お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

妖魔始末人 朧 妖介  4

2008年01月27日 | 朧 妖介(全87話完結)
「いやっ、来ないで!」
 葉子は布団の襟をしっかりと握りしめ、叫んだ。
「何がいやなんだ。オレが布団を剥ぎ取って、お前の裸の寝姿を晒すとでも思っているのか?」
 葉子は驚いた。本当にそうされそうな気がしていたのだ。自分の想いを口にされ、恥ずかしさで頬が熱くなった。
「何を恥ずかしがっている。お前を裸にして寝かせたのは、オレだ」
 妖介は片膝をベッドの上に乗せ、上体を前に傾けた。葉子の顔をほぼ真上から覗き込む。
「下らん妄想をするな。お前ごときに何もする気はない」
 また想っている事を口にされ、恥ずかしさのあまり葉子はどう答えて良いのか分からず、布団を引き上げて顔を隠そうとした。だが、ベッドの乗せられた妖介の片膝で布団は動かない。それでも引き上げる動作を続けていた。続けながら「なぜ? どうして?」が頭の中で繰り返されていた。
「昨夜の事、どこまで覚えている?」
 妖介の顔が葉子に寄せられた。三十代後半だろうか、やや銀色がかった瞳と吊り上がり気味の目尻、長く垂れた黒髪が薄い唇の細面な顔をさらに細く見せ、より凄惨な感じを加えていた。
「人の顔を呆けたツラで見ていないで、答えろ!」
 妖介は険しい眼差しを葉子に向けた。葉子はあわてて記憶を辿り始めた。
「公園で、あなたともう一人・・・変な人? 変な動物? その後気持ちが悪くなって・・・」
 葉子は生臭い臭いを思い出し、胸が苦しくなった。
「本当に見えていたのか・・・」
 洋介は膝をベッドから離し、立ち上がった。葉子が引き上げていた布団が勢い良く跳ね上がり、下半身が丸出しになってしまった。
「いやっ! いやっ!」
 葉子はとっさに膝を曲げた。妖介は叫ぶ葉子を冷やかに見つめ、舌打ちをした。
「やかましい女だ。ヤツに迫られて小便を垂れ流し、オレが声をかければ反吐を吐きまくって気を失いやがった。そのままにして、小便と反吐まみれの格好を、翌朝多くの視線に晒すのも悪くなかったな」
 葉子はベッドの上に座り込み、布団を体に巻きつけるように掛け、妖介を睨みつけた。なんて事を言うのかしら! だが、また恥ずかしさで頬が熱くなった。

       つづく




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