水村をさまよひ行きし少年時いままなうらにポプラのそよぐ
（大野誠夫「川狩」）
夜のつぎにくるはまた夜、かなしげな魚の眼の中に燈（ひ）ともせ
（塚本邦雄『水葬物語』）
知りたくもないことばかり僕はなぜ ああまっしろい鳥になりたい
（鎌田時江「月光」）
馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人恋はば人あやむるこころ
（塚本邦雄『感幻楽』）
真夜もさびしき日向はありてきみとわが二ふりの太刀花梗（くわかう）のごとし
（塚本邦雄『感幻楽』）
百合とはじかみ賜ひきさはれつゆの身よ夏いつまでの夕ぐれならむ
（塚本邦雄『感幻楽』）
肩甲骨は羽のなごりといふからにピアノ弾きをりこよひ地上に
（栗原 寛『Ｔｅｒｒａｒｉｕｍ～僕たちは半永久のかなしさとなる～』）
火に投げし桔梗の縹（はなだ）一瞬に攣（つ）れつつ告げむここまでは愛
（塚本邦雄『青き菊の主題』）
世界昼つ方より昏れて青年のかきあぐる髪なほ眉おほふ
（塚本邦雄『星餐図』）
紺青の絵具罌粟油（けしゆ）に溶くわれは僕（しもべ） 月光のみだるること
（塚本邦雄『星餐図』）
夜の屋上の架線夫に請ふわが咽喉のおくに燈（ひ）ともすごとき接吻
（塚本邦雄『星餐図』）
黄鶺鴒水をついばみ言葉もてこころあやむることやすきかも
（塚本邦雄『天変の書』）
空蝉のうちに香もなきかなしみの充つるを天にむけし絵ひがさ
（塚本邦雄『感幻楽』）
ほととぎす啼け わたくしは詩歌てふ死に至らざる病（やまひ）を生きむ
（塚本邦雄『泪羅変』）
朝の日に照らされ蜥蜴の残死体 星のかけらをまとひたるまま
（天草季紅『青墓』）
