由美子が結婚をするそうだ。僕と由美子との共通の女友達から聞いた。
別れてから約一年が経っていた。別れたとは言っても、僕が一方的に振られたのだ。
原因は、多分、僕の将来性が問題だったのだろう。
僕は小さな会社に入って、毎日残業をしていた。それでも、給料は大したことがなかった。由美子は当初は気にはしていなかったが、仕事仕事と繰り返して会えなくなった割には給料も上がらなかった。むしろ、由美子の方が給料が良かった。見かねた由美子が僕に転職を勧めたのだが、これと言ったスキルの無い僕が、やっと入る事の出来たのが今の会社だった。辞めてすぐに次が見つかるか不安だった。
そんな自信の無い僕に由美子がうんざりしたのだろう。
電話が架かって来て、「孝史さん、わたしたちもうおしまいね。もう連絡しないで」と言われた。僕の部屋の合鍵を作ってほしいと言われていたので、作ったばかりだった。「でも、合鍵を作ったんだけど……」「そう。もう知らないわ。捨てちゃえば? さようなら、加藤孝史さん」それが最後の会話だった。
完璧に振られたと思った僕は、由美子を追いかけるようなことはしなかった。本当は追いかけて、説得して、強い男になると宣言できれば良かったのかもしれない。しかし、それが出来るような男ではない事を、僕自身が一番よく知っていた。
由美子の結婚を知って、僕は旅行に出ようと思った。傷心に秋が良く似合う(某文豪のパクリみたいだ)。どこか景色の良い所にでも行けば、やり直せそうな気がしたのだ。もっと自分に自信を持って行動出来そうだ。
僕は駅の旅行案内センターに行った。そこには紅葉が綺麗な表紙のパンフレットが色々と並んでいた。その中の一部を手に取った。直感的にそこに決めた。すぐに受付で手続きをした。出発はシルバーウィークの始まる土曜日だ。
一方的に別れを告げられた。昨日まで、何ら変わらなかったのに……
健二がわたしのアパートに来た。上がるように言ったのに、部屋に上がらない。そして、わたしの部屋の合鍵をすっと差し出して「終わりにしよう、薫」と言った。突然の事で頭の中が真っ白になった。「オレ、何でも深刻に心配事にとらえる、お前の重ったるい性格がダメだ……」健二は無理やり合鍵をわたしの手に握らせると出て行ってしまった。わたしは呆然としてしまい、その日はただベッドの上に座っていたのを覚えている。
翌日、健二に電話をした。出てくれなかった。メールを送ったら返事が来た。「さようなら、池田薫さん」それだけだった。
「重ったるい性格」…… 健二はそう言っていた。わたしなりに努力した結果が、これだった。ここでまた深刻になったり心配したりしたら、ますます「重ったるい性格」と思われてしまうだろう。
付き合って三年。無駄な時間だった。そうは思いたくは無かったけど、結果はその現実を突き付けてきた。
気分を変えたかった。旅行でもしよう、そう思った。傷心旅行なんてちょっと古臭い感じがするけど、秋はそんな気分にさせるものがある。そして、やり直せそうな気持ちにもなる。重ったるくない自分になれそうだ。
わたしは駅の旅行案内センターに行った。そこには紅葉が綺麗な表紙のパンフレットが色々と並んでいた。その中の一部を手に取った。直感的にそこに決めた。すぐに受付で手続きをした。出発はシルバーウィークの始まる土曜日だ。
シルバーウィークの土曜日。観光地へ向かう列車で、仲良く話をしている男女がいた。
たまたま隣同士になり、たまたま行き先も同じだった。そして、たまたま傷心旅行と言う事も同じだった。
男性は加藤孝史と名乗り、女性は池田薫と名乗った。
孝史は、「今の会社を辞めて、新たなスキルを学びつつ仕事を探すつもりだ」ときっぱりと語る。
薫は、「頑張ってね、きっと出来るわ」と明るく励ます。
新たな出会いを祝福するように、列車の汽笛が鳴った。
別れてから約一年が経っていた。別れたとは言っても、僕が一方的に振られたのだ。
原因は、多分、僕の将来性が問題だったのだろう。
