『熱を持たない夜』
雨はまだ
降り出してはいない
熱をどこかに
忘れてしまった
無機質な夜だけ
降りてきた
北に行った
あの娘は
初めての一人旅に
出発するらしい
「いい旅を」と
心の中で呟いたなら
いつもの孤独な
晩酌の時間
なんだか
私まで
熱を奪われて
しまいそうさ
付き合いの悪い冷たい夜は
まだ始まったばかり

※某アプリ内に書き下ろしたもの。
『帰郷』
晴れには晴れの
曇天には曇天の
雨には雨の
匂いがあって
なによりこんなに
空が広かったこと
朝に窓から
日が射し込むこと
小鳥がさえずり
猫が軒下を横切る
列車の騒音は
子守唄
そんな当たり前の
様々を
帰郷して
思い出す
黄泉帰りの私の
名残はここに
揺れている

※某アプリ内に書き下ろしたもの。