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2025/03/01 sta
前回の章
最近近場での食事が続いたので、少し離れたところへ行ってみようか考える。
弘明寺…、電車で移動となると、さすがに休みの日がいい。
パッと思いついたのが中華街だった。
また市場通り辺りを探索し、一人でも入りやすそうな店を探す。
前回行った醉楼本店の支店だろうか?
近くに『醉楼別館』という店を発見。
入口横に提示してあるスペシャルランチ。
品数こそ本店より若干少なくなっているが、それでも十分豪華だ。
十二品あって値段は千円以下。
ランチタイム時、九百九十円で食べられるスペシャルランチ。
他にも激辛セット九百九十円もあるようだ。
この値段は期間限定十パーセントオフらしい。
今日はここにしてみよう。
スペシャルランチはとりサラダ、ザーサイ豆腐、大根の漬物、海鮮翡翠スープ、棒春巻き、エビ焼売、小龍包、牛肉ピーマン炒め、エビチリソース、チャーハンまたはライス、杏仁豆腐とかなり豪勢。
激辛ランチはとりサラダ、ザーサイ豆腐、大根の漬物、海鮮翡翠スープ、激辛マーボ豆腐、エビ焼売、小龍包、とりのピリ辛炒め、とり手羽元ピリ辛揚げ、チャーハンまたはライス、杏仁豆腐。
先日『ヤンさんの台所』の青唐辛子を食べた時の嫌な思い出が蘇る。
うん、普通のスペシャルランチでいいよな……。
こうした豊富な品数のランチ以外にも、飲茶おかゆセットは六品、チャーハンセット、ラーメンセット共に全九品とバリエーション豊富。
料理は注文してから出てくるのが早いので、作り置きしているのだろうが、この値段なら文句は無い。
二人以上で注文できる笑笑セットは一名千五百八十円、十二品とかなりお得。
今度誰かが横浜へ遊びに来た時に、ここはちょうどいいし、喜ぶかもしれない。
また行ってみようかなと思うお店の一つである。
山下公園の方向へ向かい、ボーっと海を眺める。
どのくらい海を見ていたのだろうか。
海は飽きない。
さて、そろそろ仕事の時間だ。
客層のほとんどはヤクザ者ばかり。
一般人の客など見た事がない。
今、俺が働く店はそんな店であるが、みんなが思っているほど酷い待遇ではなかった。
横浜に来てからもうちょいで一ヶ月になる。
従業員や経営者の人たちは、俺から見てとても人が良く、また優しい。
ギスギスした気持ちのまま新宿をあとにした訳だが、お陰様でそういった暗い感情は日に日に和らいでいく。
現状で言えば、俺にとってこの街へ来て正解だったと言えよう。
何故、正解と感じるのだろうか?
毎日のように違う店を探して食べに行き、目新しい場所を見ては新鮮な気分になれる。
職場での人間関係が非常に円満。
基本的にのんびり過ごす毎日。
給料も以前より高く、勤務時間も短い。
…と、例を挙げればキリがない。
忙しい店で、自身のスキルを活かしながらビシッと仕事するのも嫌いではないが、実はのんびりまったり緩やかにダラケながら仕事するのも嫌いではないのだ。
ここに来る前の池袋の店と比べれば、天国と地獄ぐらいの違いはある。
川越での実家の家族の対応を思い出す。
そんなに俺って、あそこまで嫌われるような事をしたのかな……。
酷さのレベルで考えたら、親父に比べれば俺など可愛いものだ。
伯母さんのピーちゃんは、何故あそこまで俺を全否定したのだろうか?
「……」
いくら考えたところで分かるはずもないか……。
どれだけ仲を良くしようと俺から歩み寄った?
できた溝が永久に埋まる事が無いのを自覚してから、気付けば殺意というものが根底にあった。
決して表には出してはいけない暗く冷たい悪意。
思えば横浜へ突然来たのも、その殺意がいつ爆発するのかが怖かったのだろう。
あのまま川越にいたら、俺は間違いなく人を殺していたかもしれないのだ。
おじいちゃんを悲しませるくらいなら、いっそ事地元を出ればいい。
俺があの家にいたところで、誰からも歓迎などされていないのだから……。
本当にもっと早くすべてを放り投げて、川越を出れば良かったのだ。
坊主さんに過去何度も言われたように、何故もっと早く出なかったのだろう?
