Ⅰ
「知ってるかい? 流れ星が消えるまでに、三回お願いごとを繰り返すと叶うって話」
「ええ、知っているわ」
「今夜はここで流星群が見られるから、お願いしまくりだね」
「そうね。楽しみだわ」
「……あっ、始まったみたいだよ」
「……ああっ! ダメだわ……」
「どうしたんだい?」
「どれにお願いすれば良いのか、決めているうちに流れて行っちゃうの……」
「そうなんだ……」
「それに降ってくる速度が速くって、三回のお願いなんて間に合わないわ……」
「そうなんだ……」
「どうしよう…… お願いが叶わないかも……」
「どんな願いなんだい? 教えてくれるかい?」
「あのね、わたしはあなたが好き。だから、あなたもわたしが好きになってくれるようにって……」
「ははは……」
「笑わないでよ!」
「ごめん、ごめん…… でも、それはどうかなぁ? 叶うかなぁ?」
「えっ! どう言う事…… ……叶わないって事なの? そんなぁ……」
「だってさ、もうこれ以上無いってくらい叶っているんだよ」
「まあ!」
Ⅱ
「ねえ、『招き猫の日』って知ってる?」
「知らないけど?」
「九月二十九日の事よ」
「どうしてだい?」
「招き猫って福を呼ぶって言うじゃない? だから、来る福っていうことで、来るに九を、福は二つに分けて、ふに二を、くに九を当てはめたのよ」
「な~んだ、ごろ合わせかよ。もっと深い由来があるのかと思ったよ」
「じゃあさ、『月見うどん』って知ってる?」
「オレの好きなヤツだ」
「そうじゃなくって、別の意味」
「どうせまた、ごろ合わせなんだろう?」
「聞きたい?」
「良いよ、聞かせてくれよ」
「月見ってね、『to 君』って言うの」
「何だ、今度は英語と日本語のごろ合わせかよ」
「で、うどんなんだけど、英語でなんて言うか知ってる?」
「え~と、ヌードルだったっけ?」
「そう、正解。なので、うどんはヌードル。つまり、『ヌードる』って言うことなのよ」
「それって、つまり……」
「そうよ、月見うどんって『to 君 ヌードる』、つまり、わたしはあなたに裸を見せてあげるってことよ」
「じゃあ、オレも月見うどんだ! ……でも月見うどんだけじゃ、済まないよ……」
「まぁ、うふふ……」
Ⅲ
「どうだい?」
「素敵よ。どこから見ても吸血鬼だわ。わたしの知っているドラキュラ伯爵そのままだわ!」
「それは良かった」
「で、わたしは、どうかしら?」
「うん、君も古の魔女、マリ・ダスピルクエットと見紛うばかりだよ」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。かぼちゃのランタンは?」
「ジャック・オー・ランタンだね。小型のだけど二人分用意したよ。ぶら提げて歩こうかね。気分が出るだろうからさ」
「そうね。それは良いアイディアね」
「それとさ、最近手に入れた、腐った卵の臭いスプレーもあるんだ」
「えっ…… それはさすがにちょっと……」
「大丈夫、そんなに長くは持続しないから」
「……なら、良いわ」
「これで準備は万端だ。じゃあ、行こうか……」
「そうね…… 今は魔物だらけの世界になっちゃって、ちょっと外に出るだけで、これだけの事をしなくちゃならないのね……」
「まだおれたちは良い方だ。地下室に隠れていられるんだからね。大概は見つかって食われちまった」
「そうだけど……」
「まあ仕方ないさ。人類は魔物との戦いに敗れたんだから。人だって気づかれたらおしまいだからね……」
「毎日がハロウィンなんて最低ね……」
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