「青春は、優しいだけじゃない。痛い、だけでもない。ほろ苦い青春群像劇。」
このアニメの宣伝文句です。
文化祭は、古典部の3人がほろ苦さを味わい、+αのほろ苦さが明らかになる、青春群像劇でした。
+αとは、漫研の河内先輩(cv浅野真澄)が「夕べには骸に」の原作者の友人に対して感じていたほろ苦さ、田名辺総務委員長(cv福山潤)が「夕べには骸に」の作画の陸山(くがやま)生徒会長に対し感じていたほろ苦さ、など。
さて、面白いし、好きだし、書くと長くなるアニメなので、物語の区切りで感想を書いていこうと思います。アニメの途中での感想のため推測をより多く入れざるを得ないので、間違っている解釈もあり得ますが。
11話までは前に書いたので、12~17話の文化祭(カンヤ祭)における「十文字(じゅうもじ)事件」(クドリャフカの順番)の感想を3回に分けて。
4人それぞれの文化祭前夜の状況を12話冒頭で表し、群像劇と推理を経て、17話の最後の方で、文化祭を経た4人の変化を描き、かつ、やっぱり古典部に戻るところ、うまく描かれています。
文化祭の前夜遅くに神社にお参りに行くとか、「氷菓」を売り切れるかで若干の不安な表情は見せるものの、全体として、千反田える(cv佐藤聡美)はワクワクが止まらない、って感じの表情(12話冒頭)。
総務委員会本部への往復の途中、出し物に次々と興味を惹かれ、寄り道ばかりで中々たどり着けないとか(書道部で「米作りは土作り」と書くとか、写真部にコスプレ写真を撮らせるとか、百人一首で勝ってもらったメダルを首からかけつつ手に自分で書いた習字を持って歩くところとか)、好奇心に流されながら浮かれているところも可愛いし(12話後半。文化祭1日目)。
やはり、天然で、好奇心の亡者ですね。
摩耶花(cv茅野愛衣)は、今一つ眠れない感じですが、それは、不安や心配の方が大きいような表情。
夜に起き出して薬を飲みましたが、箱に「寝つきが悪い 眠りが浅い」とあり(12話冒頭)、睡眠薬の類ですね(箱入りなので市販薬と思われ、であれば効き目は強くないはず)。普段からよく服用しているということになるでしょうから、摩耶花、普段から精神的に結構危ない状況なのかも。
一番の原因は、描かれている範囲では、漫研の部員と上手くいっていないこと、意地悪されていること(その原因の一端は摩耶花自身にもあるようですけれど)、かな。そばにいるのにぜんぜん振り向いてくれない里志への片思いから来るストレスでも不思議はありませんけれど、漫研での人間関係の方が辛そうに描かれているし。
だとすると、これは以前から続いていた可能性が高いかと。16話後半のジャージ姿の摩耶花を見て里志が不自然さに気付いていますが、文化祭の話より前に意地悪されている描写があったのかどうかは、記憶にないですけれど。
さて、コスプレして漫研の売り子とか、恥ずかしい様子。また、漫研の、仲の良い友達はいるものの、先輩や同級生の何人かと上手くいっていない様子。
更に、摩耶花の発注ミスで古典部の文集「氷菓46号」を30部ではなく200部も印刷してしまったとか。ほぼずっと眉間に皺を寄せて、眉を「ハ」の字にした困ったような顔をしていて、今までと違う感じ。
やはり、馬鹿正直と言うか、生き方が不器用と言うか、責任感が強いと言うか、真面目、生真面目ですね。
里志(cv阪口大助)は、見るからにワクワク、楽しそうな感じ。趣味と「氷菓46号」のPRのためにイベント(クイズ大会、料理大会)に出るとか。よく笑って、よくしゃべる。でも、土星の大きなかぶりものでクイズ大会はやり過ぎでしょ。
やはり、ピンク系の高校生活ですね。少なくとも表面的には(後述しますが、本当は、かなり辛い状況にあるんですけどね)。
奉太郎(cv中村悠一)は、いつもどおりなのかなあ。一番楽な店番で、ダラーとしているし。
前夜に文化祭のHPを見ていたのか、見ようとしてやめたのか(12話冒頭。15話最後でもHPを見て、通販もあるのかと驚いているので、この時は見なかったのでしょう)。
古典部の皆がエイエイオーとするときに1人だけやや遅れて、ややいい加減とは言え、拳を上げて「オー」と言ったり、アカペラ部の歌が終わったのを見てダラりとしながらも拍手をするとか(12話。文化祭1日目)。
14話の文化祭2日目は、料理大会の始まりのときに「ファイアー」とつぶやいてみたり、料理に困っている摩耶花を見て里志を大声で呼んで小麦粉を投げ落とすとか(15話冒頭で里志から、「驚いたよ」と言われるくらい珍しいことのようで。「祭の空気にあてられただけだ。もうやらん。」と答えていますが)。
文化祭1日目はいつもの奉太郎なのでしょう。でも、2日目以降は、徐々に活動的になっていく感じ。3日目(文化祭最終日)では、事件を解決し、11話以前の自信も取り戻した感じ。
やはり、まだまだ灰色の高校生活には違いませんが、いくらか薄い灰色になってきているのでしょう。