おじいちゃんを守りたかったから……。
思わず出る笑い。
俺は全然守れていなかったじゃないか。
四十年以上生きてきた場所を俺は捨てたのだ。
ここへ……。
日々俺は、横浜によって癒やされながら生きている。
昨日は中華街へ行ったので、今日のランチは近場で済ませよう。
そうなると選択肢は一つ、イタリーノしかない。
本日のランチはロースかつと白身魚フライ。
ここはいつでもフライにデミグラスが掛かっているな。
従業員の菅井に仕事後飲みに誘われる。
彼が伊勢佐木モール沿いのマンションに住んでいるのもあり、俺は近くにある『中華一番本店』を勧めた。
二十四時間営業なので、いつ行っても開いているし、また値段も非常に安い。
菅井はしょうが焼き定食。
俺はかうよセットというものを注文してみた。
かうよとは何か聞いてみると、豚の角煮の事らしい。
チンゲン菜と共に煮込んだかうよ、小鉢三つにご飯とラーメンがついて、値段は七百円。
酒を頼んでも二千円でお釣りが来るリーズナブルさだ。
菅井もこの店を知らなかったようで、会計時あまりの安さに驚いていた。
ペヤングのお湯をこぼさず、そのままソースを入れてヤクザ客へ出すような菅井であるが、根は真面目で一生懸命な人間である。
彼はこのまま店に残り、俺は新店へ行くので一緒に働くのもあと数日。
プライベートで横浜の人間と食事へ行ったのは、この菅井が初めてとなる。
水の都横浜。
ネットルームを出て一分も歩かない内に着く大岡川。
長者橋近くの川で泳ぐ鳥。
見ていると何故か落ち着く。
俺はこんなにも、海や川を欲していたのだろうか?
深く考えても意味が無い。
答えなど何も出なかったから、俺は横浜へ来たのだ。
昼飯を食べに行こう。
昨日行ったばかりの『中華一番本店』へまた行ってみた。
気になっていたカツカレーを注文。
ちょっとしたサラダや大きなカツに加え、プラス百円で冷やしラーメンと小鉢までついてくるようだ。
仕事前だし、さすがにそこまでは入らない。
まだ一ヶ月程度なのに、ここといいイタリーノといい、横浜は行きたい店が本当に多い。
仕事へ行くと、また菅井が飲みに行かないと誘ってくる。
前に行った『300宴商人 楽』がいいと言うので、そこへ決めた。
彼も数日で俺がいなくなる事を惜しんでくれているのだろう。
横浜駅根岸道路沿いにある『300宴商人 楽』は、全品店名通り三百円。
カニクリームコロッケを始め、安いので色々なものを注文してみる。
そば飯も頼み、酒も飲む。
手羽元が少し遅れて出された。
二人で飲んで会計が三千円でお釣り来るのだから、最安値の居酒屋である。
野毛を散策中に洋食屋を発見した。
大岡川から一本野毛に入ったところの道だ。
店構えはいかにも横浜の洋食屋という感じ。
『センターグリル』という店名の洋食屋。
ランチメニューも六百円から高いもので千円と非常に良心的。
ここへ今日は入ってみるか。
メニューを眺めるとかなりの品数。
スパゲッティやグラタンに、フライ系などどれにするか迷うくらいあった。
ランチタイムで外の看板に書いてあったものにしようか。
店内は薄暗く、シックで落ち着いた感じ。
上ランチを注文してみた。
チキンカツにエビフライ、そして付け合わせにサラダとナポリタン。
味はぼんやりとしていて、む~…、微妙だったのが残念。
以前行った伊勢佐木モールのブックオフを曲がったところにある『桃山』を思い出した。
雰囲気ある店なのに勿体ないなあ。
店を出て右に行き、十字路の右手を見ると、似たような店が見える。
気になったので行ってみると『センターグリル』の本店があった。
こんな近場で二店舗もある事に驚く。
野毛は餃子の『三陽』といい、近距離で支店を出す傾向が強いのか?
