鶏頭のごときその手を撃ちし刹那わがたましひの夏は死せり
（塚本邦雄『水銀伝説』）
薄気味の悪い屋敷（いへ）だね どの部屋にも草が茂り虫のこゑが満ちてゐる
（松平修文『原始の響き』）
そこでしか会えないひとが蒲が茂り鷭が飛ぶ暗い水辺で待つよ
（松平修文『原始の響』）
恋に死すてふ とほき檜のはつ霜にわれらがくちびるの火ぞ冷ゆる
（塚本邦雄『感幻楽』）
ユッカ驟雨にそよぎて蒼しわれとわが哀しみと刺し違へむ刃（やいば）
（塚本邦雄『花劇』）
らふそくの炎ゆらゆらゆらめいて青きかがみは誘ふやうなり
（天草季紅『青墓』）
つね恋するはそらなる月とあげひばり 柊 ひとでなし 一節切（ひとよぎり）
（塚本邦雄『感幻楽』）
抱擁は、死の静寂に 湖底の森のさむさに
（松平修文『トゥオネラ』）
窓に吊った虫籠に星が満ち、ここを出てきみはモノクロームの都市（まち）へ
（松平修文『トゥオネラ』）
鬱病のはてのくちなし月暈（つきかさ）の色われは恢復を冀（ねが）はず
（塚本邦雄『星餐図』）
「奇麗にして上げます」と息吹きかけて、凍らせて、命と金を盗る森の魔女
（松平修文『トゥオネラ』）
とぢこもる部屋に意識の核として光る金魚をすいさうに飼ふ
（天草季紅『青墓』）
不死草の生えてゐる場所を教へてあげるかはりにわたしを殺してくれるね
（松平修文『原始の響き』）
首よせて絡めあふときてのひらのみどりかたみに発光したり
（天草季紅『青墓』）
てのひらの傷いたみつつ裏切りの季節にひらく十字架の花
（塚本邦雄『水葬物語』）
