むかしむかし、ある村に、何をされても怒らない、五助と言う若い衆がいました。馬鹿にされても、殴られても、いつもへらへらしていたのでした。
五助は元々が村の者ではありません。どこからともなくふらりとやって来て、いつの間にか住みついたのでした。
だからなのか、五助にされる仕打ちについては、年寄りたちもうるさく言わなかったのです。閉鎖的な田舎の村、しかも、他所者。村八分とまでは行かなかったものの、それに近い扱いを五助は受けていたのでした。
気の毒に思った村の娘のおちえが五助に訊きました。本当は、気の毒に思っただけではないのですけどね。
「のう、五助。何で怒らんのじゃ? おなごのわしでも腹が立つぞえ」
「ははは、こんな程度では腹の皮一枚も立たぬわさ」
「どつかれて、痛くはないのかえ?」
「あんななまくら、ちっとも効かんわ」
「……ほんに、五助は辛抱の強い事じゃ」
おちえは感心するやら呆れるやらで、五助の色白で鼻筋の通った横顔を見つめていました。
そんなある日、おちえはとんでもない事を知ったのでした。村の若い連中で、誰が五助を怒らせるかを競う事を決めたと言うのです。
おちえは五助の所に行きました。
「村の若い衆どもが、われを怒らそうと企んでおるえ。何をされるか分からんぞえ」
「ははは、気にするでないわ、捨て置け、捨て置け」
五助はいつもと変わらない穏やかな表情で、おちえの話を取り合いません。
「大丈夫かいなぁ……」
おちえは心配そうに呟きました。
おちえの心配は当たりました。
それからと言うもの、五助を後ろから殴りつける者、家に猫や犬の死骸を投げ込む者が現れました。
ですが、五助はへらへらしているだけでした。
そして、ついには、畑に植えたものを根こそぎ引き抜く者、五助の家を壊す者まで現われたのでした。
おちえが血相を変えて五助の家に駈け付けました。元々が掘っ立て小屋のような五助の家の壁に穴が開いていました。犬猫の死骸が嫌な臭いを立てています。
「なあ、五助……」おちえは顔をしかめ、鼻をつまみながら言います。「このままだと命も取られかねんぞえ。元々が他所の者じゃろ、村を出れば良かろうが」
「気にするな、気にするな」
「……なあ、わしも一緒について行くだで、二人でどこかで暮らそうや……」
「ほう……」五助は頬を染めるおちえを見ます。「ははは、お前がそこまで決心する必要はねぇわさ。やつらの好きにさせておけば良いのじゃ」
「だども……」
「なあに、あと少しの辛抱だでな」
「何かあるんか?」
「ははは、それは、いくらおちえでも、言えんなぁ」
五助はそう言って、相変わらず笑っています。
さすがにおちえも腹を立てました。
「もう、うんざりじゃ! もうわれの事など知らんわ! これほどに心配しておるのに!」
おちえは怒って行ってしまいました。
五助はおちえの後ろ姿を見えなくなるまで見つめていました。
五助は崩れかかった家に入りました。
きょろきょろと周囲を見回します。
誰も居ません。
五助は自分の短いちょんまげをつかむと、力任せに引っ張りました。
するりと五助の頭が抜け、そこには大きな金色の目を持った紫色の顔がありました。
手には、ふにゃふにゃになった五助の頭があります。
五助の頭はマスクのようなものでした。
「やれやれ、この人型のボディスーツは堅苦しくていなけないな」
五助、いや、ガルダナ星の調査員ペラロは呟きました。
「……明日には、我がガルダナ星より迎えが来る。この地の調査は終わったからな。それにしても、野蛮な生き物だな、人間と言うのは。……まあ、おちえのような人間もいるのだから、滅ぼさない方向で報告をしておこうかな……」
ペラロは大きく深呼吸をすると、再び五助のマスクをかぶりました。
……こうして、昔あった人類存亡の危機をおちえが救ったのでした。
今もどこかで異星の調査員が、人間に扮して人類の存亡について調査しているのかもしれません。
くれぐれも他人への手荒な真似は避けて行きたいものですね。
人間は野蛮な生き物とレッテルを貼られたら、おしまいですからね。
……え? 調査するまでも無い、見ているだけで分かる、もうレッテルが張られているですって?