不思議なエリアである。
野毛を探索中、『まぐろや』という変なボロいお店を見つける。
外観は木造で本当にオンボロ。
外に手書きでメニューがあるので見てみた。
まぐろ寿司、まぐろ丼、まぐろ巻、まぐろ刺身定食、まぐろカツ揚げ定食、牛モツ煮込み定食、まぐろ刺身。
モツ煮込み以外、すべてマグロしかない変なお店だ。
鮮度が命のマグロ。
こんな外観で大丈夫なのだろうか?
でも非常に気になる。
この場を去ろうとするも、後ろ髪を引かれるようだ。
今度機会あれば行ってみるか。
横浜に来て初めて働いた店。
それも今日でおしまい。
これから俺は下蔭さんの下に付き、新しい店へのオープン準備と向かう。
しかし新店の内装工事がまだ終わっていないらしく、二日間の休みをもらった。
面倒見のいい下蔭さんは、店がオープンするまでは準備期間として毎日一万円の金を保証すると言ってくれる。
何もしていないのに申し訳ない気分だったが、俺も金に余裕ある訳でもないので、素直にその好意へ甘える事にした。
二日も時間があるので、たまには池袋経由で前の店でも顔を出してみるか。
横浜駅からの湘南新宿ラインで池袋まで行き、以前の古巣であるインカジの『バラティエ』へ寄ってみた。
「岩上さん、お久しぶりです! 元気でしたか?」
早番の篠木と原田が笑顔で俺を出迎えてくれる。
この店の名義である坂田との衝突で因縁があるだけで、俺自身何一つ間違った事をしていないので、堂々とこうして顔を出せた。
遅番に高田が行き、伊達と佐久川のメンバーで仕事をしているようだ。
「久しぶりに岩上さん、何か料理作って下さいよー」
原田は俺の顔を見ると、料理を作れとねだってくる。
俺自身横浜へ行ってからの一ヶ月、料理できる環境でなかった為、久しぶりに『バラティエ』のキッチンを使い、あり合わせの材料でアメリカンクラブハウスサンドを作ってみた。
「有り難く頂きます!」
「原田はいつも大袈裟なんだよ」
おべっか使われるのも、そう悪い気持ちはしない。
いい気分のまま店を出ると、隣のビルのガールバーの従業員が声を掛けてくる。
そういえば以前俺が『バラティエ』にいた頃、よくここのガールバーの店長が打ちに来てくれたっけ。
少しだけ寄ってみるか。
あの時の店長はどうしたか聞くと、店の金を持ち逃げして飛んだらしい。
今は俺に話し掛けてきた従業員が店長になったようだ。
その彼が横に付きながら最近の池袋の現状の世間話をする。
それにしても暇な店だ。
客は俺以外誰もいない。
二時間ほど飲み、会計をするよう伝えると、請求された金額を見て驚いた。
高過ぎる!
何で二時間しかいないのに、二万三千三百円も取るんだよ……。
ついた女にドリンク数杯はご馳走したけど、基本料金一時間三千円だろ?
