豆蔵は言うと腕組みをする。「背中を刺されたってのがしっくりこねぇんだ」


つづく

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