ここ数年ずっと愛用していたStork NY 7CからMarcinkiewicz ET2に変えた理由ですが、音そのものはStorkが一番気に入っているものの、一昨年に顔面神経麻痺を発症してから再び楽器演奏出来るまで回復して以降、どうもStorkを上手くコントロールすることが出来なくなってしまい、特にリップスラーでの5度音程以上の跳躍時に音を外したり、音が引っかかったり、滑らかなスラーがかからなかったりと、演奏上の不具合を常に抱えている状態がずっと続いています。また毎日の基礎練習時間を増やしても一向に耐久力が戻らず、すぐにバテてしまいます。その間にも他のマウスピースをいろいろ試してみるも、どうもイマイチしっくり来るマウスピースが無く、試しに以前からずっと気になっていたMarcinkiewicz ET2を買ってみました。しかも試奏もせず、通販で。そしたら、滅茶苦茶良いではないですか。初日から何の違和感もなく唇にフィットしました。
通常新しいマウスピースに変えると、唇が慣れるまでに何日もかかるものですが、Marcinkiewicz ET2は違和感無く、すぐに適合できました。逆にStorkの時は適合するまでにもの凄く時間がかかって、最初の数週間は違和感だらけ、3ヶ月位してようやく完全に適合できました。更に厄介なことにStorkに唇が慣れてしまうと今度はStork以外のマウスピースを受け付けない唇になってしまい、結果的にここ数年はStorkのみを愛用することとなりました。Storkは唇が適合するまでに時間はかかるものの、一旦適合してしまうと、それはそれは大変素晴らしい音色を奏でてくれるマウスピースで、こんなマウスピースは今まで出会ったことがありません。ただし、非常に精度の高いマウスピースなので、奏者側にも完璧な奏法を求められるような部分があり、奏法に問題があるような場合には、コントロールが難しく、とても吹きにくく感じるマウスピースです。
一昨年の顔面神経麻痺発症以前までは、完璧にStorkをコントロール出来ていて、他のマウスピースに変えようなんて気は起こりませんでしたが、経麻痺発症以降、今でもまだ左顔面筋肉の回復が完全ではないため、Storkはどう頑張ってもコントロールすることが出来ません。という訳でStork NY 7Cを使うのは止めよう、という決断に至りました。
で、先月から試しているMarcinkiewicz ET2は、Stork使用時に抱えていた演奏上の不具合がほぼ完全に解消され、顔面神経麻痺発症以前と同じようにストレスなく自由に演奏できるようになりました。じゃあ、Marcinkiewicz ET2はとても素晴らしいマウスピースではないですか!というとそういう意味ではなくて、どんなマウスピースでも長所と短所というか、得意、不得意分野があります。
Stork NY 7CとMarcinkiewicz ET2の特徴を比較すると以下のとおり。
<Stork NY 7C>
<Marcinkiewicz ET2>
【リム形状】
■Stork NY 7C /非常にフラットな面でリムバイトのエッジが立っている。
(特徴)ソリッドで輪郭のハッキリした音を出しやすい。
■Marcinkiewicz ET2/幅広く丸みを帯びてリムバイトのエッジもなだらか。
(特徴)唇の柔軟性が高く、なめらかなスラー演奏が容易。
【カップ面の仕上げ】
■Stork NY 7C /削りの跡をそのまま残してある。少しざらついている。
(特徴)息がひっかかりやすく、抵抗が付くので、力強い音を出しやすい。
■Marcinkiewicz ET2/鏡面のように奇麗に磨き上げてある。
(特徴)なめらかな柔らかい音を出しやすい。
【カップとスロートの境目】
■Stork NY 7C /エッジが立って非常にハッキリとした境目。
(特徴)息の抵抗が付くので、タイト且つソリッドなスピード感ある音を出しやすい。
■Marcinkiewicz ET2/エッジが丸く、なだらかな境目。
(特徴)息がスムーズに楽器に入っていくため、柔らかく広がりのある音を出しやすい。
【重量】
■Stork NY 7C /152g(ライトウェイトモデルで、軽量系)
(特徴)リムに重心があり、素早い音の立ち上がり。
■Marcinkiewicz ET2/120g(とても軽い)
(特徴)金属っぽさが薄く、柔らかい響き。反応は素早い。
【製品品質】
■Stork NY 7C /Stork氏自身による手削りのため個体差が激しい。
(所感)素晴らしい個体と、ダメな個体の差が激し過ぎます。
■Marcinkiewicz ET2/コンピュータ制御による切削加工で個体差が少ない。
(所感)何時何処で買ってもほぼ同品質。
【価格】
■Stork NY 7C /約4万円
(所感)購入に至るまで勇気が入ります。(涙)
■Marcinkiewicz ET2/約1万円
(所感)気軽に買えます。(笑)
【備考】
■Stork NY 7C /外形以外はNY Bach 7Cのレプリカ。
(所感)NY Bach 7Cってこんなんだったっけ?
