『おこめちゃん物語#3-前編』
お爺さんとお婆さん、それにおこめちゃんやあずきちゃんは長閑で穏やかな暮らしを今日も続けておりました。
「そろそろ昼の支度でもするかいね」
お婆さんが言いました。
そう今日は柴刈も洗濯も無い、言わば休息日のようなもの。
「まだ薪はあるかいの」
と、お爺さんが聞きました。
「そろそろ割っといてもらった方がええかもしれんな」
とお婆さん。
「どれ、じゃちいとばかり薪割りするかの」
そう言って腰を上げたお爺さん。
「おめえたちも来て見るか?」
お爺さんはおこめちゃんとあずきちゃんに声を掛けました。
「ちゃんちゃい!(ニ…ニチャ…シャンシャイ)」
と、ふた粒も嬉しそうに答えました。
外で薪割りを始めたお爺さんと、それを眺める小粒たち。穏やかな時が流れるのだろうと思ったその時です
「マメマメマ~メ!」
と、どこからともなく現れた豆粒が話掛けて来るではないですか。
つまんで持ち上げたお爺さん。無言のまま、家の中のお婆さんに見せに行きました。
「この豆はいんげん豆じゃろか」
お婆さんが答えます。
「そうじゃな、いんげん豆じゃ」
ところで、と前置きして
「そいつも喋るんじゃろか」
とお婆さん。
もう慣れたものです。
「うん、喋る。んでな、名前じゃが…」
お婆さんはゴクリと唾を呑み込んだ。
「こいつは、いんげんさん!」
え?一瞬フェイントを喰らったお婆さんでありました。
なぜいんげん豆だけ『さん』なのかは分かりませんが、とりあえずお爺さんがそう決めたなら、いろいろと面倒くさいし、それで良いことにしようと思ったお婆さんなのでした。
~後半につづく~