……それは困った話ですねぇ……
五助は元々が村の者ではありません。どこからともなくふらりとやって来て、いつの間にか住みついたのでした。
だからなのか、五助にされる仕打ちについては、年寄りたちもうるさく言わなかったのです。閉鎖的な田舎の村、しかも、他所者。村八分とまでは行かなかったものの、それに近い扱いを五助は受けていたのでした。
気の毒に思った村の娘のおちえが五助に訊きました。本当は、気の毒に思っただけではないのですけどね。
「のう、五助。何で怒らんのじゃ? おなごのわしでも腹が立つぞえ」
「ははは、こんな程度では腹の皮一枚も立たぬわさ」
「どつかれて、痛くはないのかえ?」
「あんななまくら、ちっとも効かんわ」
「……ほんに、五助は辛抱の強い事じゃ」
おちえは感心するやら呆れるやらで、五助の色白で鼻筋の通った横顔を見つめていました。
そんなある日、おちえはとんでもない事を知ったのでした。村の若い連中で、誰が五助を怒らせるかを競う事を決めたと言うのです。
おちえは五助の所に行きました。
「村の若い衆どもが、われを怒らそうと企んでおるえ。何をされるか分からんぞえ」
「ははは、気にするでないわ、捨て置け、捨て置け」
五助はいつもと変わらない穏やかな表情で、おちえの話を取り合いません。
「大丈夫かいなぁ……」
おちえは心配そうに呟きました。
おちえの心配は当たりました。
それからと言うもの、五助を後ろから殴りつける者、家に猫や犬の死骸を投げ込む者が現れました。
ですが、五助はへらへらしているだけでした。
そして、ついには、畑に植えたものを根こそぎ引き抜く者、五助の家を壊す者まで現われたのでした。
おちえが血相を変えて五助の家に駈け付けました。元々が掘っ立て小屋のような五助の家の壁に穴が開いていました。犬猫の死骸が嫌な臭いを立てています。
「なあ、五助……」おちえは顔をしかめ、鼻をつまみながら言います。「このままだと命も取られかねんぞえ。元々が他所の者じゃろ、村を出れば良かろうが」
「気にするな、気にするな」
「……なあ、わしも一緒について行くだで、二人でどこかで暮らそうや……」
「ほう……」五助は頬を染めるおちえを見ます。「ははは、お前がそこまで決心する必要はねぇわさ。やつらの好きにさせておけば良いのじゃ」
「だども……」
「なあに、あと少しの辛抱だでな」
「何かあるんか?」
「ははは、それは、いくらおちえでも、言えんなぁ」
五助はそう言って、相変わらず笑っています。
さすがにおちえも腹を立てました。
「もう、うんざりじゃ! もうわれの事など知らんわ! これほどに心配しておるのに!」
おちえは怒って行ってしまいました。
五助はおちえの後ろ姿を見えなくなるまで見つめていました。
五助は崩れかかった家に入りました。
きょろきょろと周囲を見回します。
誰も居ません。
五助は自分の短いちょんまげをつかむと、力任せに引っ張りました。
するりと五助の頭が抜け、そこには大きな金色の目を持った紫色の顔がありました。
手には、ふにゃふにゃになった五助の頭があります。
五助の頭はマスクのようなものでした。
「やれやれ、この人型のボディスーツは堅苦しくていなけないな」
五助、いや、ガルダナ星の調査員ペラロは呟きました。
「……明日には、我がガルダナ星より迎えが来る。この地の調査は終わったからな。それにしても、野蛮な生き物だな、人間と言うのは。……まあ、おちえのような人間もいるのだから、滅ぼさない方向で報告をしておこうかな……」
ペラロは大きく深呼吸をすると、再び五助のマスクをかぶりました。
……こうして、昔あった人類存亡の危機をおちえが救ったのでした。
今もどこかで異星の調査員が、人間に扮して人類の存亡について調査しているのかもしれません。
くれぐれも他人への手荒な真似は避けて行きたいものですね。
人間は野蛮な生き物とレッテルを貼られたら、おしまいですからね。
……え? 調査するまでも無い、見ているだけで分かる、もうレッテルが張られているですって?
……それは困った話ですねぇ……
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