■Marcinkiewicz ET2/外形以外はNY Bach 11Cのレプリカ。
(所感)そうそう、まさにNY Bach 11Cって感じ!
他にも、カップ形状、スロート径、バックボアなども違うので、それら複合的な組み合わせでそれぞれのマウスピースの特徴が出てくるのですが、大まかな分類分けをすると、Stork NY 7Cはタイトに引き締まったくっきりはっきり音色系、Marcinkiewicz ET2はメロウ&スムースな柔らか滑らか音色系と言えます。あえて分類分けするとこのような両極端な分類となりますが、かと言ってStorkでメロウ&スムースな演奏が出来ないかといえばそういう訳ではなく、Marcinkiewiczでタイト且つソリッドな演奏が不可能かといえば、これも不可能ということはなく、どちらも対応出来ます。要するに、どの部分をそれぞれのマウスピースの持つ長所(得意分野)に頼って(任せて)、短所(不得意分野)は奏者自身がアジャスト(調節)するか、がマウスピース選びにおける最も重要なポイントとなります。
例えば、Stork NY 7Cはタイトに引き締まったスピード感ある音が特徴なので、その部分に関して奏者はケアする必要はありません。その代わり、なめらななスラー演奏においては奏者自身が十分にケアする必要があり、完璧なリップコントロールを求められます。対してMarcinkiewicz ET2は、メロウ&スムースで柔らく滑らかな音が特徴なので、その部分に関して奏者はケアする必要はありません。その代わり、音の粒立ちや音の輪郭などは奏者側で意識してハッキリさせるように調節する必要があります。おそらく世の中に全ての要件を満たすような長所だけのマウスピースは絶対に存在しないと思うので、それぞれのマウスピースによって異なる短所を奏者の方がアジャストさせる必要があります。
そういった意味において、Marcinkiewiczはリップスラー時に音を外してしまう危険性を回避することが出来、リップスラーに関してはマウスピース側に任せて僕自身は特にケアをする必要はなく、Storkの時に感じていたストレスが無くなり精神的に非常に楽になりました。左顔面筋肉がまだ完全ではない状態ではいくら努力してもStorkにアジャストさせることが出来ないのですねぇ。Marcinkiewiczではリップスラーを楽させてもらえる分、音の立ち上がりや粒立ちを良くするために自分の奏法をアジャストさせる必要がある訳ですが、この部分はほとんど苦労することなく、Stork使用時とほぼ変わらない精度で音の立ち上がり、粒立ちを出す事が出来ています。
あとは、697Zの楽器全体にDCTV処理を施して以降、太く力強い音になったと同時に吹奏の抵抗感も強烈に増して、とてもキツい楽器になってしまったのですが、Marcinkiewiczのような軽量マウスピースに変えることによってその抵抗を回避させることができました。太く力強い音でありながらも反応の良いレスポンスで軽快にコントロールできるようになりました。抵抗の強い楽器には軽量マウスピースの方が合っているようです。
約1ヶ月間試してみて、現在の自分のコンディションではMarcinkiewicz ET2の方がいろいろな部分で上手く適合できるようなので、しばらくの間はMarcinkiewiczを使ってみようと思います。そう、まだMarcinkiewicz ET2で決定という訳ではありません。実はあともう2つほど試したいマウスピースがあって、それらと比較検討してみて最終決定したいと思います。
今までの経験から、マウスピースに迷い出すと本当にキリが無く、どつぼにはまりがちですが、今回のマウスピース探しでは自分の目的がハッキリしているので、比較的早い段階でベストな1本に落ち着けるのではないかと思います。今思い起こしてみると、数年前にStork NY 7Cに落ち着くまでに約50本のマウスピースを試行錯誤していたのでした。今はその経験が生きている・・・ハズ、多分。。。
久々の長文、楽器系話題でした。
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