ところで、文化祭パンフを見る時に奉太郎と千反田が同じ側から覗き込むのですが、2人の距離が近づき、千反田の髪が奉太郎の肩に当たるのを千反田は気にした風はないのに、奉太郎は意識して千反田の方をちらりと見て少し離れるとか、恋愛関係も少しずつ進展しそうな様子。髪に神経はないので、千反田は単に気付かなかっただけでしょうけれど(12話前半)。
千反田のコスプレ写真を見つけ、じっと見つめるとか(特にチア姿を)。後で、奉太郎が見ていたことを千反田に気付かれ、また、奉太郎に見られたことに千反田が気付き、互いに無言で汗かいて照れるところとか(13話後半)、事件の解決はどうでもいいが、千反田が気になると言う以上は考えることを避けられない、無視できないと言うところとか(それを聞いた摩耶花に「バカ」と笑われるとか)(15話後半)、奉太郎の中でいろいろと動いていることは間違いなさそうで。
なお、千反田は天然のため何を考えているのか分かりにくいので、と言うか、何を意識していて何が無意識なのかが分かりにくいので、行動と気持ちが一致するとは限らないため、気持ちの動きは何とも分かりにくいところです。
単に、そんな格好の自分を見られて恥ずかしかっただけかも知れないし、ちょっと意識(意識しているとしても、まだ無意識で意識している状態でしょうが)している奉太郎だから照れたのか、良く分かりません。
そう言えば、1人で店番の奉太郎はサン=テグジュペリの「夜間飛行」(1931年)を読んでいました(14話後半だから、文化祭2日目。堀口大學訳だから、またもや新潮文庫)。郵便飛行の創成期に危険な夜間飛行を行う人間の尊厳と勇気を描いたサン=テグジュペリの代表作(私は、「星の王子さま」(1943年)の方が好きですけど)。
嵐の夜に飛び立ったパイロットが行方不明(結局、見つからず)になるものの、それで夜間飛行を終わりにしてはならないとして奮起する支配人で主人公の、経営者として、そして人間としての、孤独と、悩みながらも「一旦道を開いた以上、続けないという法はない」(22章)と言って夜間飛行の継続を決める勇気を描く作品(全23章、100頁弱)。
19章で、行方不明のパイロットの妻が心配して訪ねてくるところ、妻の振る舞いが支配人を感動させ、「あの女は、僕がたずねていたものを見いだす手伝いをしてくれる」と支配人が言うとか。
また、何も無い暗闇を夜間飛行をするパイロットはそれほど孤独には描かれていず、無電で地上とやり取りしながら飛行します。飛行機のみでの飛行は危険なのでしょうから、無電で地上に助けられながら飛行するのでしょう。
両方とも、アニメの13話からの新オープニングで、鏡の中だか、壁の中だか、向こうの世界だかにいる奉太郎を引っ張り出す、千反田と古典部一同をちょっと思い出させます。
「夜間飛行」の最後は、事故にもくじけずに、夜間飛行継続という難しくつらい決断をした支配人をたたえる言葉で締めくくっています。
何だかんだで、1話からすれば他人との関わりも増えてきた奉太郎ですが、11話の入須先輩(cvゆかな)の件もあって、再び、孤独を主とした灰色の高校生活に戻ったのではと推測していたところです。
落ち込んだときに元気の良い本や音楽を見聞きすると逆効果で、却って回復が遅れることがあります。そのときの落ち込んだ気分に合った暗い音楽や本の方がふさわしく、それにより、そのときの自分のマイナスの気分が肯定され、慰められ、そこから徐々に元気の良い音楽や本にしていくことにより、より早く回復に向かうわけです。
そういう意味では「夜間飛行」は、そこそこ落ち込んだ気分にも合い、そこから一歩歩き出すにも妥当であり、つまり、奉太郎がそこそこ落ち込んでいることを表す意味でも、文化祭の間に落ち込んでいる状態から更に一歩抜け出すことを象徴する意味でも、妥当な小説かも知れません。
なお、相当落ち込んだ気分のときに合う小説と言うには少し前向きな部分が多いので、11話で奉太郎はそれ程のショックは受けていなかったとまでは思えないので(かなりのショックを受けていたと思うので)、時間が奉太郎の気分をある程度改善してくれていたのでしょう。
11話直後のエピソードであれば、別の、もっと暗い小説が選ばれたことでしょう。
いずれにせよ、奉太郎は、入須先輩の件を乗り越え、灰色の高校生活から抜け出していく方向に、再び歩き始めるのでしょう。千反田らの助けを借りて。
(奉太郎の姉の役回りについては最初から思わせぶりですが、そこは、何かあればアニメの最後の方で種明かしされるでしょうから、詳細はその時に。)
(その2の、ほろ苦い話に続く)
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shin
ざっく
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