開口部でのNear Field特性に見られた非常に強い高次共鳴ピークを抑制するために、吸音材の配置を検討しました。主な配置場所としては、1)音道の中間部、2)空気室、3)スロート部、並びに4)開口部、です。
これらの場所に吸音材を配置して、開口部でのNear Field特性の違いを調べました。
〈吸音材の配置による開口部でのNear Field特性の違い〉
1) 音道の中間部
破線は、音道の中間部に吸音材を配置した場合です。青色で示した吸音材の無い場合に比べて、全ての共鳴ピークは低周波数側に移動しています。ただ、2倍音での変化は少ないです。この吸音材によるピーク周波数の低下は、通常のエンクロージャーと同じです。
一方、共鳴ピークの強度をみると、最低音域の再生に重要な基音と2倍音ピークへの影響は1dB程度と小さいですが、それ以降の高次の倍音ピークは、4〜6dBと大きく低下しています。1260〜1800Hzに見られる一連の定在波でも、10〜18dBと劇的に低下しています。
このように、音道中間部に吸音材を配置すると、高次共鳴ピークや定在波の抑制に非常に効果的な事が分かります。
もう少し詳しく共鳴ピークの変化を見ると、基音と4倍音、さらに高次の偶数次ピークに比べて、2倍音では、低周波数側へのシフトや音圧低下は殆どありません。これは、2倍音、6倍音など、(2n)、n=1, 3, 5•••、で表記される倍音では、音道の中間部は、 空気の振動が生じない節に当たりますが、次数が増えるに連れて節と腹が近接します。2倍音での間隔は60cmですが、6倍音では20cmしかありません。このため、音道の中間部に配置した吸音材で、偶数次倍音であっても、2倍音以外では、空気の振動が抑制されて共鳴ピークが大きく低下するものと考えられます。
2)空気室
茶色で示した特性は、音道の中間部と空気室とに吸音材を配置した場合です。基音のピーク位置は殆ど変わりません。2倍音では、音圧変化はありませんが、低周波数側に5Hz程度大きくシフトしています。この他の共鳴ピークでは主に音圧が、1〜3dB程度低下しています。
このように、空気室内部への吸音材の配置は、音道の中間部への配置に比べると効果は少ない印象ですが、基音には全く影響を与えずに、2倍音のピークのシフトだけに影響を与える、ことが大きな特徴です。
3)スロート部
空気室と繋がるスロート内部に吸音材を入れると、共鳴ピークの低下度合は、2倍音>4倍音>基音≒高次偶数次ピーク、となりました。
スロート部への吸音材の配置は、最低音域の再生に重要な、基音と2倍音の共鳴ピークにも大きく影響を与えるので、吸音材の量や種類を慎重に検討する必要があります。
4)開口部
開口部に吸音材を入れると、その量と種類にもよりますが、全体的にSPLが大きく低下する場合がありしました。
以上の検討から、最低音域の再生に重要な基音と2倍音の共鳴ピークは出来るだけ低下させずに高次の共鳴ピークを減衰させには、吸音材を「音道の中間部」、「空気室内部」や「スロート部」に適切に配置することがポイントになりそうです。
なお、吸音材の検討に当たり、バッフル板を取り外しできるようにしたのは、大正解でした。
〈続く〉