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ジェシル、ボディガードになる 132

2021年06月05日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「叔父様、『貴族たる者、正義一徹を旨とせよ』と言う言葉ですわ。思い出しましたか?」ジェシルが言う。「それを実行して頂きたいと思いますの。……はい? 今は忙しい? さっきも言いましたけど、笑えない冗談は、わたしは大嫌いです。……え? わたしがお願いするんですよ? 今すぐに決まっているじゃないですか!」
 ジェシルは、ミュウミュウから聞いた、ボスワイ星とベスワイ星、ビスワイ星との問題を伝えた。
「……と言う訳なんです。……その言い方は、疑っているんですか? じゃあ、調べれば良いじゃないですか。……え? 調べたらわたしの言う通りだったって? 言われなきゃ気が付かないって、一体評議院って何をするところなんですか? 年寄りの憩いの場なんですか? 裏工作があって、懐柔しされている人もいるとか聞きましたわ。そいつらを追放してください。……はあ? 各人には各人の事情があるから、ですってぇ? 叔父様、わたしを本気で怒らせたいのですね? どうなっても良いのですね? ……善処するっておっしゃるんですか? どうやるんですか? ……まずは対話を促すと…… 笑えない冗談は嫌いだと言いましたよね? ……じゃあどうすれば良いのか、ですか? 分かりませんか? 全宇宙連合軍をベスワイとビスワイの向けて出撃させて、ギッタンギッタンにグッチャングッチャンにしてやるのよ! そしてボスワイの人たちを開放するの! それくらいの事も分からないんですか? 叔父様もすっかり耄碌しましたわね。交代の時期なんじゃないですか? ついでに評議員の年寄りたちも総入れ替えをした方が良いんじゃないですか? 老醜を晒す老害って言われる前に。あっ、もう言われているのかしら? とにかく、即刻動いてください。……でも、ってなんですか? 何を躊躇しているんですか? 宇宙の秩序を乱す者たちを征伐するんですから、堂々と行えば良いじゃないですか! 良いですね? だらだらしているんじゃありませんよ? 評議院が動いたかどうかなんて、すぐに分かるんですからね!」
 ジェシルは電話を切る。通話中、ずっとむっとしていたが、ミュウミュウに向けた顔は笑顔だった。
「もう大丈夫よ。ボスワイ星の人たちはすぐに解放されて、平和になるわ」
「……ありがとうございます」ミュウミュウの両頬を涙が伝う。「本当に、ありがとうございます……」
 ミュウミュウはその場にしゃがみ込んで泣き出した。ジェシルはその震えている肩を優しく叩く。皆も立ち止まり、成り行きを見ていた。しばらくして、ミュウミュウは、まだ鼻をすんすんと鳴らしながらも立ち上がった。一行は再び歩きはじめる。
「……本当だったんですね……」ミュウミュウはジェシルに言う。「ジェシル・アンは宇宙一古い貴族の直系で、その一族は高い地位にあるって……」
「偶然よ、偶然」ジェシルは事も無げに答える。「でもね、こう言った時には使えるわね」
「評議員の叔父さん、ジェシルさんをかなり怖れているようでしたけど……」
「ははは!」ジェシルは楽しそうに笑う。「わたしは言ってみれば当主だから。当主の言う事は絶対なのよ」
「……それだけとは思えませんけど?」ミュウミュウの表情に、からかうような笑顔が浮かぶ。「ジェシルさんって、実際に怖いんじゃないですか?」
「まあ、良いじゃないの」ジェシルは言う。「この話はこれでおしまい。まだ、あなたの話が途中だったわね?」
「そうでしたね……」ミュウミュウの笑顔がふっと消えた。「……散々の迫害を受け続けたわたくしたちの中の何人かが、星から脱出する事を計画しました。わたくしもそれに加わりました。中古の宇宙艇を手に入れて……」
 しかし、脱出を計画した中に、ベスワイと通じている者がいたのだ。脱出を決行すると言う日になって、ベスワイの武装警官たちが急襲した。女性と言う事で先に宇宙艇に乗っていたミュウミュウだったが、武装警官たちに引きずり出されそうになった。仲間たちが抵抗し、命と引き換えにして、ミュウミュウだけが宇宙艇で脱出する事が出来た。
「……結局、誰が密告者だったのか、分かりませんでした……」ミュウミュウは言う。苦悶の表情になっていた。「わたくしだけが助かったんです…… わたくし以上に、外の世界に希望を持っていた仲間がいたのに……」
「……それは、どうしようも出来ない事よ」ジェシルは言う。「でも、それからも大変だったでしょう?」
「……そうですね。わたくしはボスワイ星以外の事は全く知りませんでしたから……」思い出したくない過去と向かい合って、ミュウミュウの表情は暗い。「……辛い経験ばかりでした」
「でも、こうしてリタおばあちゃんと知り合ったじゃない?」
「そうですね」ミュウミュウに笑顔が戻った。「リタ様と知り合えて、こうして身の回りのお世話が出来るようになって、本当に幸せ者だと思っています」
「良かったわね。終わり良ければ全て良しって言うわ」
「そうですね……」ミュウミュウは振り返って、リタを見た。その眼差しは優しい。「わたくし、一生、リタ様にお仕えする所存ですわ」 


つづく

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