僕は小さな会社に入って、毎日残業をしていた。それでも、給料は大したことがなかった。由美子は当初は気にはしていなかったが、仕事仕事と繰り返して会えなくなった割には給料も上がらなかった。むしろ、由美子の方が給料が良かった。見かねた由美子が僕に転職を勧めたのだが、これと言ったスキルの無い僕が、やっと入る事の出来たのが今の会社だった。辞めてすぐに次が見つかるか不安だった。
そんな自信の無い僕に由美子がうんざりしたのだろう。
電話が架かって来て、「孝史さん、わたしたちもうおしまいね。もう連絡しないで」と言われた。僕の部屋の合鍵を作ってほしいと言われていたので、作ったばかりだった。「でも、合鍵を作ったんだけど……」「そう。もう知らないわ。捨てちゃえば? さようなら、加藤孝史さん」それが最後の会話だった。
完璧に振られたと思った僕は、由美子を追いかけるようなことはしなかった。本当は追いかけて、説得して、強い男になると宣言できれば良かったのかもしれない。しかし、それが出来るような男ではない事を、僕自身が一番よく知っていた。
由美子の結婚を知って、僕は旅行に出ようと思った。傷心に秋が良く似合う(某文豪のパクリみたいだ)。どこか景色の良い所にでも行けば、やり直せそうな気がしたのだ。もっと自分に自信を持って行動出来そうだ。
僕は駅の旅行案内センターに行った。そこには紅葉が綺麗な表紙のパンフレットが色々と並んでいた。その中の一部を手に取った。直感的にそこに決めた。すぐに受付で手続きをした。出発はシルバーウィークの始まる土曜日だ。
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一方的に別れを告げられた。昨日まで、何ら変わらなかったのに……
健二がわたしのアパートに来た。上がるように言ったのに、部屋に上がらない。そして、わたしの部屋の合鍵をすっと差し出して「終わりにしよう、薫」と言った。突然の事で頭の中が真っ白になった。「オレ、何でも深刻に心配事にとらえる、お前の重ったるい性格がダメだ……」健二は無理やり合鍵をわたしの手に握らせると出て行ってしまった。わたしは呆然としてしまい、その日はただベッドの上に座っていたのを覚えている。
翌日、健二に電話をした。出てくれなかった。メールを送ったら返事が来た。「さようなら、池田薫さん」それだけだった。
「重ったるい性格」…… 健二はそう言っていた。わたしなりに努力した結果が、これだった。ここでまた深刻になったり心配したりしたら、ますます「重ったるい性格」と思われてしまうだろう。
付き合って三年。無駄な時間だった。そうは思いたくは無かったけど、結果はその現実を突き付けてきた。
気分を変えたかった。旅行でもしよう、そう思った。傷心旅行なんてちょっと古臭い感じがするけど、秋はそんな気分にさせるものがある。そして、やり直せそうな気持ちにもなる。重ったるくない自分になれそうだ。
わたしは駅の旅行案内センターに行った。そこには紅葉が綺麗な表紙のパンフレットが色々と並んでいた。その中の一部を手に取った。直感的にそこに決めた。すぐに受付で手続きをした。出発はシルバーウィークの始まる土曜日だ。
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シルバーウィークの土曜日。観光地へ向かう列車で、仲良く話をしている男女がいた。
たまたま隣同士になり、たまたま行き先も同じだった。そして、たまたま傷心旅行と言う事も同じだった。
男性は加藤孝史と名乗り、女性は池田薫と名乗った。
孝史は、「今の会社を辞めて、新たなスキルを学びつつ仕事を探すつもりだ」ときっぱりと語る。
薫は、「頑張ってね、きっと出来るわ」と明るく励ます。
新たな出会いを祝福するように、列車の汽笛が鳴った。
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