とにかくパーティ会場に行こう。
コーイチはエレベーターに乗り込んだ。ドアの向かい側の壁に背中をぴたりと付け、ドアの方をにらむ。こうしておけば、背後から声をかけられることもないし、途中の階で誰が乗り込んで来ても確認できる。これだけしておけば例の赤い服の彼女も、いきなり現われたりできないだろう……きっと、多分、おおよそ……。少々不安なコーイチだった。
それにしても、あの赤い服の娘は誰なんだろう。引き出しから現われたり、電話をして来たり、非常階段に居たり、サイフを拾ってみたり、ウエイトレスになったり…… ひょっとすると、人間じゃないのかもしれない。そう、どう考えても人間じゃない。現われるだけならまだしも(現われ方も普通じゃないが)、突然消えてしまうんだものな。あの消え方は人間業じゃないよな。でも、どうしてボクにつきまとうんだろう。何かしたかな…… コーイチは五階への昇降ボタンに指をかけたまま、じっと考え込んだ。
「そうか! あのノートか!」
コーイチは叫んだ。
そうだ、そうだよ、そうなんだ! 人間業じゃない事と言えば、あのノートしかないよな。今日のこのパーティだって、ノートに吉田部長の名を書いたのが原因なんだ。あんなしょぼくれ部長になってしまったのもノートに名を薄~く書いたせいなんだ。
ま、それはそれとして、あの娘はノートとどんな関係があるんだろう。持ち主なのかな? だったら「ノート返して!」くらいは言うはずだ。でも、そんな事は言わないで「んふふふふ」なんて笑ってばかりだ。
ボクをからかっているのかな。からかう側は楽しいだろうが、からかわれる側はあまり楽しくない。そう言えば、名前も聞いていないぞ。あっちはボクの名前やその他の事も色々知ってそうだ。何かイヤだな。ずっと監視されているみたいだ。でも、でも・・・可愛いから許す、かな。
また腹の虫がぐうぅぅぅっと、長く鳴った。
ま、いいか。「下手な考え、野菜の煮物」とか言うものな。それに「腹が減っては命が縮む」とも言うし。
コーイチは昇降ボタンの五階を押した。すうっと上がって行く感覚が全身に伝わる。ドアの上にある、階を表示するデジタルパネルの数字が一つ一つ上がって行く。
「3」……「4」……「4・5」……
「えっ! 4・5?」
コーイチが驚いていると、エレベーターが止まり、ドアが開いた。外には真っ暗な空間が広がっていた。その中に例の彼女が例の赤い服装で,ふわりふわりと浮かんでいた。コーイチを見てにっこりと微笑んだ。
「んふふふふ。やっと気付いてくれたのね、ノートの事」
少しエコーの掛かっているような声で彼女は言った。コーイチの腹の虫がまたぐうぅぅぅっと大きく鳴いた。
「あらあら、お腹が空いているんだ。じゃ、しっかりと食べてね。バイバ~イ!」
彼女は左右に手を振った。ドアが閉まり始めた。
「あっ、き、君の名は?」
ドアが閉まり、上がって行く感覚が戻った。階の表示は「5」となって止まった。ドアが開いた。赤いカーペットの敷き詰められたロビーへ出る。右側に「広間A」と金文字で書かれたプレートの貼ってある幅も高さも大きなドアが見えた。
やっぱりノートと関係があるんだ。でも、どう関係があるのかは言ってくれなかったなぁ。ま、しっかりと食べてなんて言ってくれていたから、今はそれだけを考えておこう…… しかし、こんな怪現象にすっかりと馴染んでしまったよなぁ、いいのかなぁ……
「ま、いいか」
コーイチはつぶやいて、ドアへと向かった。
つづく
コーイチはエレベーターに乗り込んだ。ドアの向かい側の壁に背中をぴたりと付け、ドアの方をにらむ。こうしておけば、背後から声をかけられることもないし、途中の階で誰が乗り込んで来ても確認できる。これだけしておけば例の赤い服の彼女も、いきなり現われたりできないだろう……きっと、多分、おおよそ……。少々不安なコーイチだった。
それにしても、あの赤い服の娘は誰なんだろう。引き出しから現われたり、電話をして来たり、非常階段に居たり、サイフを拾ってみたり、ウエイトレスになったり…… ひょっとすると、人間じゃないのかもしれない。そう、どう考えても人間じゃない。現われるだけならまだしも(現われ方も普通じゃないが)、突然消えてしまうんだものな。あの消え方は人間業じゃないよな。でも、どうしてボクにつきまとうんだろう。何かしたかな…… コーイチは五階への昇降ボタンに指をかけたまま、じっと考え込んだ。
「そうか! あのノートか!」
コーイチは叫んだ。
そうだ、そうだよ、そうなんだ! 人間業じゃない事と言えば、あのノートしかないよな。今日のこのパーティだって、ノートに吉田部長の名を書いたのが原因なんだ。あんなしょぼくれ部長になってしまったのもノートに名を薄~く書いたせいなんだ。
ま、それはそれとして、あの娘はノートとどんな関係があるんだろう。持ち主なのかな? だったら「ノート返して!」くらいは言うはずだ。でも、そんな事は言わないで「んふふふふ」なんて笑ってばかりだ。
ボクをからかっているのかな。からかう側は楽しいだろうが、からかわれる側はあまり楽しくない。そう言えば、名前も聞いていないぞ。あっちはボクの名前やその他の事も色々知ってそうだ。何かイヤだな。ずっと監視されているみたいだ。でも、でも・・・可愛いから許す、かな。
また腹の虫がぐうぅぅぅっと、長く鳴った。
ま、いいか。「下手な考え、野菜の煮物」とか言うものな。それに「腹が減っては命が縮む」とも言うし。
コーイチは昇降ボタンの五階を押した。すうっと上がって行く感覚が全身に伝わる。ドアの上にある、階を表示するデジタルパネルの数字が一つ一つ上がって行く。
「3」……「4」……「4・5」……
「えっ! 4・5?」
コーイチが驚いていると、エレベーターが止まり、ドアが開いた。外には真っ暗な空間が広がっていた。その中に例の彼女が例の赤い服装で,ふわりふわりと浮かんでいた。コーイチを見てにっこりと微笑んだ。
「んふふふふ。やっと気付いてくれたのね、ノートの事」
少しエコーの掛かっているような声で彼女は言った。コーイチの腹の虫がまたぐうぅぅぅっと大きく鳴いた。
「あらあら、お腹が空いているんだ。じゃ、しっかりと食べてね。バイバ~イ!」
彼女は左右に手を振った。ドアが閉まり始めた。
「あっ、き、君の名は?」
ドアが閉まり、上がって行く感覚が戻った。階の表示は「5」となって止まった。ドアが開いた。赤いカーペットの敷き詰められたロビーへ出る。右側に「広間A」と金文字で書かれたプレートの貼ってある幅も高さも大きなドアが見えた。
やっぱりノートと関係があるんだ。でも、どう関係があるのかは言ってくれなかったなぁ。ま、しっかりと食べてなんて言ってくれていたから、今はそれだけを考えておこう…… しかし、こんな怪現象にすっかりと馴染んでしまったよなぁ、いいのかなぁ……
「ま、いいか」
コーイチはつぶやいて、ドアへと向かった。
つづく
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