大方俺の横についた店長の席料などもすべてこっちへ勝手に加算したのだろう。
このような店に行った自分が悪いだけなので、言われた通りの金額を支払いガールバーをあとにする。
こんな事を当たり前にやっているから暇な店なのだろう。
もうここには二度と行かなければいいだけ。
遅番が出勤する時間帯になっていたので、再び『バラティエ』へ顔を出した。
俺が消え、坂田は店打ちで被災地送りで消え、残った高田は店長になり漁夫の利を得た形になる。
高田は俺の顔を見ると、何度も頭を下げながら感謝を述べてきた。
店が暇だったのもあり、終電を逃した俺は朝の始発が出るまで伊達や佐久川と話をして時間を潰す。
谷口や佐藤あみなど俺の顔を覚えている客も、笑顔で話し掛けてくる。
その後新宿に向かい、かつて働いたインカジの『8エイト』へ寄ってみた。
入江と談話しながら店をあとにし、新宿駅へ向かう。
このまま横浜へ戻ろう。
JR新宿駅へ行くと超大混雑ぶりで、原因を聞くと山手線で人が落ち、両方車両が止まって大パニックのようだ。
湘南新宿ラインの乗り場まで、ギュウギュウ詰めで人が溢れかえり、とてもじゃないが電車に乗れるのがいつになるやら……。
仕方ない。
横浜でなくもう一日あるから地元でも戻るかと川越へ向かう。
しかし西武新宿駅も、振り替え輸送で高田馬場から来た乗客で溢れかえっていた。
ようやく地元川越へ到着。
真っ直ぐ横浜へ戻ろうとしたのに、逆方向の川越へ行かざる得ない流れ。
これは何かあるんじゃないかとパチンコをやってみた。
するとAKBの台が二千円で七が揃い、六連荘。
換金すると二万円にしかならないが、昨日のボッタクリガールバーの分は少し戻せた感じである。
クレアモールを真っ直ぐ歩き、先輩である櫻井商店へお邪魔してみる。
横浜での近況を話している内に、腹が減ったので、始さんの和菓子の『伊勢屋』の隣にある『レストランシブヤ』へ寄ってみた。
『レストランシブヤ』へ行くのは久しぶり。
「あら、岩上さん、いっらっしゃい」
一年間は来てないはずなのに、こうして顔を覚えられているのは地元の強みだなと実感する。
メニューを見るふりをするも、いつもここでの注文は決まっている。
ランチ。
八百五十円で串カツ、トンカツ、酢豚にサラダ、それにもう一品ついてこの値段の料理。
本当にこの酢豚はいつ食べても絶品だ。
変わる一品の部分は季節やタイミングによって、鱧の唐揚げや芝海老の唐揚げ、焼売になったりする。
また心配しているだろうから同級生のケンチンのお袋さんの化粧品『加賀屋』へ顔を出す。
案の定現状を根掘り葉掘り聞かれる。
本当の家族以上に、こんな俺を心配してくれるおばさんには感謝しかない。
夜になって櫻井さんところで酒を飲み、そのまままたパチンコ屋へ。
ベルサイユのバラをやったら何と、一回転目で揃う。
こんな事もあるのだなと感心するも、三回連荘して玉数二千発いかず。
その玉を持ち、別の台のカメレオンをやると、今度は二回転目でまた揃う。
こんな日もあるんだな……。
結局また二万円になり、横浜から来た時よりもプラスになっている。
その足で天下鶏へ顔を出し、酒を飲む。
オーナーの田辺と談笑し、終電が近付いてきたので横浜へ向かう。
川越駅で十時四十五分ぐらいの電車へ乗ったのに、湘南新宿ラインは無いわ、横浜まで着いたのは約二時間後。
しかも車内はもの凄い混みよう。
明日の集合は夕方からなので、ネットルームへ戻り、明日は何を食べようか考えている内に自然と眠りについた。
目を覚まし熱いシャワーを浴びる。
何だか無性にマグロが食べたくなった。
野毛のボロい『まぐろや』へ行くか?
それなら美味しいと分かっている横浜橋通商店街の『宝水産』のマグロを食べたほうがいいか。
ネットルームを出てそのまま横浜駅根岸道路を歩き、大通り公園まで向かう。
大通り公園を歩いていけば横浜橋通商店街へぶつかる。
たくさんの魚屋や肉屋を眺めながら商店街を闊歩した。
これだけの店があり、惣菜屋から八百屋まですべてのものが揃う。
この辺に住めたら幸せだろうな。
そんな事を考えている内に『宝水産』へ到着する。
またお決まりのマグロ丼を注文。
昼はこことイタリーノで済みそうなくらい気に入っているお店だ。
下蔭さんから連絡があり、まだ内装工事が終わっていないので、今日もゆっくり過ごしていいと言われる。
夜はネットルームの通りにある『大吉亭』の味噌ラーメンと餃子を食べた。
あ…、降って湧いたような休みだったんだから、弘明寺商店街でも行けば良かったなあ。
まあこれからいくらでも行く機会はあるか。
いよいよ明日から新店舗の準備が始まる。
オーナーである下陰さんの新たな店を出す準備の日が来た。
ただまだ夕方まで内装工事が掛かるようで、福富町西通りにある蕎麦屋の『東京庵』で飯でも食ってこいと言われ、俺と長谷川隆、平田の三人は店へ向かった。
横浜のド真ん中で店を構えているのに、店名が東京庵というのが面白い。
「みんな好きなの注文して。お金は下蔭さんからもらっているから」
店内の造りは完全に蕎麦屋。
俺たちはテーブル席へ腰掛けるとメニューを眺めた。
定番的なメニューだが、定食類も充実している。
俺は鯵フライ定食を注文。
平田は鴨南蛮そば定食。
長谷川は天盛り冷やしおろしそばを頼む。
横浜の各場所や各店の料理の写真を撮る癖がついていたので、二人の食事も撮影させてもらう。
新体制では長谷川隆が名義社長。
俺と長谷川で早番。
遅番は平田と下蔭さんの弟である修さんの同級生の田村という人間が、オープンに合わせて新潟から横浜へ来るらしい。
この日は店で使う小物類の買い出し。
平田の運転でホームセンターなどへ行き、必要なものを買い揃える。
店内は業者が入り一から内装しただけあって、とても綺麗だ。
驚いたのが入口の扉は二重構造になっており、内側の扉に関してはキャッシャー室から鍵のオンオフができる設定になっているところである。
各席のパソコンの設置や椅子の組み立てなどをして、今日の準備を終えた。
拘束が三時間程度なのに、食事も出してくれて尚且つ一万円ももらえる。
この日だけでなく、三日間の休みの分まで一万円ずつつけてくれると言うのだから、下蔭さんの面倒見の良さは群を抜いて凄い。
新宿の時のようにセカセカせず、のんびりなのが横浜の特徴である。
しばらく準備だけなので、暇を持て余す。
しかしネットルーム住まいの俺は、ここで大人しく過ごすしかない。
小腹が減ったので、日の出町駅近くにある洋食屋のミツワグリルでしょうが焼きを食べた。
この店も本当に良心的な価格でいつも感心する。
また夕方になると新店舗へ行き、買い出しはほとんど済んでいるので店内清掃くらいで終わった。
下蔭さんの弟である修さんも現場へ来て「よーし、じゃあ飯行くぞ」とタクシーを呼び乗り込む。
着いた先は焼肉の『我家』。
「遠慮しないで腹一杯食えよ」
数時間の準備をしただけで、焼肉屋にまで連れてってご馳走してくれる。
そのきっぷの良い心意気が素晴らしく思えた。
メニューを見ながら、修さんが適当に注文を言い出した。
「おまえらも食べたいものは勝手に頼めよ」
オーナーの下蔭さんは、兄弟共に本当に気前がいい。
俺が遠慮しながら席に座っていると、長谷川隆が声を掛けてくる。
「ほら、岩ちゃんも好きなものどんどん頼みなって。下蔭さんたちはいつもこうなんだよ」
まずはサラダが出てくる。
キムチやキュウリのナムルなども運ばれ、次々と料理が並べられた。
特上カルビからロース。
ホルモンが自慢の店なようなので、俺はホルモンを注文してみた。
平田はレバーが大好きらしく、お代わりをして食べている。
新入りの俺も、横浜の人間として同様に扱ってくれた嬉しさ。
人を出し抜く人間もいなければ、騙す人間もいない。
暖かいところだな、ほんとに横浜は……。
昨日はたんまり焼肉を胃袋へ入れたので、昼はさっぱりとしたものをと大通り公園へ向かう。
和食一番でネギトロ丼を注文。
どうやらこの場所には長い期間お世話になりそうだ。
心についていた無数の傷が、日に日に癒えていくような気がした。